〈エミ視点〉



 




アキラ先輩の数歩後ろを歩き

リビングの中へと入ると微かにリップ音が聞こえ

コートの袖口をギュッと握って顔を上げると

ベランダにライターの灯りが見えて

タバコを吸っている人物以外に

もう一人座っている影が見えた




( ・・・・ぁっ… )




ゆっくりと足音を立てない様に

ベランダの方へと歩いていき

ドアを横に引くと冷たい夜風と一緒に

タバコの匂いがして顔を右に向けると

驚いた顔をしているシュウ先輩が

コッチを見ていた





シュウ「・・・・・・」





シュウ先輩は小さく笑って顎で

私の左側の方をクイッとさしたから

きっとカオル先輩がいるんだと思って

ベランダに足を踏み入れて

左側のエアコンの室外機の横を覗いた





カオル「・・・・・・」





「・・・・こん…ばんは…」





カオル先輩も私を見ると

目を見開いて驚いていて

いつもの様に

優しく名前を呼んではくれなかった…





カオル「・・・・・・」





「・・・・・・」





しばらくお互い黙ったままでいると

シュウ先輩がタバコを消して

「ごゆっくり」と言って

部屋の中へと入って行ってしまい

更に沈黙が続いた…





カオル先輩はジーっと私の顔を見ているけど

一言も話してはくれなくて

「座ってもいいですか?」と問いかけても

何も答えてくれず…

「お邪魔します…」と言って

室外機の横に腰を降ろして

冷たい空気を感じながら

膝を抱きしめて座った





「・・・・ごめんなさい…」





カオル「・・・・・・」





「直ぐに…断らなくて…」





カオル「・・・・・・」





「・・・ちゃんと…

  よく分かってなかったです…」






何を言っても答えてくれないカオル先輩に

寂しさを感じながら

「でも…私も怒ってましたよ…」と呟いた…






「・・・・かっ…」





カオル「・・・・・・」





「勝手に…LINEをみたり…

  勝手に返事をするのは…ダメで…す…」





カオル「・・・・・・」





「私だけの…秘密じゃなくて…

  友達の…内緒の話とかもありますから…」





カオル「・・・・・・」





黙ったままのカオル先輩に

それ以上何も言えずにいると

ドアが開いてカタッと何かが置かれ

手に取ってみるとビールと…

私がよく飲む豆乳ジュースだった





( ・・・・豆乳がどうして? )





この部屋にはお酒や炭酸水しか

置いていないイメージだったから

どうして豆乳ジュースがあるのか

不思議に思いながら

缶ビールをカオル先輩の方へと差し出すと

手の中にあった重みが消えて

先輩がビールを手に取ったんだと分かった





少しホッとしてストローをパックに刺してから

チューとジュースを飲むと

いつも通りの甘いイチゴの味がして

顔を膝をに埋めて「怒ってますか…」と

小さく問いかけた





カオル「・・・・・・」





「・・カオル先輩…何か言ってください…」





カオル「・・・・寒い…」





ボソリと聞こえてきた声に

「えっ…」と顔を上げて

カオル先輩の方を覗きこむと

先輩は立てていた片膝を真っ直ぐと伸ばして

「寒い」ともう一度言ってきた…





先輩の言っている意味が分かり

ゆっくりと立ち上がって豆乳ジュースを

片手に持ったまま

カオル先輩が伸ばした足の上に座って

目の前にある先輩の顔をそっと見上げた…






「・・・・ごめんなさい…」





カオル「・・・・ワガママきいてもらうよ?」





「・・・・何がいいですか?」





カオル「・・・まだ使わないよ…

    溜めてからまとめて…きいてもらうよ」






そう言って腰に手を当てて抱き寄せる

カオル先輩に「私のワガママもいいですか?」

と問いかけてみた…





カオル「なに?」





「・・・・苦い…ビールの…」





私のワガママが分かっている様で

ゆっくりと近づいてくる

先輩の唇に目を閉じて

「キスがほしいです」と言った…








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