学生生活…

〈コウ視点〉








( ・・・・なんだ? )






さっきの講義中も思ったが…

カフェテリアに俺たちが入って行き

中を歩いていると

いつもより視線を感じる気がした





ヒョウ「・・・・なに?なんかついてんの?」





ヒョウも異様な雰囲気の視線に気付いて

自分の背中に手を当てていたが

ヒョウの背中にも俺たちの背中にも

何もついてなく…






シュウ「先々週の飲み会でハメ外しすぎたやつか?」






シュウが小声でそう呟くと

カオルが「違うみたいだね」と

顔を入り口側に向けていて

俺たちもカオルと同じ方向に顔を向けると

眉間にシワを寄せたアキラ達が入って来た





シュウ「・・・いい話じゃないみたいだな…」





アキラやサトルの表情を見て

何かあったんだろうと思い

食べようとしていたパンを

テーブルに置いて目の前に来た

アキラ達に顔を向けた…






ヒカル「・・・なんか怒ってんの?」





アキラ「・・・・年明けの事が噂になってる」






「年明け?」とヒョウが顔を傾けながら

問いかけるとアキラは何も言わずに

カオルの方へと顔を向けたから

笑実ちゃんとツカサの事だと分かった






コウ「・・・・なんで?」





サトル「・・・・誰か…話したんだろ…」






誰がと思いながら少し後ろの椅子に座っている

カオルに目を向けると

カオルも驚いているようで目を見開いて

アキラ達の方を見ていた…






アキラ「そのうち教授達の耳にもはいるだろうし…

   ツカサは…さっきジンと帰らせたけど…」






カオル「・・・・・・」







カオルがスマホを取り出した瞬間

「カオル…」とルナが眉を下げて近づいてきた





ルナは周りの目を気にしながら

俺たちの席に歩いて来ると

「噂の件…」と言いにくそうに話し出した





どうやらあの日の飲み会に来ていた

ルナの友人の一人が

県人会で口を滑らせてしまったらしい…






サトル「口のかりー女はだから嫌なんだよ…

  これでツカサが退学とかになったら

     許さねーからな?」





アキラ「・・・・県人会だから…

   アイツと同じクラスの奴もいたはずだ…」






アキラの言うアイツは間違いなく

笑実ちゃんの事だろうし

大丈夫なのかと軽く握っていた拳の中には

うっすらと汗をかいていた…


   




ルナ「・・・・カオル…

   あの子と…別れた方がいいかも…」






ルナはいつもの強気な言い方じゃなく

眉を下げたままカオルを見てそう言うと

「色恋の話は後にしろよ」と

サトルは目を細めてルナを睨んでいるが…





ルナがカオルを好きだった事は皆んな知っているし

笑実ちゃんと付き合っているのを

面白く思ってないのも事実だろう…






でもサトルの言う「色恋」の感情だけで

言っていない事は

何となくルナの表情から伝わった…







ルナ「・・・学生生活って…一生に一度だし…

      あの子は短大生で

    今年が最後の一年なわけだから…」






カオル「・・・・・・」







ルナ「カオルの彼女だってバレて

   隣で…結構大変みたいだよ…」







やっぱりかと思い小さくタメ息を吐くと

「大変って…なんで?」と

ヒョウがまた顔を傾げていて

「面白くないんだよ…皆んな」とルナが答えた






ヒカル「皆んなって…

  沙優ちゃんや里奈ちゃんと一緒にいるんじゃ?」






ヒカルはカオルに顔を向けて

問いかけていたけど

カオルはヒカルに顔を向けずに

真っ直ぐとルナを見ていた…







ルナ「・・・・シュウが

  飲み会に連れて来ていた一年生達なら…」







ルナの「もう一緒にいないみたいだよ」と

言う言葉が話し終わるのとほぼ同時に

カオルのスマホから陽気な音楽が鳴り出し

笑実ちゃんからの電話かと思い顔を向けると

カオルは目を細めてスマホを見下ろした後に

「もしもし」と言って席から離れて行った…






( 笑実ちゃんじゃないのか? )






今の笑実ちゃん相手に

あんな表情をするとは思えず

誰なんだとガラスの向こうで話している

カオルの背中を眺めていると…






ヒョウ「一緒にいないなら…

   今だれと一緒にいんの??」





サトル「こんな時にボケてんなよ…

   ハブられててボッチなんだよッ!」






ツカサの事が心配なサトルは

眉を寄せてヒョウにそう怒鳴ると

ヒョウは目をパチパチとまばたきさせて






ヒョウ「だから…ツカサとの噂が広まってる今…

  チワワは誰といるのって聞いてるんだよ」


  




アキラ「・・・・・・」






ヒョウ「ツカサは…ジンやアキラ達もいるし…

   今、家にいるなら平気だろうけど?

   チワワ…学校じゃないの?」






ルナは少し前に垂れてきた前髪をかき上げながら

小さくタメ息を吐き顔を下げていて…





同性のルナの方が

今の笑実ちゃんの状態を想像しやすく

ルナのその表情が答えのような気がした…






サトル「はぁ…だから年下のガキは嫌なんだよ…」






カオルは電話を終えて席に戻って来ると

椅子には座らず荷物を手に取り出したから

今から笑実ちゃんの所に行くんだと分かり

「女子大だぞ?」と声をかけたが

カオルは気にする様子はなく…




ルナの横を通り過ぎようとする

カオルの腕をルナが引いて止めた…






ルナ「・・・カオルが行けば余計に反応するよ…」






カオル「・・・・腕…離して…」






カオルは顔をコッチに向けていないけど

今どんな表情をしてそう言っているのか

声を聞いただけで分かった…





少し前も学校帰りにシュウの家に

寄るはずの笑実ちゃんが中々現れず

連絡も取れないでいると

カオルの顔は段々と曇っていき

「マンションに帰ると」部屋を出て行く時には

険しい顔つきになっていて…

あんな顔をカオルにさせれるのは

笑実ちゃん位だろう…





( いき過ぎた独占欲的なものもあるだろうが… )







サトル「・・・ルナの言う通りかもしれないぞ?」






アキラ「・・・・・・」






サトル「言われるのも見られるのも…

   カオルじゃなくて向こうだからな…」






サトルは笑実ちゃんを好んでないし

いつも何かと虐めるような物言いをするが

今回は…サトルの意見に同調してしまった…





同じ大学ならまだしも

笑実ちゃんがいるのは隣りの女子大側で

男である俺たちが無闇に出入りできる場所ではないし

その籠の中で一人で耐え続けるのは

正直酷な話だと思ったからだ…





笑実ちゃんは…

普通のいい子なんだけど…

きっとその〝普通〟が

皆んなのかんに触っているんだろう…


 





ルナ「卒業までまだあるし…講義もお昼も…

  ずっと一人きりにさせるつもりなの?」






カオル「・・・・・・」






ルナ「ツカサの件だってあったし…

   学校での思い出もそんな感じだと…

   あの子にとってのこの2年間が辛くなるよ」






コウ「・・・・・・」







一年生の時に仲良く一緒に行動していた

沙優ちゃん達とも離れてしまっているなら…

そうかもしれないなと思い目を閉じた…





カオル「俺と離れたら元に戻れんの」






少し口調がキツくなっているのが分かり

ルナに怒鳴るんじゃと心配して顔を上げると







ルナ「皆んなの前でフッてあげたら…

   多分…少しは落ち着くと思う…」






カオル「ツカサとの件は」







ルナ「・・・元は…カオルとの噂が原因だから

   カオルの彼女じゃなくなれば…」






ヒカル「・・・・落ち着くってわけね…」






ルナ「・・・・今のあの子は…

   皆んなが羨むヒロインだから…

   カオルと幸せにしてればしてるほど

   嫉妬が集中すると思う…」






アキラ「・・・・魔法をといてやれって事か…」







面倒くさそうにタメ息を吐きながら

カオルの腕を掴んでいるルナの手に視線を下げ

アキラはカオルに何かを伝えてから

ルナの手を離させた…





カオルは何も言わずにそのまま

カフェテリアから出ていき

シンッとした席でヒョウが

「茶碗蒸し…」と小さく呟いた






ヒョウ「・・・・チワワがさ…

  次は秋の茶碗蒸しが作りたいって言っててね」






シュウ「・・・秋の茶碗蒸し?」






ヒョウ「そう…銀杏とか…さつまいもの入ったやつ…」






ヒカル「・・・・美味そうだな…笑」






ヒョウ「うん…絶対美味いよね?笑

  だから…楽しみにしてたんだけどね…」






普段空気の読めないヒョウやヒカルでさえも

カオルが今…何処に何しに行ったのかが分かり

食べる事のないであろう茶碗蒸しの話をしていた…










   












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