シュウ

〈シュウ視点〉







リナ「ヒカル先輩!」





夜の飲み会に使う酒やつまみを買い込んで

帰ろうとしていると後ろから

里奈ちゃんの声が振り返ると

この寒い中コートの下の足元は

素足にヒールを履いていて

今日もバイトなんだなと分かった






ヒカル「おー!勤労少女だな?笑」





「今日はバレンタインだからイベントなんですよ!」





ヒカル「寂しい先輩達にもチョコくれよ!笑」





「先輩達は今から沢山もらうじゃないですか?笑」






俺たちの手元に視線をうつしてそう言うと

ヒカルが「あの綺麗なママは元気?」と

話を逸らすように言い出し「実は…」と

腎盂炎で入院していて

今日のバレンタインのイベントに

笑実ちゃんと沙優ちゃんがまた手伝いに

来ていると聞いて「そうなんだ…」と

皆んな言葉を濁した…





バレンタインに何故カオルが俺たちといるのか…

少し機嫌が悪そうな雰囲気に笑実ちゃんと

喧嘩でもしたのかと不思議に思っていたが…






( ・・・・そりゃ…面白くねーな… )






リナ「今日は無理でしょうけど…

  また雛祭りとか浴衣祭りの時に

  遊びに来てくださいよ!

  沙優ちゃん達も先輩達が来てくれたら

  嬉しいと思いますから?笑」






俺とカオルに向かってニコニコと話している

里奈ちゃんに悪気がないのは分かっているが

カオルは口の端は上がっているけど

目は冷めた様に乾いた笑みを浮かべている…






( ・・・・またキレるなよ… )






ヒョウ「イベントの度に手伝うの?」





リナ「うち女の子少ないんですもん…

  それに2人共おじさんウケいいし」

  

 



コウ「それは嬉しいのか?笑」






カオルの機嫌の悪い顔を隠す様に

コウが少し前に出て里奈ちゃんと話していると

聞こえてくる会話に更に機嫌を悪くしたカオルは

スマホを取り出して背を向けている

  





リナ「あっ!あんまり遅いと亜香里に怒られる」






「それじゃ!」と手を振って

小走りでお店の方へと行く

里奈ちゃんの背中を見送りながら

皆んな気まずそうにカオルに顔を向け

ヒョウが「しょうがないよね」と呟いた






ヒョウ「友達なわけだしさ…

   学校でも一緒にいるわけだし  

   チワワだけお手伝いできませんなんて

   言ってたら気不味くなるんじゃない?」





コウ「女の子は怖いからなぁ…笑」






ヒョウの言葉に苦笑いを浮かべて

頷いているコウに俺も首を縦に振った





さっきの里奈ちゃんの雰囲気じゃ

笑実ちゃんがカオルと付き合っているなんて

全く知らないようだったし

知ったら知ったで大丈夫なのかと

少し心配をしながら

「ツカサ達が待ってるぞ」と言って

俺のアパートへと足を進めた





ツカサ達は既に部屋に上がっていて

カオルの顔を見ると

なんでいるんだと言うような顔をしていた…






ジン「なに、あのチビくんの?」





ヒョウ「チビってチワワのこと?」






ジン達の問いかけには何も答えず

冷えていない買ってきたばかりの

缶ビールを1本手に取って

ベランダへと歩いて行き

アキラ達と同じ学部の女の子達が部屋に来ても

ベランダから出てくる事はなく…




  

( ・・・・気にしてんのか… )





店の常連客が会社の後輩だか部下だかを

お店に連れてくると言っていた話を

カオルが心穏やかに聞いていたわけがない…




去年の秋みたいに笑実ちゃんに

あたるんじゃないかと心配もしたが

ヒョウが言っていた言葉も理解してあげているのか

乗り込む様な真似はしていない…







シュウ「だからって…

   はいどーぞってわけにもな…」






ずっとベランダにいるカオルの元へと行き

タバコに火をつけながら「寒くねーのか」と

問いかけてもカオルは何も答えず

大して綺麗でもないベランダから見える

景色をぼーっと見ていた






男の…彼氏の立場なら間違いなく…

好きな女にスナックで

働いてほしくなんかない…





だがヒョウの言う通り

笑実ちゃんの場合は付き合いっていうのもあり

難しいところだなと「ふぅー」と煙を吐きながら

ガラッと開いたドアに顔を向けると…






「・・・・・・」





( ・・・・なんでいるんだ? )






ドアを開けたのは

今まさに考えていた笑実ちゃん本人で…





( ・・・・バイトは? )





まだ夜の20時位だから

店がオープンして少し経った位のはずだがと

驚いて笑実ちゃんを見ていると

少し不安気に俺を見てきて

笑実ちゃんも里奈ちゃんから

聞いたんだと分かった





( カオルが飲み会に出るって聞いて不安になったか… )





もう出勤しますって店にいたのに

それを断ってここに来るのが

簡単じゃない事は何となく分かるし

コウの言っていた

女の子が怖いっていう話も分かる…





彼女になっても従順なチワワだなと

小さく笑ってからカオルがいると顎で教えてやると

笑実ちゃんは気不味そうに

「こん…ばんは…」と声をかけていた





俺がいたんじゃ話しづらいだろうと思い

タバコを消して部屋に戻ると

アキラが冷蔵庫を覗きながら「なんだコレ」と

豆乳ジュースを手に取っている姿を見て

「笑実ちゃんのだよ」と近づいて行った





今日の酒を買っている時にヒョウが

「チワワにノンアル買っとく?」と言い出し

たまに来る事もあるかもなと思い

後ろから眺めていると

カオルが手に取ったのは

笑実ちゃんがいつも飲んでいる豆乳ジュースだった






ヒョウ「早く成長してほしいのは分かるけど

   飲み会でコレはキツくない?」





カオルは何も言わないまま

別の売り場に歩いて行き

結局カゴに入ったままの豆乳ジュースを買ったが…





シュウ「こんなに早く冷蔵庫から出すとはな…笑」





アキラ「はっ??」





俺は豆乳ジュースと一緒に缶ビールを手に取り

ドアをそっと開けてベランダに置いてやった




15分程してベランダを窓から覗くと

笑実ちゃんの姿が見えなくなり

重なり合っている影を見て

うまくおさまったみたいだなと思った








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