想い

〈エミ視点〉








先生の部屋を出て

トイレに行くと目は真っ赤で

頬には涙の跡がハッキリとついていた…


 




( ・・・・酷い顔だな… )





そう思いながらも

メイクの崩れた顔の奥はスッキリとしていて…





「・・・・先輩…もう帰ったかな…」





スマホを手に取り画面を見ると

カオル先輩から終わったら

連絡をしておいでと届いていた…




スマホの左上に目を向け

3限目が始まっているであろう

先輩にLINEを送ろうとすると

カオル先輩からの着信画面に切り替わり

トイレ前の廊下に人がいないのを確認して

通話ボタンをスライドした






カオル「ちゃんと話はできたの?」





「・・・・・・」





カオル先輩の声を聞くといつも以上に

耳の奥がポカポカとした…

熱いとかじゃなくて…

優しく響く先輩の声に

「会いたいです…」と呟いていた







カオル「・・・・初めて…

  ワガママらしいワガママ言ったね?笑」





「・・・・・・」






先輩は笑っていて

後ろから聞こえてくる虫の鳴き声に

講義には出ないで外にいるんだと分かり

スマホを耳に当てたまま

階段を降りていくと

「こけちゃうよ?」と笑っていて

正門にいるからゆっくりおいでと聞こえた…





建物から出て正門に続く坂道を走っていくと

坂の下にカオル先輩の姿が見え

走る足を止めて「ハァハァ…」と息を整えながら

コッチに顔を向けて「今日は本当のお疲れ様だね」と

笑っている先輩の笑顔が見えて

「お疲れ様です…笑」とスマホ越しに返して

ゆっくりと坂を降りていくと







カオル「・・・・出席は?」





「堺先生が…他の先生達と話し合うって…」





カオル「そう…ノート見て笑ってたでしょ?笑」





「・・・ネクタイの柄まで描いてるのかって…

  少し怒られました…講義に集中しなさいって」






「大丈夫そうだね」と

クスクスと笑う声を聞きながら

スマホを握っている手にギュッと力が入った…





( ・・・・触れたい… )





カオル「・・・・笑実ちゃん…

   今年は沢山お祭りに行こうか?

   ヒョウ達と皆んなでも行って…

   去年約束した花火大会は…

   浴衣を着た笑実ちゃんと二人で行きたいね」





「・・・・約束…覚えてくれたんですね…」





カオル「笑実ちゃんとの約束は忘れないよ…

   試験勉強を頑張る笑実ちゃんにまた

   アイスの差し入れをして

   俺たちの試験勉強中は笑実ちゃんに

   寮母さんになってもらおうかな?笑」





「・・・・・・」





カオル「笑実ちゃんの二十歳の瞬間は

  シュウの家で甘いお酒を飲んで…

  夏休みに入ったらアキラ達と皆んなで

  ログハウスを借りて泊まりに行って…」

   


   

   

カオル先輩の話を聞きながら

鼻を啜りながら「楽しみですね」と頷いて

数歩先の先輩の顔を見つめた






カオル「笑実ちゃんはお月見とかも好きそうだね?笑」





「好きです…きな粉餅作って食べたいです…笑」





先輩はスマホを耳から離し

私を見て笑いながら

「ヒカル達も喜ぶよ」と言ってくれて

いつもの様に手を引いて歩き出した






カオル「俺の誕生日には…

   作った梅酒を飲んで騒いで

   ハロウィンは…何しようか?笑」






先輩が今私に聞かせてくれている

この話の意味が分かり胸の奥がギュッと

嬉しい苦しさを感じた…




   


カオル「冬はまた連日鍋で笑実ちゃんが怒りながら

   シメの雑炊を作ってるのが想像できるし

   クリスマスは美味しいお肉を食べに行って

   特別なデートもしたいね…」






( ・・・初めてだ… )






カオル「年が明けたらコッチで一緒に初詣に行って

   笑実ちゃんの好きな甘酒を飲んで…笑

   一周年のお祝いもして

   今年のバレンタインはヒョウ達にも配る

   手作りチョコを作らなきゃね?」






そう言って先輩は歩く足を止めると

私の頬にある幸せな涙の雫を指で救ってくれた…







カオル「笑実ちゃんの卒業式には

   正門で花束を持って立っててあげようか?笑」






「かすみ草の花束がいいです…笑」






カオル「ふふ…約束するよ…

   笑実ちゃんとの約束は必ず守るし

   笑実ちゃんの事も…守ってあげるよ」






「・・・・いつも守ってくれてます…

   出会った日から…ずっと…」








カオル先輩は涙で頬に張り付いた

私の髪を耳にかけてくれながら

優しく微笑んでいて

1時間ほど前にあの教室で

言ってくれた言葉を思い出して

「好きです」と先輩の目を見て言った





先輩の事はずっと前から大好きだけど…

今日みたいに先輩を見て

幸せ感じ過ぎて胸が苦しくなるのは

今日が初めてだった…





この想いをどう言葉で表現していいのか

今の私にはまだ分からなかったけれど…

今までの「好き」と少し違う気がした…






カオル「・・2月の俺のワガママ聞いてもらうよ…」






バレンタインの日にベランダで

「溜めておくと」言われていた事を思い出し

先輩の目を見つめていると

カオル先輩も私の目を見つめ返して

「明日…一緒に病院に行こうか?」と言われた






「・・・病院?」





カオル「・・・そう…病院…」






この日…私は…

カオル先輩のワガママを受け入れた…




























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