〈サユ視点〉








カオル先輩の部屋は

シュウ先輩の部屋と同じ位広くて

家賃いくら位なんだろうと思いながら

初めて入る部屋に緊張して見渡すと

部屋の壁に可愛いサマーリースが飾られていて

どこの雑貨屋さんのかなと眺めていると…






カオル「二人ともテーブルの前に座りなよ」






カオル先輩はキッチンで麦茶を注ぎながら

そう言うとグラスを一個だけ手に持ち

コッチに歩いて来た





笑実ちゃんはカオル先輩の言葉に少し眉を下げて

ソファーの上にあるクッションを私に差し出したけど

横を通り過ぎたカオル先輩がそのクッションを

笑実ちゃんの手から取り上げて

ポイッとソファーに軽く投げると

ドカッと音を立ててソファーに腰を降ろした…





「・・・・・・」





笑実ちゃんはカオル先輩の行動に

顔を曇らせて私の手をそっと握って

ゆっくりとテーブルの前に腰を降ろし

カオル先輩を少し睨む様に見上げている





カオル「・・・・でっ?」





「・・・・・・」





カオル「・・・・・・」





唇を尖らせて何も答えない

笑実ちゃんの態度が

かんに触ったのか

先輩は眉をピクリとさせて

ソファーから笑実ちゃんを見下ろしている…






( ・・・これ…大丈夫かな? )






去年のあの日を思い出し

背筋にヒヤッとする嫌な寒気を感じながら

気不味い雰囲気に顔を下げた





カオル「・・・・昨日は何時から出かけてたの?」





「・・・・9時です…」





笑実ちゃんの言葉に(えっ?)と思いながらも

口には出さずに黙っていると

「へぇ…」とカオル先輩の低い声が耳に届いた…






カオル「9時ねぇ…」





「・・・・じゅっ…11時前です…」






カオル先輩の態度に嘘がバレていると分かったのか

笑実ちゃんは小さな声で訂正していた…






カオル「2時間も誤差があるね」





「・・・・カオル先輩…」





カオル「まぁ、いいけど…」






トンッとテーブルにグラスを置いた音が聞こえると

「顔あげて」と先輩が私に言っているのが分かり

ゆっくりと顔を上げるとカオル先輩の目が

コッチをジッと見ていた…





前の様な柄の悪い目つきではないけれど

不機嫌で…私に対して怒っている事は伝わった…





笑実ちゃんが私の手をギュッと強く握りながら

「カオル先輩ッ!」と声をあげて

「私が勝手に押しかけて部屋にあがりこんだんです」

と先輩に説明をしているけど

カオル先輩は表情を変える事なく

私を見ていて…




今回の件ではなく春過ぎからの件で

私に何か言いたいんだと分かり

「すみませんでした…」と先輩に謝ってから

笑実ちゃんに顔を向けてもう一度謝った…






サユ「・・・笑実ちゃん…ごめんね…」





「沙優ちゃんは悪くないよ私が勝手に…」






笑実ちゃんは昨日の事だと思っている様で

またカオル先輩の方に顔を向いて

「私が押しかけたんです」と説明していた…





カオル「・・・・・・」





カオル先輩は足を組み

ソファーの肘置きにもたれかかりながら

笑実ちゃんの話を聞いていて

「昨日の事はもう分かったよ」と

タメ息混じりに言うと

自分の前髪を鬱陶しそうにかき上げて

「一限目の試験出てないんだって?」と

私と笑実ちゃんに冷めた目を向けてきた…






「・・・どうして…」






カオル「質問してるのは俺だよ…

   なんで試験受けてないの?」






「・・・・あの…」






カオル「試験勉強もしないで

  夜中飛び出して行って試験受けてませんって何?」

  

   




「・・・・すっ…すみません…」





カオル「・・・・なんで出てないの?」






笑実ちゃんが顔を下げて「あの…」と

小さな声でポツリ、ポツリと

寝坊をして再試になった事を説明すると

カオル先輩の呆れたタメ息が聞こえた






カオル「2限目の勉強は出来てたの?」





「・・・・・・」





カオル「出来てたの?」





「・・・あまり…出来てなかったです…」





カオル「・・・・なんの為に

  ノートを持って行って出席証明したの?」






カオル先輩は笑実ちゃんと連絡がつかいと

不機嫌になって探し回るけど

特別可愛がっていて…

笑実ちゃんに対して甘いイメージだったけど






( ・・・・こんな風にお説教もするんだ… )






さっきまで反抗的な態度をみせていた笑実ちゃんは

今は顔を俯かせてまるで叱られた子犬みたいに

耳が下に垂れているように見える…






カオル「・・・・8月は門限4時だよ」






( ・・・よっ…4時?? )





「4時は…まだ明るいですよ…」





カオル「罰の門限なんだから

  暗くなってからの門限じゃ意味ないでしょ…

  学校もないし買い出しとかはお昼にやってしまって

  4時からは家で大人しく過ごして反省するんだね」





「・・・・・・」






少しだけ唇を突き出して

顔を下げてる笑実ちゃんをみて

やっぱりいいなぁと羨ましく感じた





カオル先輩は帰って来ない笑実ちゃんを心配して

試験が終わる時間にわざわざ正門に来て

連絡のつかない笑実ちゃんを迎えにきたんだろう…





( ・・・クラスの子に聞いたのかな… )





試験を受けていない事は

同じクラスの子達しか知らないだろうし

正門で待っている時にクラスの子の誰かに

声をかけて聞いたんだと思った






「・・・・沙優ちゃんと…一緒に

 ご飯を作って食べたり…泊まったりしたいです…」






サユ「・・・笑実ちゃん…」






カオル「・・・その沙優ちゃんは

   笑実ちゃんが夜中に押しかけたりしたから

   一緒に寝坊して再試験なんじゃないの?」






サユ「アラームのセットを

  していなかったのは私ですから…」






カオル先輩の言葉に笑実ちゃんは

「ごめんね…」と更に落ち込んでいたけど…





( ・・・・・・ )







「・・・アキラ先輩の事好きなら…いいと思う…

  でも、そうじゃないなら…ダメだよ…」






1限目は再試になっちゃったけど

それよりも、もっと大切な事を

笑実ちゃんから教えてもらった気がする…








カオル「門限は変えないよ…

   沙優ちゃん家にお泊まりは無理だから

   沙優ちゃんにお泊まりに来てもらうんだね」






サユ「・・・・へっ…」






「この部屋にですか?」






カオル「笑実ちゃんが住んでるのはこの部屋だから

   ここ以外にどこに泊まるの?笑」






そう言ってまた前髪をかきあげている

カオル先輩の表情は少し柔らかくなっていて…






( ・・・笑ってる… )






カオル「キッチンは二人の部屋よりも広いし

   好きに料理して楽しんだらいいよ」






「えっ」と驚いている私の腕を引っ張っりながら

「この部屋のオーブンなら他のパンも焼けるよ」と

喜んでいる笑実ちゃんは

さっきまでカオル先輩から怒られて

落ち込んでいたのが嘘みたいに

ニコニコとして「メロンパンは好き?」と笑っている






カオル「楽しいお泊まりの話は

   明日の試験が終わってからするんだね」






そう言って立ち上がると

カオル先輩はキッチンへと行き

私と笑実ちゃんの麦茶を

グラスに注いで持ってきてくれた

   





「映画も見たいし…

 前見てたドラマのシーズン2も見たいね?笑」






楽しそうに話している笑実ちゃんを見て

小さく笑いながら私たちの前にグラスを置く先輩に

「ありがとうございます」とお礼を伝えると

「お客様だからね」と言って

ソファーにあるクッションを

私に差し出してくれた…










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