地味…

〈エミ視点〉







窓の外から照りつける陽射しに目を向け

予定していた夕飯のメニューを

変更しようかなと考えていると

「ここまで」と言う先生の声が聞こえ

一気にガヤガヤと話し声や

教科書などをバックにしまう音が

教室中に響きだした





私もペンケースやルーズリーフを

バックの中へとしまい

1番前の先生のいる教壇へと歩いていき

出席確認の用紙に名前を記入した





先「書いてなかったのか?」





先生の問いかけに

「すみません」とだけ答えて

そのまま教室から出て行き

前方から歩いてくる一年生達が

コッチを見て「カオルさんの…」と

噂話をしているのが分かり

「ふぅ…」と小さく息を溢した

 




ゴールデンウィークの連休が明けると

里奈ちゃん達が言っていた通りに

あまり話した事のないグループの子達が

お昼を一緒に食べようと声をかけてきた…





( 知らなかったら…きっと…喜んでた… )





「一人で食べたいから…」と断ると

ニコニコと笑っていた顔は一気に曇り

亜香里ちゃん達とのカラオケをすっぽかした事も

耳にしていたみたいで「生意気」と言われだした





「最近の笑実ちゃん、カオル先輩と

 付き合ってるからって調子に乗ってるよね?」





それから2週間経った今も

ほっといてくれる事はなく校舎の中や

学校の敷地内…スーパーでも

すれ違ったりする度に

「全然似合わない」と…

年下である一年生にすら陰口を叩かれていた





私と付き合い出してからは

ああ言う飲み会には参加しなくなり…

春に入学してきた一年生達が

カオル先輩を知る事はないはずなのに…

噂はおさまる事なく今も続いている





( 夏休みまで…あと2ヶ月位か… )





スーパーの中を歩きながら

サッパリしたのがいいかなと思い

入り口に飾られている

スタッフさんのお勧めレシピを眺めていると

「主婦か?」とアキラ先輩の声がした





「お疲れ様です」と頭を下げると

アキラ先輩は口の端を上げて

「お前、年齢詐称してるだろ?」と笑っていた





アキラ「今日の夕飯は何だよ、かーちゃん?笑」





「・・・・・・」





初めて会った時より怖くないし…

話しやすくなったけれど

アキラ先輩やサトル先輩はやっぱり

少し失礼で意地悪だと思う…





「鳥大根だったんですけど…

  暑かったからサッパリしたのにしようかと」





アキラ「鳥大根って…」





アキラ先輩は「本気の主婦だな…」と

少し引いたように言い

レシピメモの中からパッと一枚の紙を取り






アキラ「たまにはこんなのも作れ

   カオルも毎日、地味飯じゃ飽きるぞ?」






そう言って棒々鶏の

レシピメモを差し出してきた…





「・・・・地味飯…」





メモを黙読しながら足りない材料を見ていると

アキラ先輩が窓の外を見ているのが分かり

何となく視線の先にあるものも想像ができた






アキラ「・・・・お前はホントに

   一難去ってまた一難の繰り返しだな?」





「・・・・・・」





アキラ「カオルに言って

  宅配にでもした方が楽なんじゃねーか?」





「・・・・見て…買いたいです…

  野菜とか…お肉とか…それに…」



 



アキラ「・・・・・・」






カオル先輩がしていた事は…

まぁ…確かに褒められた事じゃないけど…




私を含め…皆んな分かってたはずだから…

そんなカオル先輩だと分かった上で

会いに行っていたし…





( ・・・・好きになったから… )





私と付き合いだしても

集まりに行って他の子とナニかあるなら

変な目で見られるのも…分かるけど…





「何も悪い事してませんから…」






私はカオル先輩を好きだし

先輩も私を大切にしてくれているのを

ちゃんと感じている…





「コソコソする理由も…ありませんから」






そう言ってアキラ先輩の顔を見上げると

先輩は私の顔をジッと見た後に

小さく笑って私の手にあった

棒棒鶏のレシピメモを取り上げて棚に戻した






アキラ「鳥大根にしてやれ…カオルもきっと喜ぶ」





「でも…地味飯ばっかりじゃって…」





アキラ「カオルはなんでも

  〝地味め〟が好きだから大丈夫だろ?」






やっぱり意地悪で失礼な先輩だと思い

「どんな顔でダンス踊るんですか?」と

問いかけたら「はぁッ!?」と

いつも以上に怖い顔で睨まれた…








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