チョコ

〈エミ視点〉








カオル「俺たちは先に帰るよ」





カオル先輩の言葉に顔を向けると

コートを着るように差し出しているから

私の事なんだと思いながら

コートのリボンを結んでいると





ヒョウ「あっ!結局なに作ったの?」





「・・・・・・」





あの後…結局なにも作っていなくて

カオル先輩にバレンタインは渡せていないままだった…






カオル「また来年だね?」






そう言って手を引いて廊下の方に歩いて行く

先輩の背中を見て少しだけ寂しくなった…






先輩の家に隠してある材料を買いに行った時は

喜んでくれるかなとドキドキしながら

ラッピング用品とかも選んでいたのに

先輩にとってはなんでもない日だったのかなと

自分の肩が下がっているのが分かっている…






外に出ると先輩は手を繋いだまま

自分のマンションの方へと歩いていき

洗顔やクレンジング用品がない事を思い出して

コンビニで買おうか悩んだけれど

泊まれと言われてもないのに

買うのも恥ずかしい気がして

そのまま先輩の部屋に入って行った






部屋に着くと先輩は手を引いたまま

キッチンへと私を連れていき

ガスボンベなどの在庫ストックの棚を

開きだしたから驚いて

「あの…」と声をかけると…





カオル「今年のバレンタインは何作ってくれるの?」



 



先輩は私の隠しておいた材料を取り出すと

ニッコリと笑ってそう問いかけてきた…






「・・・さっきは…来年って…」





カオル「ヒョウ達はね?笑」





「・・・たち?」





先輩の言葉の意味が分からず

笑っている先輩を見上げてそう聞くと





カオル「だってコレは…笑実ちゃんの

    初めての本命チョコなんでしょ?笑」





「・・・・・・」



 


カオル「友達かお父さんとかお兄さんにしか

   あげたことないんじゃない?」






少し腰を曲げて顔を覗き込みながら

そう問いかけてくる先輩に

「学校の先生にもあげましたもん…」と

少しムクれながら言うと

「ふふ…浮気ものだね」と鼻を軽くつねられた






カオル「来年からはヒョウ達にもあげていいけど

   今年のこのチョコだけは

   誰にもあげちゃダメだよ?」





「・・・・先輩も…」





カオル「ん??」





「・・・・今年だけは…

  このチョコしか…食べないでください…」





カオル「食べてないし、今日は一日中

   笑実ちゃんと一緒にいる予定だから…

   この2つでお腹いっぱいかな?笑」






カオル先輩は材料の中の板チョコと

私の唇をトンッと軽く人差し指で押してきて

そう言うと目線を少し下の胸元に向けて






カオル「勝手に家を出た悪い子には

   ちゃんとお仕置きが必要だからね?」






先輩はコートのポケットから

旅行用とかで使う小袋に入った

使い捨ての化粧品セットを取り出して

「先にシャワーだね」と言って

また手を引いて脱衣室へと連れて行かれた…





一日過ぎてしまったけれど…

私は生まれて初めて好きな人に

チョコレートを作り…

素敵なバレンタインを過ごす事ができた…







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