〈エミ視点〉








( ・・・・可愛い… )






まだ寝ているカオル先輩の寝顔を見ながら

ポテッとしている下唇を人差し指で

ツンツンと触るとくすぐったいのか

「ンッ…」と一瞬眉を寄せた…





カオル先輩の部屋のベッドよりも大きい

このベッドの上でも

私の首の下には先輩の右腕があり

腰と脚にはもう片方の腕と先輩の脚が

乗せられていて…







( ・・・・いつもよりも…近い気がする… )






まるで抱きしめるみたいに

いつも以上に近い先輩の体温に

ギュッと抱きついてみた…






カオル「ふふ…全部買ったら?笑」






フルーツ飴の屋台の前でどれにしようか悩んでいると

カオル先輩が屋台のお兄さんに全部の種類を注文していて

先輩の手にあるイカ焼きやたこ焼きの袋を見て

帰りの電車大丈夫かなと心配していると

先輩は小さく笑って「そろそろだね」と言って





私の手を引いて河辺近くに腰を降ろし

去年は音しか聞けていなかった

花火を並んで見上げる事ができた…





「・・・カオル先輩…ありがとうございます」





カオル「・・・・・・」





「約束守ってくれて…」





花火を見上げながら

そう小さな声で伝えると

繋がれている手がギュッと強く握られた…





「・・・・ありがとうございます…

  手を…離さないでいてくれて…」





カオル「・・・・・・」






あの日…

もしもカオル先輩が私から離れていたら

私はきっと…もっと泣いていた…





例え私の為だったとしても

「なんで…」って…

泣いてしまって…沙優ちゃんの様に

学校を休んでいたかもしれない…






「・・・私…幸せです…

  カオル先輩との毎日も…

  先輩達から揶揄われるのも…

  サトル先輩達から…睨まれるのも…」





カオル「睨まれるのも幸せなの?笑」





「はい、幸せです…笑」






前の週にシュウ先輩の部屋に呼ばれて行くと

少し目を細めたジン先輩が腕を組んで待っていて…






ジン「唐揚げあげろ」






と材料の入ったビニール袋を押し付けられ

コンビニでの事をカオル先輩に話した事を

怒っているんだと分かった…




パックに入っていたのは骨つきタイプの鶏肉で

私が苦手とする部位で…

中々袋から取り出さない私を見て

サトル先輩が「さっさとしろ」と

言いながら近づいてくると…






サトル「ちゃんと味を揉みこめ!」




サトル「いちいち目をつぶるな!」




サトル「カリッと揚げろ!」






いつもの様に眉をつりあげながら

ずっと隣に立って怒っていて

ジン先輩はそれを見て

「ちょっと許してやる」と笑って

揚げたばかりの唐揚げに手を伸ばしていた






「カオル先輩のお友達は…皆んな優しいです…笑」





カオル「・・・笑実ちゃんの友達でもあるよ…笑」





「ふふ…アキラ先輩達は「はぁ!?」って

  怒り出しそうですね?笑」





カオル「あぁ…ルナが怒ってたよ?」






カオル先輩の言葉に「えっ?」と言って

顔を先輩の方へとパッと向けると

先輩は空に打ち上がる花火を見上げたまま

「水ゼリーだっけ?」と笑いながら聞いてきた





カオル「飲みにくくて2日かけて飲み切ったって…笑」





「・・・・やっぱり優しい人達です…笑」






亜香里ちゃんが前に…

この前のルナ先輩みたいに

私と同じ飲み物を買って

一口、二口を飲むと「飲めない」と言って

中身が入ったままゴミ箱に捨てていた…





髪をかき上げながら笑っていた

ルナ先輩を思い出して「ふふ…」と笑うと

カオル先輩は顔をコッチに向けてきて

「ん?」と手を前髪に持っていきかけて

下に降ろした先輩にまた小さく笑ってから






「ルナ先輩は…カオル先輩にちょっと似てます…」





カオル「俺とルナが?笑」





「似てるから…

 ルナ先輩と二人でいると少しドキドキします…笑」






そう言うと先輩は笑いだし…

「相手が女でも浮気は許さないよ」と言って

私の背中の帯を眺めた後に

目線を少し上げて頸部分を見てるのが分かった…





カオル「・・・・泊まろうか?」





花火が終わった後

初めてそういうホテルへと行き

カオル先輩に浴衣の帯を解いてもらった…






( ・・・・起きたかな… )






私を抱きしめている腕が少し強くなったから

カオル先輩が目を覚ましている様な気がして

「沙優ちゃんは…いい子なんです…」と言って

入学してからの…沙優ちゃんとの思い出を話した…





カオル先輩は何も言わないまま…

ただ黙って私の話を聞いていて…





( ・・・やっぱり…怒ってるのかな… )





沙優ちゃんがカオル先輩に電話をかけて

春からの学校での私の状態を話したみたいだけど

それを私に話してくれたカオル先輩の表情は

少し冷たかったから…






カオル「シュウやヒカルに会う為に

   友達づらして呼び出されましたって…」



   



シュウ先輩の名前を出したから

あれは…沙優ちゃんの事も含めて言ったんだろう…






「沙優ちゃんが煎れてくれる柚茶は

  甘くて…優しい味がしてとっても美味しくて…

  私は苺ミルクのイメージらしくて…その…」






話が3月末に近づいてきて

少しずつ距離が出始めた

4月の話をどうしていいのか分からなくなり

「あの…」と口籠もると

グイッと身体が引かれカオル先輩の身体の上に

寝ている状態になった…






「・・・・ぉ…はよう…ございます…」





カオル「・・・・おはよう…」






不機嫌な声ではないけれど

いつもの優しい声色でもなく…

カオル先輩の胸に顔を寄せて目を閉じると

頭を撫でられる感覚がした…






カオル「・・・試験には来るといいね…」






どうして休んでる事を知っているんだろうと

不思議に思い目を開けると

「コピーして毎日届けてるの?」と

聞こえてきてジン先輩から聞いたのかなと思った





沙優ちゃんはあれからずっと休んでいて

学校に来ないまま前期授業は終了し

週明けから始まる前期試験に出席しなければ

卒業できなくなってしまう…






「・・・・優しい子なんです…」






カオル先輩は私を支えながら

上体を起こし私を見下ろしている目は

冷たくもないけれどやっぱり甘くもない…





「・・・・ワガママ…聞いてくれますか…」





先輩の目を見つめたままそう言うと

先輩は私のお願いするワガママが分かったようで

小さくタメ息をついて

「ズルい事するね」と言ってきた…






「・・・・・・」





カオル「・・・男でも女でも

   俺以外にドキドキするのは許さないし」





「・・・・・・」

   

   



カオル「今後…俺じゃない誰かが

  笑実ちゃんを泣かすのは許さないよ」






身体をキツく抱きしめられ

昨夜と同じ様に先輩に抱っこされた状態で

何度も甘く先輩の名前を口にした…









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