〈エミ視点〉








サユ「笑実ちゃんッ!!」





沙優ちゃんの大きな声で目をパチッと開けると

寝起き独特の目の乾きを感じ

瞬きをしながら沙優ちゃんを見上げると

「試験、遅刻!」とすごい顔で

置き時計をコッチに向けている…





「・・・・ぇっ……えッ!?」






時計はもうすぐ一限目の試験が終わり

あと20分ほどで二限目の試験が始まる時間だった…





「どうしよう」と立ち上がると

沙優ちゃんがクローゼットから洋服を取り出して

「3分で着替えて」と言って

沙優ちゃんも部屋着を放り投げる様に脱いでいる





自分の服を見て誰が見ても

パジャマという様な服装をしていて…




こんな格好で走ってきたんだと思い

アキラ先輩が驚いた顔をしていたのは

私が泣いていたからだけではなく

なんて格好をしているんだと

驚いていたんだと分かった…





洋服を着替えて筆記用具も財布も…

鍵しか持って来ていない自分に青ざめていると

「ペンは貸すから早く」と

沙優ちゃんに怒られる勢いで言われ

「うっ…うん」と靴を履いて

二人で話す事なくただひたすら走った





正門に着くと

校舎に取り付けられた大きな時計が見え

あと5分で2限目開始だと分かり

更に足に力を入れて走り階段を駆け登った





試験教室に入ると先生はすでに来ていて

私と沙優ちゃんを見て先生も

クラスの皆んなも驚いている…





「すっ…すみません…」





先生に頭を下げて自分の席に

シャーペンと半分に折られた消しゴムと…

キーケースだけを握って座ると

皆んながコソコソと騒ぎだした





先「私語はそこまでだ…回答用紙から配るぞ」





先生の言葉に皆んなの話し声は止み

小さく息を吐いてから

回ってきた回答用紙と問題用紙を見ながら

一限目の試験どうしようと考えた…





ほとんど勉強出来ていなかったから

退席可能時間になっても教室から出ずに

チャイムがなるギリギリまで

問題用紙を眺めていた…





再試かもなと思いながら

回答用紙を提出して沙優ちゃんと

一限目の先生の元へと早足で向かうと

クドクドとお説教をされ

再試を受けるように言われた…






サユ「・・・再試受けれるだけマシだね…」





「卒業できないかと思った…」





サユ「明日の勉強しなきゃね…」






今日は午前中のみで

明日の最後の2教科こそはしっかり勉強して

試験に遅刻しない様にしないとと話しながら

「あっ…」と自分の手に握られている

キーケースを見て固まった…





( ・・・・えっ… )





私の手にはキーケースしかなく…

スマホを置いたまま

部屋から出て来ている事に気づいた…






サユ「・・・まさか…

  カオル先輩に何も言わずに出て来たの?」






「・・・先輩…部屋にいなかったから…」






沙優ちゃんは自分のバックに手を入れて

ガサゴソとしながら「あっ…」と

小さく声をあげてバックから手を取り出し

「スマホ…ベッドだ…」と呟いた…



 



「・・・・・・」






サユ「・・とりあえず直ぐに帰った方がいいよ…」






沙優ちゃんは一度

カオル先輩のあの顔を見ている事もあり

連絡が繋がらないと不機嫌になる事も

知っているんだろう…




少し頬を引き攣らせながら

私の手を引いて正門へと早足で向かい出した…





( ・・怒ってるかな… )






坂を降りて行きながら正門の少し先に

カオル先輩がいる姿を見つけて思わず足を止めた…





サユ「・・・怒って…ますよね?」





この距離からでも分かる位に

ズボンに手を入れて

怒って立っているカオル先輩の姿を見て

沙優ちゃんも隣でゴクリと唾を飲んだ…





先輩はコッチに気付いた様で

体を向けて睨むような目で見上げている…





サユ「・・・行こうか…」





沙優ちゃんに手を引かれて

坂の下に降りて行くと

カオル先輩は私を見た後にチラッと

沙優ちゃんに視線を移したから

「すみません…」と謝った





カオル「・・・・・・」





「昨日の夜…沙優ちゃんの所に行って…」





カオル「・・・・・・」





「スマホを…忘れてて…」






先輩の怒っている顔に

思わず顔を俯かせてそう言うと

先輩は「帰るよ」と言ってスタスタと歩き出し

まだ沙優ちゃんと話したい事もあり

「カオル先輩…」と声をかけると立ち止まり





カオル「二人ともおいで」






と振り向かないまま言うと

またスタスタと歩き出した











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