〈エミ視点〉










沙優ちゃんの部屋のインターホンを押しても

返事はなく…〈外にいる〉とLINEを送って

一階のオートロックの前にずっと座っていた





( ・・・22週未満まで… )






座ったまま自分のスマホで色々調べていると

手にポタッと水滴が落ちてきて

顔を上げると明るい空から雨が降り出し

通り雨かなと立ち上がって

屋根のあるエントランスの前に移動した






( ・・・痛くないのかな… )






手術方法などを見て

お腹の赤ちゃんに…痛みはないのかなと

降り注ぐ雨を見上げながら思った…





赤ちゃんの声は聞けないし

本当に痛みを感じないのかなんて

分からないんじゃないかと思ったから…





雨の雫が少しずつ小さくなっている事に気付き

少し手を伸ばして掌に雨を受け止めていると

ガチャッとオートロックの鍵が開く音がして






振り返るとメイクがヨレて

唇をギュッと噛んでいる沙優ちゃんの姿があり

「・・・ッ…」その唇も…手も小さく震えている






「・・・・柚茶…飲みながら話そう?」







沙優ちゃんの手をそっと握ってそう言うと

沙優ちゃんは手を握り返してきて

「ごめんね…」と謝ってきた






きっとさっきの事だろうと思い

「何のこと?笑」と小さく笑いながら

沙優ちゃんの手を引いて歩き

カオル先輩がよく首を傾けて

「ん?何のこと?笑」と

私に笑いかけていた事を思い出し

うつったのかなと少しだけ自分の口元が緩んだ…






沙優ちゃんの部屋へとあがり

キッチンで二人分の柚茶を煎れてから

クッションを抱きしめている

沙優ちゃんの隣りに座った





「イルミネーション…」





サユ「・・・・へっ…」





「少し離れた所にね12月になると

 お家を綺麗にイルミネーションする人がいるみたいで」






サユ「・・・・・・」





「最初は…趣味だったらしいんだけどね?

 一年経つごとにどんどん凄くなったみたいで

 今じゃその町から補助金が出てるんだって」





サユ「・・・・・・」






「皆んなが観光地みたいに見に来るんだって!笑

  見てみたくない?」





サユ「・・・12月…?」

 

  



「それまでに…」





沙優ちゃんの手を握って

「沙優ちゃんにはペーパードライバーを

 卒業してもらわなきゃだね?」

そう笑って言うと沙優ちゃんも

小さく笑って「無免許」とイヤミを返してきた…






サユ「・・・ゴム…つけてたから…」

   




「・・・・・・」





サユ「そんな事…ありえるはずないって…」






沙優ちゃんは笑った顔をクッションに埋めてから

私の手をギュッと握りゆっくりと話し出した…




今日まで〝妊娠〟は絶対にないと…

少し遅れているんだと…ずっと思っていたらしい…





部屋に帰って来てから

私の様にスマホで色々と調べていると

自分の体調や体の変化に

妊娠初期症状と重なる事が多くあり

段々と怖くなったと話す沙優ちゃんの

声は泣いていて

不安でたまらないんだと分かった…





( もし私だったら… )






怖いと思った…

カオル先輩がどんな反応をするのかも不安だし

まだ学生で…卒業まであと半年近くもあるし…

皆んなにまた…噂される毎日は嫌だった…





泣いている沙優ちゃんを上からギュッと抱きしめ

沙優ちゃんの不安はもっとだろうと思った…





シュウ先輩とは…もうずっと会ってもいなく

身体関係があったのは去年までで…





店「パートナーは?」





沙優ちゃんの相手はアキラ先輩だろう…

でも沙優ちゃんとアキラ先輩は恋人関係ではなく




好きでもない人の子供が…

まだ20歳になったばかりの

自分のお腹の中にいるかもしれないと思うと

一人で…怖かったはずだ…




沙優ちゃんはシュウ先輩の事を忘れて

「私だけを見てくれる人がいいの」と

やっと前を向き始めたばかりだったのに…





( だけど…もし…もしも妊娠なら… )





「・・・沙優ちゃん…検査しよう…」





私の言葉に沙優ちゃんの肩が小さく揺れたのが

分かったけれど沙優ちゃんを抱きしめている力を

更に強めてもう一度「検査しよう」と言った





「検査薬買ってきたから…」





サユ「・・・・・・」





「・・・もし妊娠なら…

  一日、一日経つごとに…成長するし…

  赤ちゃんが可哀想だよ…」





サユ「・・ッ…」





「きっと…沙優ちゃんが不安な様に…」






妊娠の事も…

赤ちゃんの事も何の知識もないから

よくは分からないけど…




小学生の時の授業で

お母さんと赤ちゃんは〝へそのお〟という物で

繋がっていると習ったから…

今の沙優ちゃんの声も…不安も…

全部が赤ちゃんに伝わっている気がして…

可哀想だと感じたから…






( きっと…沙優ちゃんは産まない… )






それなら一日でも早く…

不安の無い温かい空の上に

返してあげた方がいいんじゃないかと思ったから…





「検査して…一緒に考えよう?」



 


サユ「・・・ぅん・・」





沙優ちゃはクッションに顔を埋めたまま

去年の入学式の日の事を話し出し

隣りに座っていた私を見て

自分よりも体が小さく

中学生みたいだなと思っていたと…






サユ「話し方も…ゆっくりで…おっとりしてて

  きっとフワフワとした

  感じの子なんだろうなって…」






「・・・・・・」






サユ「だけど…笑実ちゃんはいつも凛としてて…

   可愛い見た目なのに…

   性格も面白くて可愛いのに…

   いつも…カッコいいよね?笑」






初めて人からカッコイイと言われたなと思い

「沙優ちゃんは可愛い過ぎるかな」と言って

甘い匂いのする沙優ちゃん抱きしめた





沙優ちゃんが検査薬を手にして

トイレに入ったのは

19時を過ぎていて…




キッドに浮かんだマークを見て

声を上げて泣き出し…





サユ「ダレにもッ…しっ…られたく…なぃ…」






沙優ちゃんの言葉はあの日…

店長から襲われそうになった後に

カオル先輩の胸の中で私が言ったものと同じだった…





沙優ちゃんの不安も気持ちも

少しだけ分かる気がして

床に座りこんで泣いている

沙優ちゃんを抱きしめながら

「大丈夫だよ」と…

あの日のカオル先輩の様に

何度も囁いた…












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