チクチク…

〈エミ視点〉








「・・・・・・」





下腹部にチクチクとした痛みを感じ

何となくその理由も分かって

講義終了とともに直ぐに教室から出て行き

あまり使われていない棟にあるトイレへと向かった





( ・・・やっぱり… )





下着を汚している赤い模様を見て

「どうしよう」とタメ息をついて

白いスカートは大丈夫かと確認し

一週ほど早くきた今回の生理に

緊急用のナプキンもなく頭を悩ませた…





買いに行ってたら次の講義に間に合わないし…

このまま出席すれば間違いなく

スカートに血が滲むだろう…





( 女友達がいたら助けてもらえるのに… )





トイレから出て手を洗いながら

次の講義の欠席回数はいくつなんだろうと考えた





「・・・・異常だよ…」





中々おさまらないどころか

ヒートアップしているこの現状に

最近は数分に1度のペースでタメ息を吐いている




ゴールデンウィークのあの件以来

沙優ちゃんとも連絡をとってなくて

本当に一人ぼっちだなと思いながら

次の講義の教授の部屋へと向かった




扉をノックして体調が悪いと説明し

今の欠席回数を確認してもらうと…





先「今回で……3回目だぞ?」





先生の答えにやっぱり他の教科も

名前を消されていたんだと分かり

明日にでも他の先生の元へ行き

確認しなきゃいけないなと思った…





先「・・・・いつも出てるイメージだが…」




「・・・・体調管理に気をつけます…」





話してもどうにもならないしと思い

先生に頭を下げてから

階段を降りて行きマンションへと帰った





( ・・・・ほっといてくれたらいいのに… )





講義も一人で座って受けるし

お昼も学食とかには近づかないし…

ただ…ほっといてほしい…





全員がカオル先輩とナニかあったわけじゃないし

カオル先輩を好きじゃない子達まで

どうしてと不思議でたまらなかった…





このままじゃまた泣いてしまう気がして

バックからスマホを取り出して

詩織ちゃんか美香ちゃんに電話をしようかと

迷ったけれど二人とも大学生で

講義中だろうと思いスマホを手に握ったまま

歩く足を早めて帰って行った





下着を取り替えて冷蔵庫から

作っておいた麦茶をグラスに注いでいき

キッチンに目を向けると

カオル先輩が朝ごはんとは別に

昨日の夕飯の残りも食べて

学校に行ったんだと分かり

「ふふ…」と小さく笑ってから

麦茶をゴクッと飲んだ





「・・・・やっと…息ができる…」





先輩のこの部屋にいる時だけが

誰の目も気にせず…

何も…聞こえてこなくて…





( ・・・・落ち着く… )





普段は鎮痛剤をあまり

服用しない様にしているけれど…

今日は…眠りたかった…




下腹部の痛みも…

胸の痛みも全部眠って忘れてしまいたくて

救急箱にある鎮痛剤のパッケージ裏を見て

服用後の注意事項に機械の操作運転の

記述を確認してから麦茶と一緒に飲み込んだ…





( ・・・・・・ )





シンッとした部屋の中で

自分の胸のキリキリとした痛みが

身体中に響く感じがして

スマホを操作して

赤ちゃんの時に毎日聞いていたであろう

あのマーチ曲のオルゴールバージョンを

リピート再生にして目を閉じた…




きっと…この曲をベッドの上で聴きながら

眠りについていた頃の私は…

こんな未来…想像していなかっただろうな…




( ・・・・お…母さん…? )




自分の指が人肌の何かを掴んでいるのを感じ

ギュッと握り締めて目を開けると

カオル先輩の顔が目の前にあり

おでこの少し上を撫でられていた…





「・・・・・・」




カオル「・・・・・・」




カオル先輩とは目が合ってるのに

先輩はいつもの様に笑って

「おはよう」とは言わずに

ただ私の目を見つめ続けている…





「・・・・お帰り…なさい…笑」




カオル「ただいま…笑」





私が笑うとカオル先輩も小さく笑い返してくれて

「体調悪いの?」とテーブルにある

鎮痛剤の箱を見てそう問いかけてきた





「・・・・早く…きまして…」





何となく伝えるのが恥ずかしいけれど

カオル先輩とは…一緒に寝るし…

伝えておいた方がいいかなと思った…




先輩は「そうゆう事」と言って

笑いながら私のお腹に手を当てて

「一週間はお預けだね」と揶揄ってきた




ゆっくりと体を起こして

窓の外に目を向けると外は真っ暗になっていて

ずいぶんと寝ていたんだなと思いながら

コツッと手に当たったスマホに

先輩からのLINEと不在着信がはいっていた





カオル「うちのお姫様は

   俺が探してる時はいつも寝てるね?笑」





「いつも…ですか?」





カオル「去年も…先月も…今日も…

   眠り姫の曲に変えなきゃね?笑」





カオル先輩の言葉に

「人魚姫の曲がいいです」と言うと

「どんな曲だっけ?」と言いながら

リモコンを操作しだして

ネズミーチャンネルをつけている

カオル先輩のこめかみにソッと唇をあてた




カオル「・・・・・・」




先輩はリモコンから手を離して

私の頬を撫でながら

触れるだけのキスをしてくれて…

それ以上のキスをしようとはしなかったから

自分から初めて舌をペロッと絡めてみた…





カオル「・・・お腹……痛い?」





先輩はジッと私の目を見つめて

そう問いかけてきて

「今は…大丈夫です」と答えると

脇の下に先輩の手がグッと入り

抱き上げられたまま脱衣室へと連れて行かれ

「えっ…」と戸惑った…




先輩は私を降ろすと

いつもの様に先にシャワーを出して

今から入る浴室を温めだした…




「・・・・でも…今は…」




生理だと伝わってないはずはなく…

ライトの消された灰色の浴室に目を向けて

一歩後ろに下がると

カオル先輩は服を抜き出して「おいで」と

いつもの様に手を差し出してきた…





「・・・・・・」





カオル「・・・流石に俺も初めてだけど…」





カオル先輩の言葉に逸らしていた顔を

先輩の方へと向けた…





カオル「・・・・おいで…」




「・・・・・・」





ヒョウ先輩やアキラ先輩が

私の事をカオル先輩のペットとか…

犬と呼ぶけれど…





( ・・・・多分…間違っていない… )





先輩から言われる「おいで」には

逆らえないから…




この日のカオル先輩は

私を〝抱きしめる〟様に優しく抱いてくれて

ただ…ただ…先輩の温もりを感じていた…




きっと…部屋の中で

あのオルゴールを聴きながら眠っていた私に

何かを思ったんだろう…















































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