〈エミ視点〉








自分の部屋に入りガチャッと鍵を閉めると

「ふッ…」と口から声が漏れて涙が溢れ出てきた…




あんな言葉を聞くんだったら

カラオケ屋になんて誘われずに

連休があけても何も知らないまま

クラスで一人浮いてる方がマシだった…





「まだ……そのッ…がよッ…か…た…」





私と亜香里ちゃん達や…クラスの皆んなは…

私と詩織ちゃんや美香ちゃん達とは違う…

カオル先輩とシュウ先輩達とは違う…





「ァキラ…せんッ…ぃたちとも…」





玄関に座りこんで泣きながら

自分が1年間過ごしたあの場所に

本当の友達と呼べる人は

誰一人いない気がして

涙が止まるまで泣き続けた…




どれくらい時間が経ったのか分からないけれど

玄関のドアに背中を預けて

ぼーっとしたまま子供の時から大好きな

あの…マーチソングを口ずさんでいた…





シオリ「えっ…着信音ネズミーの曲なんですか?」




カオル「そう…いい曲だからね?笑」





駅のホームで電車が来るのを待っていると

カオル先輩のスマホが鳴り出し

「シュウだから後でいいかな」と

電話には出ないまま

スマホを私の耳に当ててきた




スマホから聞こえるマーチ曲に

カオル先輩を見上げて笑っていると

詩織ちゃんも「いい曲だよね?」と笑っていて…

あの楽しかった数日前を思い出し

「ふっ…」と小さく口の端が上がった





スマホを手に取って画面を見ると

亜香里ちゃん達とのグループトークに

「まだ?」と連絡がきていて

沙優ちゃんが私がいた事を

二人に話していないんだと分かった





( ・・・・・・ )





グループトークに私の既読マークが

ついただろうと思ったけれど

何も返さないまま

カオル先輩のトーク画面を開いた





「・・・ふふ……怒ってるのかな…」





羽目を外すなのLINEを読んだまま

返事を返していなかったからか

【お土産コレにするよ】と

私の嫌いなニワトリの

ぬいぐるみの写真が送られてきていた





【可愛いのがいいです】と送り

ゆっくりと立ち上がって財布だけを手に持ち

一階にある自動販売機へと向かった





「・・・・ひやしあめ…ないんだ…」





飲みたい物がなく自販機を眺めていると

カオル先輩がよく飲む炭酸飲料が目に入り

そのボタンを押してみた




缶ジュースを手に取って

部屋に戻るとカオル先輩から

【もうニワトリ買ったよ】と

返事が届いていて「嘘つき…笑」と

笑いながらベランダに座って

買ったジュースを一口飲んだ





( ・・・・私だから… )





皆んなが文句を言う理由は

カオル先輩じゃなく私にあるのは分かっている…





「・・・・変…なんだよね…きっと…」





お昼の高く澄みきった綺麗な空を眺めながら

そう呟き手にある缶ジュースをトンッと

ベランダに置いて「微妙です…」と

ここにいないカオル先輩に文句を言った





甘酒やお汁粉や…ひやしあめを好む

自分が変わっている事は分かってるし

見た目も釣り合っていない事は分かってる…





いつも「なんで私?」と不思議に思うけど

カオル先輩が私にくれる全てに

嘘は一つもなくて…






「・・・・私じゃなくて…

  皆んなの方が…おかしいよ…」






そう空を見上げて口にしてみると

不思議と胸の奥につかえていた思いが

ストンッと軽くなった気がした…



 


好きになった人から

「好き」と言ってもらえて

付き合っているだけなのに…

何であんな事を言われたり

学科交流会に呼ばれなかったり

されなきゃいけないんだろうと…

ずっと…不思議に思っていた…






アキラ「お前は彼女なんだろ?

   なら中にいるのはお前の彼氏だろうが」






アキラ先輩に言われた時は

まだ…自信がなかった…




( 本当に私が彼女なのかなって… )






アキラ「カオルの事が本当に好きなら入れ…

   怖くて、自分が一番なら今すぐ引き返せ…」






中に入ってカオル先輩が他の女の子と

楽しそうにしていたらって…

不安で帰りたかった…





でも…カオル先輩を

好きな気持ちに嘘はなかったから…





ベランダにいるカオル先輩を見つけた時に

先輩が〝一人〟でそこにいる事を

選んでくれた事が…嬉しかった…






スマホに目を落とすと

カオル先輩からの着信中の画面が表示されていて

「ふふ…」と笑って手に取った





「今日は連絡沢山ですね?笑」





カオル「変なバイトしたら承知しないよ?笑」





「ふふ…しません…笑」






きっとカオル先輩は

私がまたスナックのバイトをお願いされて

断りきれずに働くんじゃないかと

心配しているんだと思った




連休が明ければまた学校で

亜香里ちゃん達や…クラスの皆んなと

気まずい学校生活が始まる





( ・・・・でも… 私も… )





私も選ぼうと思った…

カオル先輩があの寒い空の下

ベランダで一人でいる事を選んでくれた様に

あの友達のいない教室で

一人でいる事を選ぼうと思った…





カオル「帰って家にいなかったら

   スナックに迎えにいくからね」





電話の向こう側で

「カオル先輩こっわぁーい!」と

先輩達がのふざけてる声が聞こえてきて

私も笑いながら「怖いです…笑」と同調した





夕方家に帰ってきた先輩達は

大きな段ボールを持って入って来て

数人がかりで棚を2個組み立ててくれた






ヒョウ「チワワの…なんだっけ?」





カオル「学校の教科書とか

  アパートに色々あるやつ持っておいで」






この前アパートに迎えに来てくれた時に

部屋の中を見渡していた姿を思い出し

カオル先輩達が私の為に

IKEYAに行ってくれたんだと分かった





「ありがとうございます」





カオル「いい子に家にいたからね

   コレもお土産であげるよ?笑」






そう言って袋から出てきたのは

写真で送られてきていたニワトリの人形で…





カオル「既読スルーするような

   悪い子に躾けた記憶はないからね?笑」






可愛くないニワトリの人形を突き出しながら

そう言うカオル先輩の顔は少し意地悪だった…


















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