〈エミ視点〉








再試験を終えて

早足でカオル先輩のマンションへと帰ると

玄関に大量の靴があり

先輩達が来ているんだと分かった





そっと扉を開けて中を覗くと

テーブルを囲んで座っている姿が見え

コッチに気づいたヒカル先輩が

「お帰り」と声をかけてきた





先輩達を避けていた事に少しだけ罪悪感があり

「ただいま戻りました…」と扉を閉めながら言うと

シュウ先輩が顔を上げて「どうした?」と聞いてきた






カオル「しばらく会わないうちに

   人見知りになったみたいだね?笑」





「・・・・そうゆうわけじゃ…」





シュウ「人見知り?笑」






何となく目が合わせずらくて

キッチンへと行き用もない冷蔵庫を開けて

気まずさを感じていると

ピーピーと冷蔵庫から音が鳴りだし

慌てて麦茶のボトルを手に取り扉を閉めた





麦茶を注いでいると

「チワワ俺にもちょうだい」と

ヒョウ先輩の声が聞こえ

飲み物出してないのかなと

テーブルに目を向けると

先輩達の前にはペットボトルの

ジュースやコーヒーが置かれていた





人数分の麦茶をグラスに注いで持って行くと

「悪いな」とニッと笑うシュウ先輩の笑顔に

少しホッとして私の口元も緩んで笑っていた…





( ・・シュウ先輩は…お兄ちゃんみたいだ… )






昨日の夜…

沙優ちゃんと一緒に再試験勉強をしていて…

ずっと気になっていた事を質問した…





「1ヶ月近く…どうして休んでたの?」





私の問いかけに沙優ちゃんは「んー…」と

言いながらクッションに手を伸ばして

胸元でギュッと抱きしめながら話し出し…






サユ「なんか…なんだかね…

  皆んなと…誰かといるのが怖くなって来て…」





「・・・・・・」





サユ「本音も話せない様な子たちの

  顔色ばっかりうかがってる自分に

   疲れちゃったのかな…」





「・・・・沙優ちゃん…」





サユ「あの教室で1番辛かったのは笑実ちゃんなのに…

   こんな事いうのもアレなんだけどね…」





「・・・・・・」






沙優ちゃんは部屋中を見渡してから

「ふふ…」と笑い…





サユ「私ね…次は笑実ちゃんと

  カオル先輩みたいな恋がしたいな」





と言って抱きしめているクッションに

顎を乗せてニコニコとしている





「私と…カオル先輩みたいな?」





サユ「そう!純愛がしてみたい!笑」





カオル先輩と出会った日からの思い出を振り返り

沙優ちゃんの言う「純愛」と言う言葉とは

少し違う気がして「違うと思うよ?」と

顔を傾けながら呟いた






サユ「純愛…違うかな??

  まぁ…とりあえず!

  私の中身を見て…

  私だけを好きになってくれる人がいいのッ!」






そう言ってクッションを上に向かって

投げている沙優ちゃんの笑顔は

私が好きだった柚茶みたいに

明るくて温かい笑顔をしていた…





( シュウ先輩の事も…少しずつ… )






夕飯を食べて帰るかなと思い

冷蔵庫の中を確認しながら「カオル先輩…」と

声をかけると先輩は顔を上げると

私が言いたい事が分かった様で

「ダメだよ」とだけ言って

顔をテーブルの方へと戻した…





カオル「いま何時?」





「・・・・16時5分です…」





カオル「・・・・じゃあ…ダメだよね?」





「・・・・はい…」






再試験は午後からあり

試験後に沙優ちゃんとジュースを飲んで話していると

「笑実ちゃん時間!」と言われ時計を見ると

カオル先輩から決められた門限の20分前で

買い出しをする事なく走って帰って来たから

6人分の食材が無く…

カレーでいいかなと小さくタメ息を吐きながら

玉ねぎやにんじんを取り出した





コウ「・・・なんだ?なんかあんのか??」





先輩達は私が再試になった事も

門限の事も知らなかった様で

カオル先輩の話を聞いて

皆んな「四時!?」と驚いている…





ヒカル「夜中いなくなったは…

   まぁ…それはアレだけど…

   16時は厳しくないか?」





ヒョウ「小学生もまだ遊んでるよ?笑」






先輩達の言葉を聞き

小さく頷きながらお米を洗っていると

「笑実ちゃん」とカオル先輩の声が聞こえ

頷くのをやめて何もなかった様に

お米を炊飯器に入れてスタートボタンを押した






カオル「不便を感じなきゃ罰にならないからね…

   8月は学校もないから16時でいいよ」





シュウ「8月は?」





「・・・・再試が2個あって…

   9月まで門限があるんです…」






寝坊をした日に受けた2限目も再試になってしまい

それを知ったカオル先輩が

「勉強してなかったんだね」と怒り…

9月も学校がある日だけは18時で土日は

今日と同じ16時までに帰らなくちゃいけない…






ヒカル「・・・9月までか…長いね…」





「・・・・・・」





カオル「9月で終わるかは笑実ちゃん次第だね」






テーブルに肘をついて教科書に顔を向けたまま

そう答えたカオル先輩にやっぱり本気なんだと思い

自分の唇がどんどんとんがっていく…






カオル「前期の成績で〝優〟や〝良〟ならいいけど

   再試じゃない教科でも〝可〟があったら

   門限は延長だからね…」


   



ヒョウ「チワワ…バイトも出来ないね?」






ヒョウ先輩の言う通り…

バイトも出来ない…

前ほどじゃ無くても週に2回位のバイトを

始めたいなと思っていたけれど…





( 門限4時じゃ無理だよ… )





とんがった唇で料理をしながら

沙優ちゃんの言う「純愛」とはやっぱり違うよと

ずっと心の中でカオル先輩への文句を言っていた…







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