〈コウ視点〉










( ・・・・門限…16時ねぇ… )





範囲プリントを見ているフリをして

目線だけカオルに向けると

カオルは少しだけ頬をピクリとさせた後に

呆れた様な笑いを浮かべていて

カオルの視線の先にいる笑実ちゃんの方を見ると…





( ・・・・いじけてるな… )





笑実ちゃんは包丁で何かを切りながら

口元が小さく動いていて

その唇は少しとんがっている…




誰に向けてぶつぶつと文句を言っているのかが分かり

気がつけば俺の口元もさっきのカオルの様に

笑みが溢れていた




最初は絵に描いたような忠犬で…

付き合いだしてからも

カオルを見るだけで尻尾を振っていて

まさにペットとご主人様の様だったが…






( コレはコレで面白いな… )






カオルは笑実ちゃんを

放し飼いにする気はないらしく…

連絡が取れなかったりすると

不機嫌になり探し回るし

夜中いなくなった日は

きっと寝ないで探していたはずだ…




門限は罰もあるんだろうが

笑実ちゃんがまた何処にいるのか

分からなくなるのが嫌で…

家にいないと落ち着かないんだろう…






( 9月が終わっても…あるだろうな…笑 )






きっと何かしら理由をつけて

門限を延長するんだろうと

目の前のカオルにも

呆れた笑みを送っていると

「あの…」と笑実ちゃんが声をかけてきた





「カレーに…その…ニンニクを

 少し入れるんですけど…大丈夫ですか?」





ヒョウ「甘いカレーじゃないの?」





「今日はビーフカレーにしようかと思って…」





甘党のヒョウはスクッと立ち上がると

キッチンへと歩いていき

「前食べたサツマイモの入ったのがいい!」と

ダダをこねている…





シュウ「俺は大人風の味付けの方が好きだから

   好きなだけいれていいぞ?笑」





ヒカル「サトルいたらうるさかっただろうね?笑」






ヒカルの言葉を聞いてなんでワザワザ

笑実ちゃんが確認してきたのかが分かり

眉を釣り上げて笑実ちゃんに文句を言っていた

サトルの顔を思い出した…






ヒョウ「ん!?もうルゥいれるの?早くない?」


 




「カレーは元々は煮込み料理だから

 煮込んでる時にルゥを少し入れてあげるといいって

  うちのお母さんが言ってたんです…」






ヒョウ「へぇ……コンソメ?」






「ビーフコンソメです

 煮込み時間少ないから

 ビーフの味が出にくいと思うので」






文句を言いに行ったまま帰って来ないで

キッチンで笑実ちゃんの料理を眺めている

ヒョウに勉強しろよと呆れながらも

聞こえてくる会話を聞き

美味そうだなと夕飯が楽しみになった





18時前には笑実ちゃんの作った

ビーフカレーとサラダを食べたが

前回食べた甘めのカレーと違い

シュウが好きだと言っていた

大人よりなカレーで皆んな「美味い、美味い」と

連呼しながら頬張っている





笑実ちゃんは皆んなのグラスを見て

新しい麦茶のボトルを冷蔵庫から取って来て

テーブルの真ん中に置き

まさに良妻タイプだなと思い

一家に一匹の感覚で俺も欲しいなと感じた






シュウ「・・・・コレ笑実ちゃんか?」





俺達はそのまま帰らず

カオルの部屋で試験勉強を続けていると

ベランダにタバコを吸いに出ていたシュウが

何かを見つけた様でカオルに問いかけていた





シュウ「オレンジか?」





カオル「あぁ…ドライフルーツね?」





シュウの言葉に半分眠りかぶっていたヒカルが

「ドライフルーツ?」とベランダに走って行き

俺もどんなのだと思い立ち上がって

ベランダに出てみると

木で出来たカゴの中にポテトチップスの様に

スライスされたオレンジがあり驚いた






コウ「食べれるのか?」





カオル「笑実ちゃんは

  食用じゃなくてアッチに使ってるよ」






カオルの指差す方向に顔を向けると

壁にかけてあるリースにさっきベランダで見た

パリパリのオレンジも一緒に装飾されてあり

「つけたのか?」とカオルに聞くと






カオル「つけたって言うか

   アレ作ったの笑実ちゃんだからね?笑」






カオルの言葉に俺もシュウ達も驚き

早足で壁に近づいてリースを眺めると

雑貨屋で売られている大量生産型とは違い

凝ったデザインで…ハッキリ言って上手い…





( ・・・ハンドメイドってやつか… )





ヒカル「・・・売り物じゃん…」





ヒカルの言う通り店に値札を付けて置いてても

おかしくない品だなと感心していると

カオルはキッチンへと行き「コーヒー煎れるけど」

と紙コップを取り出したから「頼むわ」と言って

また壁にかかっているリースに顔を向けた





カオル「ヒョウは…寝てるからいらないね」





2時間経ったら起こしてと

仮眠を取っているヒョウに目を向け…

夜中の2時だしなと思いながらも

俺は笑実ちゃんの意外な才能を知り

目が冴えていた





シュウ「なんたら教室みたいなのに行ったのか?」





ヒカル「なんたらって何?笑」





シュウ「女の子が好きそうなヤツだよ…

  映えみたいな写真を撮りまくる為の

  お料理だのお花だの一回だけの教室があるだろ?」

   





シュウは基本女子には優しいが…

料理でも何でもSNSにアップする写真を

ダラダラと撮る子達があまり好きじゃないらしい…






( 優しいんだか優しくないんだか… )






カオル「実家のお店の入り口に飾るリースを

  シーズンごとに子供の頃から作ってたみたいだよ」





コウ「あぁ!パン屋だったな!」

    





なるほどなと納得してカオルの側へと行き

コーヒーの入った紙コップを受け取り

「ミルクくれよ」と言うと

カオルは「笑実ちゃんじゃないんだけど」と

笑いながら冷蔵庫から牛乳を取り出して

少しだけ注ぐとスプーンを差し出してきた






コウ「笑実ちゃんなら

  混ぜて差し出してくれるのにな」






カオルは「ヒョウみたいな事言うね」と笑い

壁のリースに顔を向けてブラックコーヒーを一口飲むと

「ずっと家にいたからね」と呟いた






ヒカル「門限は8月からだろ?」





カオル「コレを作ったのは6月頭位だったよ…」






カオルの言うずっと家にいたの意味が分かり

混ぜ終わったスプーンをシンクに置いて

温かいコーヒーを口に運んだ





カオル「友達に作ってあげたいみたいだよ」





カオルはシュウにコーヒーの入った

紙コップを差し出しながらそう言い

「仲良くやってるよ」と寝室のドアに顔を向けた





シュウはコーヒーを受け取り

「そうか」と小さく返事をして

眉を下げて困ったような…

申し訳ない様な表情を浮かべながら

「そうか…」ともう一度言って少し笑った





沙優ちゃんと笑実ちゃんが

また仲良くやっているんだと分かり

シュウも安心したんだろう…






シュウ「・・・・カオル…

   個人的な頼み事なんだが…」






カオル「・・・・・・」






シュウ「その…笑実ちゃんの門限な…

   ちょっとだけ緩めてやってくれないか?

   沙優ちゃんと遊んだりもあるだろうし…」






ヒカル「・・・・・・」






カオル「沙優ちゃんなら昨日泊まりに来てるよ」






カオルの言葉に思わず「はっ!?」と言って

コーヒーを溢しそうになり

「泊めたのか?」と確認すると

「仲良く再試の勉強してたみたいだよ?」と

テーブルの方へと歩いて行ったが

俺はシュウ達と顔を見合わせて驚いた…






カオルは…

他人が自分の部屋にあがるのが…

本当に好きじゃない…

今年の頭にあった後期テストで

たまたまカオルの部屋に押しかけて泊まったが…

カオルの部屋に泊まるのはあれが初めてだった





( 女の子だって…確か一度も… )





俺の知る限りじゃ

笑実ちゃんが初めてじゃないかと思っていると

シュウが「泊めた?」とカオルの側に近づいて行き

再度問いかけていていた






カオル「門限がある笑実ちゃんは

   泊まりには行けないからね…

   今度はパン作りに来るって言ってたよ」





コウ「・・・・・・」






カオルが笑実ちゃんに門限をつけたと聞いた時は

また躾に近い愛情をと少し呆れていたが…

カオルはカオルなりに

笑実ちゃんを大切にしているんだと思った…





寝室に入る前に「お先に失礼します」と

会社の退勤挨拶みたいな事を言う

笑実ちゃんに皆んなで笑ったけど

カオルが「おやすみ、笑実ちゃん」と言うと

笑実ちゃんは俺達の前で少し恥ずかしいのか

頬を赤くして「おやすみなさい」と扉を閉めた





唇を尖らせて文句を言っていても

根っこは変わらない従順な笑実ちゃんに

「ふっ…」と笑いがでた





シュウ「カオル…ありがとな…」





カオル「シュウからお礼言われる事じゃないよ?笑」





シュウはカオルにそう言うと

コーヒーをゴクゴクと音を立てて飲み

「はぁッ!!やるか!」とペンを握って

勉強を再開した





シュウも気にかけてたんだろうなと思い

隣りの部屋ですやすやと寝ているであろう

笑実ちゃんにほっこりとした気分で朝を迎えると…






ヒカル「・・・ひじき…」





コウ「・・・・美味いのか?」






次の日の朝に笑実ちゃんが出してきた

朝食はひじきのサンドイッチで

半年前の納豆トーストと同じ衝撃が走った…












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