〈エミ視点〉









学校とカオル先輩の部屋だけを行き来している日が

1週間を過ぎ前期試験も明日と明後日が最終日だった…





先輩は「俺がいると集中できないでしょ?」と

気を遣ってくれて毎日日付けが変わる位にしか

帰って来なくて…






( ・・・最低だ… )






シュウ先輩を避けて

カオル先輩の部屋へと真っ直ぐ帰っても

頭の中は沙優ちゃんやシュウ先輩…

アキラ先輩の事を考えてばかりで

勉強なんてちっともみが入らなかった…





試験初日の日…

帰って来たカオル先輩の手には

焼きそばとオニギリの入った紙袋が握られていて

「夜食に食べてね」と差し出され





試験中に家事をしなくてもいいようにと

先輩達が夕飯を作ってくれていたんだと分かり

益々自分の肩が下がった…





試験中…回答用紙に答えを書き込んでも

ぐるぐると回る悩みと不安に

中々集中出来ず一問一問に時間がかかり

試験終了時間まで座ったままで…





せっかく先輩が気を遣ってくれているのに

全然集中出来ない自分がいて

目の前にある教科書に目を向けると

1時間前と同じページのままで

またタメ息を吐いた…






( ・・去年は沙優ちゃんと勉強したんだよね… )







サユ「良かったね、おめでとう…笑」






お赤飯のおにぎりを食べている私を眺めながら

クスクスと笑っていた沙優ちゃんの笑顔を思い出し

一月末からの私の思い出のほとんどはカオル先輩で…

よくしていたお泊まりも…

夕食を一緒に作って食べる事も…






( ・・・・一回もしていない… )






「・・・・泣くかな?」





サユ「先輩達に彼女が出来たらねぇ…

   うん、絶対泣くと思う…笑」





「・・・・私も泣いちゃうかも」





サユ「笑実ちゃんが泣いたら…

  私のCカップの胸で一晩中泣いていいよ?笑」






失恋をして泣いている主人公に共感して

沙優ちゃんとクッションを抱きしめながら

話していた事を思い出し

握っていたペンをテーブルの上に置き

部屋の鍵だけを持って

玄関から飛び出していた…





( ・・あの日…自分の事ばかりで… )





ツカサ先輩の事があり

沙優ちゃんの話をちゃんと聞いてあげる事も

抱きしめてあげる事もしていなかった…





「・・・言え…ないょ……ね…」





きっと沙優ちゃんは私に気を遣って

言えなかったんだ…





23時前の夜道は明かりも消えている建物が多く

一つの街灯の下を通り過ぎると

次の街灯がある場所まで暗くて…

怖かったけれど

足を止める事なく

沙優ちゃんのマンションへと走った…






( ・・沙優ちゃんは来てくれたから… )






店長と二人だけでいたバイト先に

迎えに来てほしいと頼んで

沙優ちゃんは日付の変わった深夜1時前に

慣れない運転で迎えに来てくれようとしていた…




沙優ちゃんのマンションが見えてきて

息を整えながら走るペースを落とすと

入り口にアキラ先輩の姿を見つけて

「アキラ先輩」と名前を呼んだ





先輩はコッチに体を向けて立ち止まっていて

多分…驚いた顔をしている…





アキラ「・・・・お前…」





先輩の前で息を上げたまま立ち止まり

「行かないでください」とお願いした






アキラ「・・・・・・」





「沙優ちゃんの事を…他の…

  他のお姉さん達と同じ様にしか思えないなら

  部屋には行かないでください…」





アキラ「・・・・・・」






アキラ先輩は私の顔をジッと見ているだけで

一言も話さないままだった…





「私…アキラ先輩の事…好きです…

  意地悪で失礼で…直ぐ睨みますけど…

  本当は優しい先輩だから…」





アキラ「・・・・・・」






「でも…沙優ちゃんの友達としては嫌いです…」






ハンカチも持って来てなかったから

流れる涙を手で拭き取りながら

「帰ってあげてください」と言った…






先輩は「はぁ…」と

面倒くさいと言わんばかりの

タメ息を一つ吐くと

何も言わずに私の横を通り過ぎて行き

帰ってくれたんだと分かった…





「・・はぁ…ッ…ごめ…ね…」





きっと会いに来ると沙優ちゃんに伝えていて

沙優ちゃんもアキラ先輩を待っているはずだ…





勝手に現れて勝手に追い返した

私を怒るかもしれない…






( ・・・それでも…やっぱりダメだよ… )






膝を曲げてゆっくりと座りこみ

涙を必死に止めているとコトッと地面に硬い何かが

置かれた音が聞こえて顔を向けると

私の数歩後ろに缶ジュースが2本置かれてあり

歩いて行くアキラ先輩の背中が見えた…





「・・・ぁっ…」





ジュースは2本で…

私と沙優ちゃんの分だと分かり

お礼を伝えようと思ったけれど

先輩は角を曲がってしまい

見えていた背中は

直ぐに見えなくなってしまった…






( ・・・やっぱり…優しい先輩だ… )






置かれたジュースを手に取り

沙優ちゃんの部屋のインターホンを押した…







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