コピー

〈エミ視点〉








ジン「何してんだ?」






ジン先輩の声に顔を横に向けると

直ぐ隣りに立っていて私を見下ろしていた






「あっ…お疲れ様…です…」





ジン「・・・講義休んだのか?」





「えっ??」






ジン先輩は私の前にあるコピー機を指差していて

下の方には私が今コピーしていた

講義内容が書かれた用紙が重ねられている…






「とっ…友達のです…」






ジン「友達?」






先輩は「ん?」と目を細めて

私とコピーされたノートの写しを交互に見て

「友達なんていたのか?」と言ってきた…






「・・・・・・」






先輩は表情を変えずにコッチを見ていて

私も先輩を見上げたまま…

お互い何も言わずに

コンビニの音楽と「いらっしゃいませー」という

スタッフさんの声だけが聞こえている…






( たまにサトル先輩よりもズバッと言うからなぁ… )






この前のファミレスの席に

ジン先輩はいなかったけれど…

サトル先輩達から話は聞いているだろうし

学校で私が一人でいる事も…





「・・・休んでる子がいて…」





そう小さく呟いてから

コピー機を上げて次の教科のルーズリーフを

ファイルから取り外していると

「あのカラオケ屋にいたシュウの方のペットか」

と淡々とした口調で聞いてきた





「・・・・・・」





ジン「そんな奴の為にコピーしてんのか?」





呆れてるわけでも

興味があるわけでもなく…

ただ聞いているだけなのは

先輩の口調で分かっているけど

沙優ちゃんの事を〝そんな奴〟だなんて

言われたくなくて

何も答えずにコピーを続けた





ジン「シュウも微妙だろうな…」





「・・・・・・」





ジン「多少なりにも可愛がっていた後輩が

   自分のダチの彼女虐めてたなんて…

   気不味いだろうし責任も感じてると思うぞ」





「・・・責任…ですか?」






ジン先輩の言っている

〝責任〟の意味が分からず

顔を見上げて尋ねると

先輩はコピー機の隣りにある本棚から

雑誌を一冊手に取り

パラパラと中身を見ながら「あぁ…」と呟いた






ジン「お前ら一緒にシュウの部屋に遊びに来てて

   カオルとシュウにそれぞれ可愛がられてたけど

   シュウはカオルと違って

   恋愛対象にはならなかったわけだし…

   結果今は…会ってねーだろ?」





「・・・・・・」





ジン「思ったと思うぞ…

   自分がカオルと同じ様にしてたら

   お前が一人になる事もなかったかもなって…」





「それは…シュウ先輩のせいじゃ…」






シュウ先輩が…

沙優ちゃんの事をそういう風には見れなくて…

期待させてもいけないと距離を置いたのは

なんとなく分かっていたし

変な関係でズルズルとするよりも…

優しいように感じた…





( アキラ先輩はどうなんだろう… )





私から見たアキラ先輩と

沙優ちゃんから見たアキラ先輩はきっと違っていて…







「・・・悪い人じゃないんだろうけど…」





ジン「シュウはいい奴だと思うけど

  ヒョウやサトル達と一緒で彼氏には向かないからな」



   




私の言葉をシュウ先輩に向けて発したと

勘違いしたジン先輩は他の先輩達の女性関係を

ペラペラと話し出したから…

「アキラ先輩もですか?」と質問してみた






ジン「アキラ?あいつこそ向かねーよ」

   




「・・・・沢山…遊んでるんですか?」





ジン「やけにアキラの話には食いつくな?」





「・・・・いつも…

  ブスばかりだからって遅れて来たりしてますけど…

  それなりに…その…楽しまれてて…

   ちょっと不思議といいますか…はい…」





沙優ちゃんと会っているなんて言えないから

目線をコピー機に戻してそう言うと

ジン先輩は「まぁ…確かにな」と笑っていた






ジン「アキラは別に飲み会なんてしなくても

   特定の相手みたいなのが何人かいるし…

   年上専門だから学生相手の集まりは

   あんま気乗りしないみたいだな」





「・・・特定の…相手…

  ユウト先輩みたいに彼女さんがいるんですか?」

   

   

   


ジン「そっちの特定じゃねーよ…」






先輩の言っている意味が分かり

「あっ…あぁ…」と言って次のページを印刷しだし

沙優ちゃんも特定の一人なのかなと

胸の奥がぐるぐると変な気分になった…





ジン「誰か一人に対して

  特別みたいなのも見た事ねーし…」





「・・・他の先輩達はあるんですか?」





失礼だけど女性関係では

皆んな同じに見えてしまっていて…

先輩達が誰か一定の相手の名前を口にするなんて

ユウト先輩以外聞いた事がなかった…






ジン「・・・・まぁ…皆んなねーな…」





「・・・・・・」





ジン「俺たちからすれば今回のお前の事の方が

   ビックリだったからな?」






そう言うと手にあった雑誌を棚に戻してから

奥の方へと歩いていき

先輩が離れて行った後に

「はぁ…」とタメ息を吐いて

沙優ちゃんとアキラ先輩の事を考えた…






( 沙優ちゃんは年下だし…少しは特別なのかな…)






最後の一枚をコピーし終わり

下からコピーした用紙を手に取ってトントンと

コピー台の上でまとめていると

「チビ」とジン先輩がコンビニの入り口から

手招きをいていた…






( ・・・チビになってる… )






さっきまで〝お前〟呼びだったのにと

不思議に思いながら

ファイルをバックにしまい近づいて行くと

「ちょっと来い」と外に連れて行かれ…





買ったばかりのタバコを取り出して

火をつけると2月の時のように

手で煙を私に嗅がせてきた…






ジン「この臭いはどうだ?臭いか?」





「ケホッ……臭いです…」





ジン「この前のおじさんの臭いとどっちがいい?」





「・・・・コッチは…

  なんだかトイレっぽい臭いがします」






私の感想に気分を悪くした先輩は

「買ったばっかなのに吸う気なくしただろうが」と

怒り出しミント味のガムを取り出して食べていた…







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