病院

〈エミ視点〉









「・・・・・・」





おもちゃの音や看護師さんの声…

待合室に流れているテレビの音などが

混ざり合って聞こえる病院の待合室で

恥ずかしくて顔を下げていると

「はい」と言うカオル先輩の声と同時に

下げた視界にネズミーの絵本が差し出された





カオル「読む?笑」





ネズミーは好きだけど

カオル先輩が差し出している絵本は

対象年齢が2〜3歳と書かれた幼児用の絵本だった…




カオル先輩はクスクスと笑いながら

私の隣に腰を降ろすと

絵本と一緒に取ってきた雑誌を

パラパラと見ていて…





( ・・・恥ずかしくないのかな… )





顔を少し上げると最初見られていた視線は

なくなっていて皆んな

自分の事でいっぱいな様で少しホッとした…






カオル「ふふ…最初はそりゃ…

   笑実ちゃん小さいしね?笑」






最初病院のドアを開けた時は

皆んな私を…多分高校生位に思っていて…






カオル「ずいぶんと

   若いママだなって思ったんだろうね?」





「・・・・・・」






カオル先輩の太ももを

グーにした手で軽く叩くと

先輩は雑誌に顔を向けたまま笑っていて

その横顔を見ながら昨日の事を思い出して

また顔を下に下げた…






( ・・・・・・ )






昨日は朝約束した通りに早めにベッドへ行き

いつもよりも…時間をかけて溶かしてくれて…

ベッドボードの上に手を伸ばさない

カオル先輩を不思議に思い見つめていると…






カオル「・・・いい?」


 



「・・・ぇ…」





毛布の中のいつもよりも温かい人肌の感触に

先輩の言っていた病院の意味がわかった…





「・・・・・・」





カオル「・・・・・・」





「・・・私が隣りに座ると最初に必ず

  腰に腕を回して抱き寄せてくれるの好きです…」





カオル「・・・・・・」





「お風呂場で…のぼせてるのが分かると直ぐに

   バスタブのふちに座らせてくれるのも…

 私の為にネズミーチャンネルを契約してくれたのも

 本当は納豆…そんなに好きじゃないのに

  私を信じて納豆トースト食べてくれたのも…」





私の言葉に小さく笑って

「気づいてたの?」と言う先輩に

「半年近く毎日一緒にいますから」と笑い返すと

先輩は顔を近づけてきた…






カオル「・・・・この学生最後の年は…

   俺との思い出で一杯にするよ…」





「・・・・・・」





カオル「・・・・寂しくなったら

  教授の似顔絵描いてる合間にLINEしておいで?笑」





「あんまり描いてたら怒られます…笑」





大好きで…大好きで…

先輩の様に先輩の好きなところを伝えたけれど…

全然足りなくて…

まだまだ大好きな所はあるけれど…





「あの日…シュウ先輩の部屋で…

 部屋から出てきたのが先輩で良かったです…

   カオル先輩に会えてよかったです」





カオル「・・・大好きだよ…」





少しは伝えられたかなと思いながら

先輩の首に腕を回すと

自分の身体の中に今までと違った感覚が走り

「大好きです」と言って

先輩の全てを受け入れた…





カオル先輩は…

いつも達するとギュッと抱きしめて

身体を離すのに…

昨日は達した後も…ずっと…そのままで…





( あんなに何回も… )





何度も感じた自身の中に広がった

温かさが何かも分かっていて…




朝、目を覚ました先輩が

私に腕枕をしながら産婦人科を探し

副作用で体調が悪くなる事がある

という注意事項を見ると





カオル「病院の後は

  ソファーでネズミーの映画を見ようか?」





そう言って私の額にキスをすると

病院に予約の電話をしていた…





( ・・・・早い… )





電話をかけだす位から

先輩の心臓の鼓動が速くなり

カオル先輩も緊張をしているんだと分かって

ギュッと抱きつくと腕枕をしている腕で

抱きしめてきてより心臓の音を感じた…





看護師さんから名前を呼ばれて

「はい…」と立ち上がって

診察室に行きながら先輩に顔を向けると

ネズミーの絵本を見て笑っている姿があり

私も小さく笑ってから診察室へと入って行った





薬を処方されて手を繋いで家に帰ると

カオル先輩がスマホを取り出してから

カレンダーにある書き込みをしだして…





カオル「・・・・ねっ?」


 



とあざとい笑顔で首を傾けている先輩に

恥ずかしくなって顔をプイッと逸らすと

両頬をぷにっと片手で挟まれて

「ん?笑」と言う先輩に

「はい…」と答える私は…

やっぱりカオル先輩のペットなんだと思った
























  

  

 










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