笑実ちゃんに…

〈サユ視点〉









アキラ「何か作れよ」





アキラ先輩の言葉に「え?」と振り返ると

先輩はベッドの上でスマホを触りながら体を起こすと

「腹減ったから何か作れ」と言ってきた





サユ「急に言われても…」





アキラ「適当でいい」





先輩は洋服を着ると

タバコを持ってベランダへと行き

「適当って…」といいながら

冷蔵庫の中を見て

オムライスならいけるかなと思い

冷凍してあったご飯をレンジに入れた




野菜を細かく切っていると

部屋に戻って来た先輩はテーブルの前に座り

テレビをつけてまたスマホを触っていた





( ・・・・女の子かな… )





シュウ先輩はあんまり

スマホは触ってなかったなと思いながら

切った野菜を炒め解凍したご飯をフライパンに入れた






シュウ先輩と会わなくなって

だいぶ経つなと思いながら

目線だけアキラ先輩に向けた





( ・・・アキラ先輩とは…会えるのに… )





年明けにたまたまコンビニで会ったあの日から

ズルズルと続いているこの関係に

何やってるんだろうと思いながら

「卵は半熟がいいですか?」と聞くと

顔も上げずに「適当」とだけ返ってきた…





オムライスをお皿に乗せて

アキラ先輩の前に出すと

先輩は「卵ってこれかよ?」と言って

スプーンを手にしたから

「何だと思ってたんですか?」と聞くと

アキラ先輩は素っ気なく

「卵焼きとかで良かったんだよ」と…

美味しいともありがとうとも言わずに

スマホを触りながらダラダラと食べていた





( ・・・作りがいないな… )





シュウ先輩ならきっと「美味い!」とか言って

食べてくれるんだろうなと思い

アキラ先輩がつけたまま見てもいない

テレビ番組をただぼーっと眺めていると

急に隣りから笑い声が聞こえ

驚いて顔を向けると

アキラ先輩がスマホを見ながら笑っていて

いつもの不機嫌顔とは違った

可愛い印象だったから更に驚いた…






アキラ「カオルのチワワが

   ついにCカップになったんだとよ?笑」




「えっ…笑実ちゃんが?」





アキラ「お前…ダチの癖に失礼だな?笑」






ヒカル先輩からLINEがきたらしく

笑実ちゃんが今…

シュウ先輩の部屋でヒカル先輩達と

一緒にいるんだと分かり

改めて自分と笑実ちゃんは違うんだなと思った…





笑実ちゃんは…

シュウ先輩の友達であるカオル先輩の彼女で…

あたし達みたいにただ飲み会に

呼ばれるだけの女の子達とはきっと違うんだ…





数日後に学校に行くと

クラス中の雰囲気が少し違っていて

あまり話したことのないグループの子が

笑実ちゃんとカオル先輩って付き合ってるのと

私に聞いてきた…





女「隣りの4大の先輩から

  バレンタインの日にあった飲み会で

  カオル先輩がうちの短大の子と…

  ずっと一緒にいたって聞いたんだけど…」





サユ「えっ…」





女「カオル先輩…年明けてから…

  合コンにもあんまり参加しなくなったみたいだし

  その子と付き合ってるんじゃないかって…」






その話は直ぐに里奈ちゃん達の耳に入り

登校してきた笑実ちゃんに問い詰め出して…

噂は一気に広まっていった…






「春休みのうちに一人で

 カオル先輩に会いに行っていて付き合いだした…」

  





あたしに気を遣った笑実ちゃんが

里奈ちゃん達にそう言ってくれて

学校では里奈ちゃんや亜香里ちゃんと

一緒に行動しているけど

笑実ちゃんはクラスでも

浮いた存在になってしまった…





女「自分の彼氏があれだけ周りとナニかあるとか…

   あたしだったら絶対に嫌だな?笑」





女「てか…普通に性病とか持ってそうじゃん?笑」






クラスでも学食でも…

何処にいても聞こえてくる噂話の大半は

嫉妬心からくる言葉ばかりで…




笑実ちゃんは皆んなとは違う!

付き合うまでカオル先輩は

一度も手を出したりなんかしないで

ずっと大事にしていたんだから!






( そう言ってあげれたらいいのに… )






言えずに里奈ちゃん達の話す言葉に

「うん」と控えめな同調しか出来ない

自分がすごく嫌だった…





笑実ちゃんは噂があっても

普通に学校に来ていて一人で講義を受けて

お昼も一人で食べているみたいだった…





( 笑実ちゃんは…やっぱり強いな… )





あたしだったら

学校に来れないかもしれない…





弱虫で卑怯なあたしは

夜に大丈夫?とLINEを送る事しか出来ず…

2週間が経っても…3週間が経っても…

笑実ちゃんへの冷ややかな視線は止まらず

一年生との交流会の連絡も個別LINEで届き

何の為にそうしているのかも検討はついた…





笑実ちゃんに連絡しようか何度も悩んだけれど

もし、笑実ちゃんが飲み会に来たら

誰が教えたのとその犯人探しをするだろうと思い

また弱虫な自分が顔を出して

教えてあげられなかった…




何も連絡しないままだと

笑実ちゃんも何か思うかなと不安になり

飲み会が始まって直ぐにLINEを送っておいた…






サユ「・・・・1番最低なのは…あたしだ…」






そう呟いてからトイレから出て行き

クラスの皆んながいる飲み会の席へと戻った…




笑実ちゃんは既読が着いたまま

何も返事が返ってこなくて

傷付いたよねと、あたしの心もドンドン沈んでいき

二次会のカラオケでは歌う事もなく

作り笑いを浮かべてひたすら手拍子を叩いていた





( ・・・まるでスナックのお仕事みたいだ… )





愛想笑いのしすぎで頬が痛いなと思っていると

ポケットの中のスマホが震えていて

笑実ちゃんかと思いカラオケ屋の外で

見てみると知らない番号からだった…





( ・・・・だれ? )





不思議に思いながら電話に出てみると

カオル先輩で前ほどではないけれど

話し方からして機嫌が悪い事が分かり

学校での事を知って

電話をしてきたのかと思ったら…





カオル「今一緒にいるの?」




サユ「・・・・えっ?」





笑実ちゃんは今…

カオル先輩のマンションに住んでて…

そのカオル先輩が探していると言う事は

マンションにいないんだと分かり

腕時計を見て0時を過ぎてる今

どこにいるんだろうと不安になってきた





カオル先輩は一緒じゃないと分かると

「何かあったら連絡して」と言って電話を切り…

「皆んなとは違うんだよ…」と

カラオケ屋のVIPルームの中にいる

クラスの子たちに向けて言った…






きっと…

笑実ちゃんだったらクラスの誰かが

カオル先輩の彼女になっても

その子の事も…カオル先輩の事も

悪く言ったりはしないはずだ…


 



サユ「・・・あたしみたいに…

  アッチにも…コッチにもいい顔したりしない…」






笑実ちゃんにLINEを送りながら

カラオケ屋の壁に背中を預けて

ゆっくりとしゃがんでいき

「あたしも…笑実ちゃんに…なりたぃ…」

と泣きながら呟いた…











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