2年生

〈エミ視点〉






キィーとクローゼットを開く音が響き

思わず自分の口に手を当てて

暗いベッドの方へと顔を向けると

毛布が動く気配はなくホッとして

学校に着て行く洋服を取り出した





( 冬用のコートはアパートに持って帰ろうかな )





先輩のマンションのクローゼットは

ウォークインクローゼットになっていて

私のアパートのクローゼットよりも大きいけれど…





ほぼ毎日というか…

1ヶ月以上自分のアパートで寝泊まりを

していない日々が続いていて

この部屋に置いてある私の荷物も

少しずつ増えてきていた…





カオル「学校が終わったら真っ直ぐ帰っておいで」





昨日の夜…

腕枕をされながら言われた言葉を思い出し

毛布の中で寝ているであろう

カオル先輩の方に顔を向けて

小さく微笑んでからリビングの方へと行き

手にある洋服へと着替えた





今日から2年生になり

学校に通う日々がまた始まる事になるけど…






( ・・・・もう一度、謝らなきゃ… )





あのバレンタインの事を謝ったLINEには

数日経ってやっと既読マークがついて

返事がきていた…





亜香里ちゃん達とは

春休み中に一度も会ってないままで

連絡もほとんど取り合っていなかった…





沙優ちゃんは3月にあった

ひな祭りのイベントにもお手伝いに行っていたようで

私には何の連絡もなかったと言う事は…






( ・・・・そうゆう事だよね… )





バイトのお手伝いに行って

カオル先輩とまたギクシャクするのは嫌だし…




手伝わないからといって

友人関係がもつれるのもどうなんだろうと

ずっと考えては「ハァ…」とタメ息が溢れていた…





コウ「余計なお世話かもなんだけどさ…」





数日前にシュウ先輩の部屋で洗い物をしている時に

コウ先輩が食器をさげながら

私に小声で話しかけてきた事を思い出すと

「ハァ…」とまた肩が下がっていた…





「・・・・・・」





洗面台の前で歯磨きをすませて

髪を整えていると目の開いていない

カオル先輩が扉を開けて脱衣室に入ってきて…





カオル「ぉ…はよ…」





あくびをしながら私の隣りに立って

頭を撫でてくる先輩の少し浮腫んだ頬を

人差し指でツンツンとしてみると

閉じていた目が開いてギュッと抱きしめてきた






カオル「朝からイタズラ好きだね」




「先輩の寝起き顔は…可愛くて好きです…笑」




カオル「俺の一番のブサイク顔なんだけど?笑」





先輩とはこの2ヶ月間…

私が沙優ちゃんと会っていたり

先輩がシュウ先輩達といる時以外は

ほとんど一緒に過ごしていたから

今日は朝から夕方まで会えないと思うと

なんだか寂しく感じてしまう…





( 実家にも帰らなかったしな… )





お母さん達にはバイトが忙しいと言って

地元には帰らないでいて…

詩織ちゃん達とはゴールデンウィークに

コッチで会う約束をしていた





カオル「笑実ちゃんいない間なにしようかな?」





「シュウ先輩の所ですか?笑」





カオル「多分そうなるかもね?笑

   シュウの部屋にいたら連絡するから

   そのままシュウのアパートにおいで」





「ふふ…お母さんみたいですね」





カオル先輩の腕の中で

幸せだなと時間ギリギリまで感じていた…





「行ってきます」





先輩に玄関で手を振り扉を閉めて

エスカレーターの方へと歩きながら

「ふぅー」と息を吐いた





コウ「カオルと付き合ってるの…

   出来れば話さない方がいいかもしれないぞ?」





「えっ??」





コウ「今まで…その…まぁ…

  俺たち皆んな…笑実ちゃんの学校の子とも…」





コウ先輩が何を言いたいのかは

何となく分かったし

私も親しい子以外に

ペラペラと話すつもりはなかった…





コウ「里奈ちゃん達は…大丈夫か?」





本来なら付き合っている人がいるから

バイトのお手伝いは出来ないと

断るのが一番問題ないような気がしていたけど…





「・・・・大丈夫…なのかな…」





なんとなく今の亜香里ちゃん達に

カオル先輩との事を話していいのか

迷っている自分がいて…

コウ先輩も心配しているのが少し分かった…




かと言って理由もなくバイトを断ると

スナックのお仕事を否定しているみたいで

余計に拗れる様な気もする…





「・・・・でも…」





あのバレンタインの日に

寒いベランダの…室外機の横に座っていた

カオル先輩の姿を思い出すと

答えはノーだった…




エントランスを抜けて外に出ると

春になってもまだ寒い朝の気温に

コートをどうしようかと悩みながら

顔を上にあげると…





「・・・・ぁっ…」





玄関の扉の内側で別れたはずの

カオル先輩が通路にでて頬杖をつきながら

コッチを見ていた…




多分…先輩の顔は笑っている気がして

小さく手を振ると

先輩も振り返してくれた




聞こえない距離にいるカオル先輩に

「行ってきます」ともう一度言いながら…



亜香里ちゃん達にバイトのお手伝いは

今後も出来ないとちゃんと話そうと思った…










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