〈コウ視点〉








9月に入って後期授業も始まり

学校帰りにいつものファミレスで話していると

カオルのスマホが鳴り出し

「チワワ?」と画面を覗き込んだヒョウは

そのまま通話ボタンを押しニヤニヤとした顔で

カオルを見ている…





カオルは小さく呆れた様な笑みを溢してから

「もしもし」とテーブルに置かれている

スマホに向かって話しかけると…






「お疲れ様です…あのっ…その…

  就職係に行かなくちゃいけなくて…」






自分のスマホの画面に目を落とし

平日の門限は18時だった筈と思いながら

しどろもどろな話し方の笑実ちゃんに

不思議に思いカオルに顔を向けたが…





( ・・・・まぁ…そうなるよな… )





シュウも下唇に手を当てて

カオルの横で微妙か表情をしているから

このテーブルにいる5人全員が

笑実ちゃんの下手くそな嘘に気付き

カオルに言えない何かがあるんだと分かった…






カオル「・・・就職係か…

   それはちゃんと行かなきゃダメだね」






そうスマホを見下ろしながら話す

カオルは…目を細めて頬杖をついていて…

明らかに機嫌が悪い…





( 門限延長位で済めばいいけど… )






「はい…あの…もしかしたら

  帰りが門限を越えてしまうかもしれないので…」





カオル「・・・・・・」





ヒカル「・・・・・・」






ヒョウが「チワワ」と声を出しそうになると

隣りに座っているカオルが

眉間にシワを寄せた鋭い目つきで顔を向け

ヒョウは手前にある

メロンジュースのストローに口をつけた…






「あの…先輩?」



 


何も答えないカオルに不安になったのか

笑実ちゃんは不安気な声で

カオルを呼んでいる…





( 嘘が下手すぎるのもなぁ… )





あと半年もしないで卒業をする

笑実ちゃんが就職係に行く事は

おかしくも無いし当たり前の事だが

面接先も何も決まってなく

15時半前の今から18時過ぎまで

就職係に留まる事なんてまずないだろう…





( 面接の練習でも…せいぜい1時間だ… )






「・・・はっ…20時…までには帰ります…」





コウ「・・・・・・」






何をする気なんだと小さく息を吐きながら

カオルに目を移すとカオルは

「はぁ…」と機嫌の悪いため息を吐き

「20時?」と問いかけた






カオル「門限の意味分かってる?」





「・・・・ごめんなさい…」





カオル「・・・・・・」






俺は来月のカオルの誕生日が

頭をよぎり「カオル」と言おうとした瞬間

「帰って来なくていい」と聞こえた…






カオル「門限を守れないなら

   もう帰って来なくていいよ」






ヒョウ「・・・・・・」






カオルの冷たい声色に

皆んなカオルが本気で言っている事が分かり

動きを止めたまま固まっている…






( 帰って来なくていいって… )






カオルはスマホを黙って見下ろしながら

笑実ちゃんの答えを待っていると

「分かりました…」と小さく聞こえた






カオル「・・・・意味…分かってんだよね」





シュウ「・・・・・・」






少し沈黙が続いた後に

「はい…」と聞こえ…

カオルは通話終了ボタンを押すと

直ぐにファミレスから出て行ってしまった…










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る