梅酒…

〈コウ視点〉








カオル達とファミレスに向かって歩いていると

先の信号を渡ってスーパーに入っていく

笑実ちゃんの姿が見えて

今日は4限目までのはずじゃと

カオルに顔を向けると

カオルも何か考えているのか

見えなくなった後ろ姿の先に顔を向けたまま

「後で行く」と言って信号を渡って行った






ヒョウ「夕飯の買い出しかな?

   チワワもいるならファミレスじゃなくて

   何か作ってもらおうか?」






相変わらず笑実ちゃんを

家政婦のように扱ってと少し呆れながらも

シュウの部屋でだらけながら

食べたいかもなと思い

ヒョウ達と一緒にスーパーへと入った





( ・・・学校は…うまくいってるのか? )





先月の連休中に笑実ちゃんも一緒に

IKEYAに行くはずだったが

「沙優ちゃん達と4人で遊ぶみたいだよ」と

カオルから聞いて少し安心していたが…




なんとなく…一人でいる事が多い気がして

沙優ちゃんや…亜香里ちゃん達と

一緒にいるのか疑問だった…





( ・・・・・・ )






横を歩くシュウに少し視線を移し

沙優ちゃんの事を聞こうかとも思ったけど

あれ以来会っていないだろうし…

笑実ちゃんもシュウの前で

沙優ちゃんの名前を出さなくなった…





( 俺が聞くのも変だしな… )





店内を見渡していると奥の売り場から

顔を動かしながら歩いて来るカオルを見て

笑実ちゃんが見つからないのかと

俺も通路の間を覗きながら歩くと…





ヒョウ「今日の夕飯はなに?」






ヒョウがそう言って少し先の通路に

曲がって行くのを見て

俺もその角の先を覗くと

笑実ちゃんがいたのはアルコール飲料の棚だった





カオルの酒でも買うのかと近づいて行くと

反対側の通路からカオルも曲がって来たから

カオルにもヒョウの声が聞こえたんだと思った





ヒョウ「4限目休講なんだって」





ヒョウはカオルにそう伝えると

また笑実ちゃんに夕飯を催促している…





カオル「休講なの?」





「先生が体調悪いみたいで」





カオルが近づいて来ると

少し赤くなった頬を高くして

「お疲れ様です」と言う笑実ちゃんに

付き合いだしてもう半年近くになるのに

相変わらずカオルに従順だなと思って眺めた





シュウ「酒まで買い出しさせてんのか?」





シュウと片手にカゴを持ったヒカルも来て

ハイボール用のウィスキーを手に取っているから

ファミレスには行かずに

笑実ちゃんに料理させる気だなと分かり

俺も後ろの棚にあるビールに手を伸ばした





「お酒っていうか…お酒なんですけど…」





そう言いながらしゃがんで

ホワイトリカーのボトルを

両手で持ち上げた笑実ちゃんを見て

「もしかして梅酒?」と問いかけた






ヒョウ「梅酒??チワワが飲むの?」





「・・・・12時過ぎて…

 20歳になったら飲もうかと思ったんですけど…」






笑実ちゃんは…

俺たちとの食事の席でも

ノンアルコールのカクテルや

あの豆乳ジュースを飲んでいて

てっきりアルコールが得意じゃないのかと

思っていたが…






( ・・・・真面目だからなぁ… )







20歳になった自分のお祝いに

手作り梅酒を作ろうとしている所が

また、笑実ちゃんらしいなと思い

顔を下げて「フッ」と笑った…







ヒカル「いいじゃん!

  12時過ぎたら皆んなで飲もうぜ?」






「・・・3ヶ月以上経たないとダメみたいで…」






顔を下げて手にあるレシピメモを見ながら

そう呟くのを聞き…




笑実ちゃんの誕生日は8月頭で

梅を漬け込んで2ヶ月程度の時期だから

まだ飲み頃ではないんだと分かった






カオル「笑実ちゃんの誕生日には…

   サングリアでお祝いしようか?笑」





「・・・・さん…ぐりあ?」





カオル「ワインにフルーツを漬けたお酒だよ

   20歳になりたての笑実ちゃんでも

   飲める様に甘めに作ってあげるから…笑」

  

 




そう言いながら笑実ちゃんの手にある

ホワイトリカーのボトルを取ってあげると

「だから梅酒は俺の誕生日に飲もうか?」

と言って目を細めながら笑実ちゃんを

見つめる瞳は蕩けそうな位に甘く…






シュウ「あちぃーなぁ…

   このスーパー冷房壊れてんのか?笑」






二人を揶揄う様に

シャツの襟元を手で引っ張り

パタパタと仰ぎながら笑うシュウに

俺も同調して「暑いな?笑」と揶揄った






ヒョウ「・・・・ていうか…

   俺達来なかったらチワワそれ買えてないよ?」





「え?」





ヒョウ「だってそれお酒だから」






確かにホワイトリカーはアルコールで

笑実ちゃんはまだ19歳だから

レジに持って行っても買えなかっただろう…






( ・・・・そうなんだけど… )






笑実ちゃんに小学生の子供の様に

「夕飯は何?」と付き纏っているヒョウが

1番冷静な事を口にしたから

何となく皆んな…変な感じになった…



   


俺たちは梅酒を漬け込む用の果樹酒瓶も買って帰り

カオルの誕生日の夜中…12時を過ぎた時に

皆んなで飲んで乾杯しようと梅酒を漬け…





笑実ちゃんはカオルが支えた

ホワイトリカーのボトルを瓶に傾けて注ぎながら

「楽しみです」と笑っていて…

スーパーに入りなが俺の抱いていた疑問が

悪い方に当たらなければいいなと思っていた…
























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