〈エミ視点〉







「あっ…ほうれん草安い!」





膝を曲げて段々型に陳列されている

ほうれん草を手に取って

おひたしかシチューにしようかなと考えていると

「今日は早いね?」とカヨさんから声をかけられた


 




「はい、今日は15時までだったので」





カヨ「ほうれん草いいだろ?今日のイチオシだよ」





そう言って「夕飯は何にするの?」と

私の手にあるほうれん草を手に取って

段ボールで出来た陳列棚に戻すと

「コッチの方がいいね」と言って

色が濃ゆくて葉が厚い物を

選ぶと良いと教えてくれた






「ほうれん草の…おひたしにしようかと思って

  何か体にいいレシピないですか?」





カヨ「レシピ?笑」





「この前カヨさんから教えてもらった

   茄子のステーキ風とっても美味しかったです」






そう言うとカヨさんはニッと笑って

「テルちゃん!いい肉ある?」と

向かいのお店のおじさんに声をかけ

私においでと言って

おじさんのお店に近づいて行った






テル「カヨさんとこの姪か何かか?」





カヨ「上にある学校の学生さんだよ!笑」






おじさんは「学生?」と不思議そうに私を見た後に

スーパーじゃなくてわざわざここまで来てるのかと

驚いたように問いかけてきた





カオル先輩の部屋の荷物を取ってから…

大学の前にあるスーパーには行ってなかった…




近くに他に買い物出来る所がないかと歩いていたら

この小さな商店街通りを見つけ

この一週間近くここで買い物をしている







( ・・・・先輩達に会いたくなくて… )






テル「よしっ!大サービスだ!笑」






おじさんは「切り落としだが持っていきな」と

牛と豚肉の切り落としを袋に詰め出してくれて

財布を取り出すと「今日はサービスだ」と

カヨさんみたいにニッと笑って差し出してくれた





いいのかなと思いながら

お礼を伝えて受け取り

カヨさんから細切れを使った料理を

何個か教えてもらいビニールを袋を手に

商店街を抜け「あっ…」と

買い忘れている物を思い出して

近くにある薬局に入って行った





初めて入るお店で陳列の案内札を見上げながら

歩いていると「笑実ちゃん?」と

名前を呼ばれゆっくりと顔を向けると

ユウト先輩が立っていて

その後ろには知らないお姉さんがいた…





( ・・・・美保さんじゃない… )





ホッとしたような残念な様な気持ちで

「お久しぶりです」と距離をとりながら

頭を下げるとユウト先輩は私の手にある

買い物袋をジッと見た後に小さく笑った






ユウト「お散歩ついでに買い物かな?」





「今日は…ちょっと…はい…」






隣りのお姉さんは私を不思議そうに見て

「だれ?」とユウト先輩に問いかけると

先輩は「彼女の友達だよ」と笑って答えた






女「あぁ!下着屋さんのね!」





ユウト「そう!ちょっと二人で話していい?」






ユウト先輩がお姉さんにそう言うと

お姉さんは「メイク売り場にいるね」と

言って離れて行き…

先輩は私に顔を向けて

「別れちゃったんだってね?」と問いかけてきた…






「・・・はい…」





ユウト「・・・・皆んな残念がってたよ?」






先輩の言葉に握っていたビニール袋を

更にギュッと握りしめて

顔を先輩の足元へと落とした…






ユウト「ツカサも…ヒョウも…

   美保ちゃんや俺もね?…残念だなって…」





「・・・すみません…」






美保さんからは沢山アドバイスしてもらったし…

選んでもらった下着も…

プレゼントしてもらった下着も…

今はもう…私の手元には一つもなくて…





少しずつ先輩との日々が

〝過去〟になっていっている…





ユウト先輩は私を「美保さんの友達」だと紹介した…

「友達の元カノ」と言わずに…





( きっと気を遣ってくれたんだ… )





だけど…その気遣いが余計に

先輩は過去なんだと突き付けられた気がした…





もう今の私は

カオル先輩のお気に入りでも…ペットでもなく…

ただの…〝過去〟なんだ…






ユウト「・・・・ねぇ…別れた理由さ…」





「・・・・・・」





先輩の気まずそうな声に

顔を俯けたままでいると「妊娠…」と聞こえ

ゆっくりと顔を上げると

ユウト先輩は眉を下げながら

私が立ち止まっている棚の数歩先にある

妊娠検査薬を控え目に指をさしていた






「ちっ…違います!!

  あの…むしろ…その…アレです…」





そう言って更に奥の棚にある生理用品コーナーを

チョンッと指差して伝えると

ユウト先輩は「あっ…あぁ…」と

照れた笑を浮かべて目を泳がせている






ユウト「だよね…いや、美保ちゃんが

  「もしかして」とか言っててさ…

  たまたま笑実ちゃん見かけたら

  この棚に足を止めたから

  もしかしてって漁ったよ…笑」






「・・・・焦る?」






ユウト「もし妊娠だったら

  カオルに何も言わないなんてないしね」





「・・・・・・」







ユウト先輩と別れて

生理用品コーナーでナプキンを数個手に取り

「はぁ…」と小さくタメ息をついて

レジへと向かった…


















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る