〈エミ視点〉








「・・・・はぁ…」





一週間ぶりに学校に来てみると

数ヶ月前の様に私に対して視線が集中していて

始めは戸惑ったけれど教室や廊下ですれ違う子達の

会話が耳に届き理由が分かり…




気まずさから移動教室途中にある

トイレへと入り講義開始ギリギリまで

時間を潰そうかと思っていると

廊下から近づいてくる数人の声に

慌てて個室トイレへと入った






女「えっ…えっ!?ホントに??」





女「ふふ…ホント!笑」






知ってる声じゃないから

違う学科の子か一年生達だろうなと

思いながら出て行くのを待っていると

聞こえてきた会話に一瞬息が止まった…





( ・・・・・・ )





一週間前に…カオル先輩から

「帰って来なくていい」と言われ

私は「分かりました」と答えた…




先輩の言葉の意味はちゃんと理解していたし

それに同意したのは自分だから…





( なに…泣いてるんだろう… )






頬にゆっくりと流れ落ちてくる涙を感じ

手で拭き取りながら声や鼻を啜る音を

立てない様にしていると

「時間ヤバイ」と女の子達が出て行く

足音を聞きバックにあるハンカチを取り出した





講義開始の音が聞こえ

静かになった廊下に安心して

扉を開けて鏡に映る自分を見て

「情けないな…」と呟いて手を洗った




バックにハンカチを戻す時に

カオル先輩の部屋の鍵がついたままの

キーケースが目につき返さなきゃと思い

スマホを取り出して

先輩にLINEをしようと思ったけれど

さっきの子達の会話がよぎり

打とうとしていたメッセージを消して

一週間前のLINEのやりとりに目を止めた





( ・・・先輩…お昼から講義だ… )





鍵だけじゃなく

先輩の部屋に置いてある

自分の荷物の事も思い出し

このまま講義には出ずに先輩の部屋に

荷物を取りに行こうと思い

誰もいない廊下を早足で歩き

正門を出てカオル先輩のマンションの方へと

足を向けたけど直ぐに歩く足を止めた…





「・・・・遠回りしよう… 」





先輩のマンションの方面には

シュウ先輩のアパートもあり…

先輩達と鉢合わせになるかもしれないと思い

少し遠回りなる別の道の方へと足を進めた





先輩のマンションへと着き

鍵を取り出してオートロックを解除しながら

一週間ぶりに入る部屋に少し緊張をしていた





玄関をそっと開けて

先輩の靴がない事に安心してから

足をふみいれ鼻をかすめる香りに

「こんな匂いだったけ…」と小さく呟いて

廊下を歩いて行きリビングの扉を開け

一週間前と何も変わっていない部屋を見渡し

また目の奥がジンワリと熱くなっていく…







カオル「・・・・意味…分かってんだよね」







「・・・・分かってなかったのかな…」






カオル先輩はよく怒るけど…

優しくて…私を大切にしてくれていた…





だから心のどこかで

時間が経てば許してくれるって

勝手に甘えていたのかもしれない…





別れると言う事は…

カオル先輩は私の彼氏ではなくなり

私は…カオル先輩の彼女じゃなくなる…






女「カオル先輩と…昨日…しちゃった…笑」






先輩が他の子とそう言う事をしたとしても…

何も悪くないしせめる事も出来ない…





「・・・ハァ…ッ…」





涙で乱れる息を整えて

教科書を取り出して紙袋へとつめていき

洋服のある寝室へと向かい




クローゼットを開け洋服の量を見ながら

また小さくタメ息を吐き

タクシーを呼ばなきゃダメかなと思った





この8ヶ月近くずっと

この部屋に住んでいて荷物の量も多く…

きっと先輩も邪魔だと思ってるだろうし

今日で全部運び出したかった…






カオル「学校の教科書とか

  アパートに色々あるやつ持っておいで」






まさか別れるなんて思ってなく

いらない物まで沢山持って来ていたなと

小さく笑みを溢しながら何度も涙をを拭き

洗面室にある下着の入った棚を開け

口に手を当てながらゆっくりとしゃがんだ





この部屋中にはカオル先輩と過ごした

幸せな思い出が多すぎる…

キッチンも…ソファーも…

だけど…私の初めてを捧げた

先輩との甘い思い出がやっぱり1番で…





この棚の中にある下着全部には

カオル先輩との幸せな記憶があった…





( でも…もういらない記憶だから… )





先輩が他の子にも

そんな甘い時間を与えたんだと知り

付き合う前とは違って

嫉妬でおかしくなりそうだった…





先輩達からのプレゼントでもらった物もあるけど

コレを自分のアパートに持って帰ると

きっと私はカオル先輩を忘れられない…





そう思って中身が見えない様に

紙袋に入れてから…ゴミ袋に入れて

タクシーに乗る前に一階にある

マンション専用のゴミ捨て場へと置いた





タクシー人に手伝ってもらい

全ての荷物をタクシーに積み込み…

自分のキーケースから

先輩の鍵を取り外して

ロックつきのポストへと入れ…






「・・・・ありがとうございました…」






先輩との思い出は幸せ過ぎるものばかりで

出てきたのはこの言葉だった




タクシーで自分のアパートへと戻り

荷物を整理しながら…

先輩への気持ちもゆっくりと整理していった…




どんなに泣いても…

あの日…門限を守れなかった事を

後悔はしていないから…





















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