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〈エミ視点〉
あの後、雲を見ながらボーッとしていると
いつの間にか空の色は変わっていき
薄暗くなりだした学校の敷地からは
人の声もあまり聞こえなくなっていた
立ち上がって正門を出ると
いつもとは逆方向に曲がって歩き出し
久しぶりだなと思いながら
自分のアパートへと帰って行った…
ガチャッと開けた部屋の中は
少し埃っぽく感じたけれど
荷物を置いて一年前は
当たり前の様に毎日寝泊まりをしていた
自分の部屋を見渡して
「こんなだったっけ?」と
誰もいない部屋で首を少し傾けてみた…
少し寂しさを感じて
トレンチコートのポケットから
スマホを取り出してみても…
電話をかける相手も…
話したいと思う相手も思い浮かばなくて
スマホを手から落として
「ふぅー」と息を吐いて
この部屋に来た一番の目的である
クローゼットを開いて
春から夏に変わる洋服を何着か取り出していると
スマホの通知音が鳴ったけれど…
「・・・・後ででいいか…」
そのまま確認する事なく
クローゼットの中の衣替えを進め
大きめの紙袋に取り出した洋服を詰めて
少し前に鳴っていたLINEを確認した
【 笑実ちゃん、今日学科の交流飲み会だよ 】
「・・・・はぁ…」
沙優ちゃんからのLINEを見てタメ息と共に
数ヶ月そのままだったベッドに横になり
「そんなに?」と小さく呟いた…
入学したての一年生と同じ学科の先輩である
私たち二年生の交流会は毎年あり
去年は近くの遊園地だったけれど
今年は飲み会だったらしい…
私たちの学科の伝統行事の一つらしいけど
私たち生徒側が交流内容などを
取り仕切ったりしていて
教授や学校側はノータッチのはずだ…
交流会の日時なども教授達がわざわざ
連絡したりなどもしないし
去年は日時などの連絡事項は全て
学科のグループトークに送られてきていた…
新しいグループトークがあるのか
個別のLINEでやりとりしていたのかは
分からないけれど…
この3週間続く噂に少し疲れて
ゆっくりと瞼を閉じた…
「・・・・悪い事…した?」
そう呟いた後は何も考えたくなく
沙優ちゃんに連絡も返さないまま
目を閉じ続けていると
いつの間にか寝てしまっていたようで
寒さで身震いする体の感覚に
「ンッ…」と言ってから目を開けると
部屋の明るいライトが目に入り
眩しいと感じながらスマホで
時間を確認しようとすると…
「・・・・えっ…」
スマホの画面には不在着信が23件入っていて
全てカオル先輩からだった…
時計を見ると深夜3時を過ぎていて
予想以上に寝ていたんだと思い
LINEを開くと沙優ちゃんから
カオル先輩が探しているよと
心配しているLINEが届いていて
先輩からも怒っているLINEが届いていた…
一回目の「どこ?」は23時前には届いていて
一次会で帰って来たのかなと思っていると
直ぐにカオル先輩の着信画面に切り替わった…
「・・・あの…」
カオル「・・・・どこ?」
電話に出るとカオル先輩の機嫌はとても悪く
4時間近くずっと私を探していたのは
LINEを見れば…わかった…
「あの…学校の後、衣替えにアパートに来ていて…」
カオル「・・・・・・」
「その…いつの間にか…寝てて…」
カオル先輩はタメ息を吐いた後
何も話さなくて…
「すみません…」と謝ると
「荷物は?」と低い声で問いかけられた
カオル「服はどれ位あるの?」
「あっ…学校用だから…3着位です」
先輩はまたタメ息を吐くと
「10分で行く」と言い
電話は切られてしまった…
怒られるのかなと思いながら
少し憂鬱な気分で先輩を待っていると
10分程でインターフォンが鳴り
先輩がタクシーで来たんだと分かった
オートロックを解除して
階段を上がって来ているであろう先輩を
迎えに出るとカオル先輩は
少し息をあげて扉の数歩前にいたから驚いた…
( ・・・・・・ )
先輩の顔は不機嫌で怒っているけど
タクシーから降りて4階のここまで
走って来てくれたんだと分かり
少し口元を緩ませると…
カオル先輩は近づいて来て
「だいぶ怒ってるんだけど」と
私を見下ろしている
「・・・・私…カオル先輩が大好きです…」
昨日の1日を思い返すと
さっきまでは泣いてしまいそうだった…
( ・・・・でも… )
先輩が私を心配して、ずっと探してくれていて
怒りながらも直ぐに駆けつけてくれた
目の前のそんな先輩を見ていたら…
そう伝えていた…
「・・・・大好きです…笑」
カオル「・・・そうじゃなきゃ許さないよ?笑」
また週があければ
昨日と同じ1日かもしれないけれど…
私がカオル先輩を好きな気持ちは変わらないし
この笑顔をずっと側で見ていたと思った…
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