普通…

〈エミ視点〉









女「あの先輩でしょ?」





女「信じられない…」






いつも以上に突き刺さる視線に

なんでと思いながら講義室へと入って行くと

足を踏み入れた瞬間クラス中の視線が私に集中した…





( ・・・・なっ…なに? )





笑いと軽蔑の混じった視線の中

いつもの様に端の席へと腰を降ろすと

教室へと入って来た沙優ちゃんが

私の方を見て目を見開いて驚き

直ぐに顔を逸らして

亜香里ちゃん達のいる席へと走って行った





教室の所々から「よく来れるよね」や

「アタシなら無理…」と聞こえてきて

なんの事を言っているのか分からず

ファイルから書きかけのルーズリーフを

取り外しながら顔を俯けた





( カオル先輩の部屋に住んでいる事かな… )





今までは「釣り合わない」や

「趣味が悪い」などの

私の見た目に対して先輩と不釣り合いだと

避難する意見ばかりだったが

今日の陰口は少し違っていて

まるで犯罪者でも見るかの様な

皆んなの視線に怖くなっていると

先生が教室に入って来て

小さく息をついた…





出席確認のシートが回ってきたから

シャーペンではなくボールペンに握り変えて

自分の名前を記入しようとすると…





「・・・・・・」





私が用紙に顔を向けた瞬間

クスクスと笑う声が聞こえてきて…

なんで沙優ちゃんが来るなと

連絡してきたのかがわかった…





〝ツカサ先輩に襲われたってほんと?〟





ツカサ先輩が私の知っているツカサ先輩で…

この宛名のない質問も誰に

問いかけている質問なのかも分かり

シャーペンを握る手が小さく震えた…





( ・・・・皆んな…変だよ… )





去年の…あのバイト先の2階での事を

警察にも誰にも話したくない理由は

皆んなに知られて可哀想な被害者という目で

見られたくないからだった…





( ・・・・普通じゃない… )





亜香里ちゃん達は私を

よく変わってると言っていたけど…

私から見たら皆んなの方が普通じゃない…






「・・・・ッ・・ふっぅ…」






会ったことも顔も知らない子が

ああ言う目にあったとニュースで

聞いたり見たりすれば…

何か思うはずだし

私が嫌だと感じていた様な

「可哀想…」と口ずさむのが普通だと思う…





ましてや、クラスメイトで

毎日顔を突き合わせていれば

もっと深く胸を痛めるはずだよ…






( ・・・それを…こんな… )






同情してほしいわけじゃない…

でも…こんな風に…

晒したり…笑ったりするのは…




ここに名前の書かれている

ツカサ先輩よりも…もっと…

卑怯で異常な…加害者だよと思った…





ツカサ「・・・・ほら…」





申し訳なさそうに眉を下げて

豆乳ジュースを差し出してた

ツカサ先輩の顔を思い出し

改めて先輩達と…クラスの皆んなは違うと

嫌になるほどに感じた…





私は小さく深呼吸をする様に息を吐き

グッと奥歯に力を入れて

シートに名前を書いてから次の子達に回した…






( ・・・・泣きたくない… )






こんな…こんな子達の為に泣きたくない…

涙がもったいないと思いながら

板書をルーズリーフに書き写していった…











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