〈エミ視点〉










試験勉強をしているとガチャッと

玄関の鍵が開けられる音が聞こえ

カオル先輩が帰って来たんだと分かり

ペンを置いて玄関の方に続く廊下の扉を開けた






「カオル先輩ッ!お帰りなさい」





カオル「試験勉強はちゃんとしてるの?」





「はい…あの……

  沙優ちゃんの事ありがとうございます」






靴を脱いでる先輩の前に立って

そう伝えると先輩は

「汗かいたからシャワー浴びるよ」とだけ言って

私の顔を見ることなく

脱衣室へと入って行ってしまった…





( ・・・・あれ…怒ってる? )





あの後しばらく3人で笑って話をしていて

「試験勉強もちゃんとするんだよ」と

出掛けて行ったから…





( 許してくれたんじゃ… )






少しだけ重い足取りでリビングへと戻り

教科書を眺めながら

先輩が部屋に来るのを待つ事にした




15分ほどで脱衣室のドアが開く音が聞こえ

またパッと立ち上がってから

キッチンへと行き冷蔵庫から

冷たい麦茶のボトルを取り出して

コポコポとグラスに注いでいると

先輩がタオルで髪を拭きながら入って来た





「あっ…お帰りさない…麦茶を…」





カオル「・・・・・・」





グラスを持って先輩に駆け寄ると

先輩は何も言わないままテーブルへと歩いて行き

広げてあるノートや教科書を見ている…






「・・カオル先輩…怒って…ますか?」





カオル「そう見えてるなら、そうなんじゃない?」





「・・・・明日は…

  もう卒業まで再試にならない様にします…」






テーブルの前に腰を降ろした先輩に

グラスを差し出しながらそう言うと

カオル先輩は顔をあげてジッと見てきた






カオル「・・・・・・」






「・・・・いつもみたいに…

   ただいまって…言って下さい…」






笑ってくれないカオル先輩に

寂しさを感じて

先輩の服を軽く掴んでそう呟くと

先輩は私の手にあるグラスを受け取り

ゴクゴクと麦茶を飲みほすと

空になったグラスをテーブルに置き

顔を向けてきた






カオル「・・・・ただいまって帰って来たら

   誰かさんの靴はないし

   まさかと思って部屋の中を覗いたら

   こんな風に勉強道具が広げられてて

   勉強しているはずの

   誰かさんはいなかったんだけど?」






「・・・・あの…」






カオル「寝室にも浴室にもいないし

   電話をかけたらテーブルの下で鳴ってるし」






「・・・・カオル先輩…」







先輩が再試の事で 

怒っているんじゃないと分かり

掴んでいる服を離して

先輩の手へと控えめに手を伸ばした…






カオル「・・・・はぁ…

   ほんとに人をハラハラさせるね」






「・・・・ずっと…探してたんですか…」






カオル先輩は私が重ねた手を

ギュッと握ってくれて

顔をコッチに向けてきた…







カオル「逆に探さないで

   普通にしてられるんだったら

   今こんな風に一緒になんていないよ」






カオル先輩の顔が近づいてきて

そっと瞼を閉じると少しだけ

タバコの味がする唇を感じ…


   




カオル「・・・次こんな事したら

   門限じゃなくて首輪で繋いどくよ?」






「・・・・タバコの味がします…」






カオル「誰かさんが俺の嫌がる事するからじゃない?」






カオル先輩が名前で呼んでくれないのが嫌で

繋いでいる手に目線を落として

「カオル先輩…」と手を小さく左右に振って

甘えてみても先輩は立てた片膝に肘を乗せて

何も言わないでコッチを見ているだけで…






「今度からスマホもちゃんと持っていきます…」





カオル「持って行ってても寝てるからね…」





「・・・・出掛ける時は連絡します」





カオル「・・・・・・」






中々許してくれないカオル先輩の手を

両手で掴んでそう伝えると

先輩は小さくタメ息を吐きながら

ソファーの上に座り直し

自分の膝の上をパシパシと叩いた






カオル「教科書持っておいで」






カオル先輩の言う通りに

教科書を手に取って

先輩の足の上に座ると

私の手から教科書を取り

パラパラとめくりながら

「範囲は?」と聞いてきた先輩に

何も答えずジッと顔を見つめた…





カオル「・・・・範囲は?」





「・・・・だ…誰かさんが…

   キスをしてくれたら…教えます…」





カオル「・・・・・・」






そう…小声で…

先輩の目を見つめたまま言うと

カオル先輩はいつもしてくれるみたいに

私の髪を耳にかけてくれて

「そっちからしてきたら?」と顔を近づけてきた






「・・・・名前で…呼んでくれますか…」





カオル「・・・・キスしだいかな…」






先輩の肩に両手を添えて

近づいてい顔にそっと唇を重ねてみても

カオル先輩はいつもの様に応えてはくれなくて…





肩に置いてある手を先輩の首に回して

もっと距離を近付けて抱きつく様にキスをし…

閉じている先輩の唇を軽く舌で舐めると

閉じていた唇が少し開いて

カオル先輩がどうしろと言っているのかが分かり

躊躇いながら先輩の舌に自分の舌を絡めた…






「・・んッ……か…ぉるせん……ッ…」






ぐっと腰抱き寄せられると

キスの主導権もカオル先輩に変わってしまい

中々離してくれない唇に息苦しさを感じながらも

先輩の上で甘えてしがみついていると

「次は許さないよ」と言う言葉と一緒に

「笑実ちゃん」と聞こえてきた…






「もう一度呼んでください」





カオル「・・・・タバコの味は大丈夫なの?」





「・・・・吸っちゃ嫌です…」





カオル「笑実ちゃんが悪い事しなければ吸わないよ…」






先輩の言葉にクスリと笑って

「大好きです」と伝えてから

またタバコの味のするキスをねだった…



















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