〈沙優視点〉







インターホンが鳴り

アキラ先輩が来たんだと思って

声も聞かずに解除ボタンを押した






( 試験勉強もしないで…何やってるんだろ… )






玄関の鍵を開けて

直ぐに入ってくるであろうアキラ先輩を

エアコンのきいた部屋で待っていると

玄関側のインターホンが鳴り

いつも鳴らさないのにと不思議に思いながら

玄関へと行き扉を開けると

笑実ちゃんが立っていた…






サユ「・・・・どうして…」






こんな時間にどうしたんだろと驚き

涙で赤くなっている笑実ちゃんの顔を見て

カオル先輩と喧嘩でもしたのかと思っていると

笑実ちゃんは手に握っていた缶ジュースを

1本差し出してきた





「・・・・話そう…沙優ちゃん…」





笑実ちゃんの言葉を聞いて

カオル先輩と喧嘩をしたのではなく

私たちの事について〝話そう〟と

言っているんだと分かった






サユ「・・・明日も試験だし…

   今日は帰ってまた今度…話そう…」






もうすぐアキラ先輩も来るし

笑実ちゃんに帰ってもらおうとすると

笑実ちゃんは顔を少し俯かせて

「アキラ先輩には…帰ってもらったよ…」と

少し震えた声で…そう言った…





サユ「・・・ぇっ…」





「・・・謝らなきゃいけない事あるの…」





サユ「・・・・・・」





「・・・気づいてたの…アキラ先輩との事…」






( ・・・気づいて…いた? )





自分の心臓が

大きく嫌な音をたてたのが分かった…




知られたくなかった…

誰にも知られたくなかったから…






「・・・・首に…痕がついてて…」





サユ「・・・・・・」





「部屋の中に…少しだけ…

 アキラ先輩が吸ってるタバコの臭いがあったから。」





サユ「・・・・・・」





笑実ちゃんが私の部屋に上がったのは

3月が最後だったし

キスマークは最初の頃だ…






( そんなに前から… )






サユ「かっ…勝手な事しないでよッ」





そんなに前から知られていたんだと分かり

自分が恥ずかしくなって

笑実ちゃんの差し出していた缶ジュースを

手に取って玄関側に投げると

ガッと音を立てて壁紙が少し擦れて破れていた






サユ「知ってたってなに…

  帰ってもらったって何なのよ?」






「・・・アキラ先輩の事…ちゃんと好き?」






笑実ちゃんの言葉に自分の顔が一気に熱を持ち

「はぁ?」と言って笑実ちゃんを睨んでいた


 




「・・・アキラ先輩の事好きなら…いいと思う…

  でも、そうじゃないなら…ダメだよ…」






サユ「ツッ…帰ってッ」






そう言って部屋の中へと入って行くと

笑実ちゃんは玄関から動かないで

立ったままコッチを見ていて…

やっぱりなと思った…





笑実ちゃんは

「はい分かりました」なんて帰らないし

他の子の様に「待って」と

追いかけて来たりはしない…

勝手に部屋に上がってきたりは…しない…






サユ「・・・ッ…ズルいよ…」





「・・・・・・」





サユ「笑実ちゃんは…ズルいよ…

  自販機ではお汁粉とか買うし…

  クッキーじゃなくてかたパンを買ったり…」





「・・・・・・」





サユ「いつも…いつも…

  笑実ちゃんばかり可愛くて…ズルいょ…」






皆んなは「変」だって言ってたけど

全然…変なんかじゃない…

私からみたらとても可愛い一面で

ずっと羨ましかった…





( ずっと…笑実ちゃんになりたかった… )





スーパーに行くと必ずチラシをチェックしていて

野菜も農家の卸売りの商品を買って

「後藤さんの作る野菜は大きいんだよね」と

顔も知らない…野菜の袋に記載されている

生産者のおじさんの事をそう話していて…






サユ「・・・後藤さんって…だれッ…」





「えっ…」






『何であの人』


『全然可愛くない』


『カオル先輩趣味悪くない?笑』





皆んな…全然分かってないよ…

カオル先輩は…見る目があるんだよ…





シンデレラはたった一人だから

〝シンデレラ〟なんだよ…

たった一人だからお伽噺なんだよ…






「・・・・沙優ちゃん…

  アキラ先輩のどこが好き?」






サユ「・・・・・・」






アキラ先輩の好きなところを聞かれ

思い浮かぶのはあの可愛い笑顔だった…




だけどあの笑顔は私に向けたものではないし

「他は?」と自分自身に問いかけてみても

寂しい時に会いに来てくれる

という答えしか出てこなかった…





「・・・・シュウ先輩は?」






何も答えていない私に

そう問いかけてくる笑実ちゃんには

私の答えが分かったんだろう…






サユ「さゆ…ちゃんって…優しく呼んでくれる声…

  頭を…ッ…撫でてくれるところ…

  たまに…子供みたいにッ…なる…ところ…」






床に座ってシュウ先輩の好きなところを

一つづつあげていくと笑実ちゃんの

「お邪魔します」という声が聞こえて

部屋の中へと入って来ると

私の頭を優しく抱きしめながら

「他は…」と聞いてきた…






サユ「・・ぅッ…友達…思い…な…ところ…」






笑実ちゃんの胸の中で

シュウ先輩への思いを全部言葉にした…





カオル先輩と笑実ちゃんをあの教室で見た日から

本当は気づいていた…





私がアキラ先輩に寄せている想いは

恋心なんかじゃないって…

誰にも話せない後ろめたい関係を

少しでも正当化しようとしていただけなんだと…





シュウ先輩に会えない寂しさや

笑実ちゃんへの遠回しなヤキモチを

なんとか誤魔化そうとアキラ先輩を呼んで

肌を重ねて寂しさを紛らわせていたんだ…






( ・・・・紛れるはずがないのに… )






重ね合わせている2人どちらもが

想いを持っていないその行為に

なんの意味もあるはずがない…






「・・・シュウ先輩は…

  友達を見る目はあっても

  女の子を見る目は持ってないんだよ…」






サユ「・・・・・・」






「沙優ちゃんだけを見てくれる人が現れるまで

  私が一緒にいるよ…

  また一緒にパン焼いたりお鍋したりしよう?」






笑実ちゃんのシュウ先輩は

女を見る目がないの言葉を聞きながら

ひと昔前のテレビで聞くような言葉だなと思い

小さく笑ってから笑実ちゃんが頭を撫でる

心地よさに目を閉じた



    
















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