好きだから…

〈エミ視点〉







バレンタイン前日になり

華やかだった売り場もチラホラと穴が空いていて

板チョコを手に取り「はぁ…」と息をはいた…





カオル先輩にチョコレートを作ろうと

先輩の家のキッチンに材料やラッピング用品も

買って置いたままだった…





「・・・・まだ怒ってるのかな…」





一日経った今も

カオル先輩からは何の連絡もなく…

私からも何もしないままでいる…





( 謝らなきゃいけないけど… )





いまいちスッキリせず

自分の中で(でも…、だって…)と

グルグルと考えているとポンっと肩を叩かれた





ヒョウ「明日何作るの?」





振り返るとニコニコとした笑顔の

ヒョウ先輩が立っていて

私の手にある板チョコを見て

「チワワはやっぱり手作り派だよね」

と言いながら顔をうなずかせている





ヒョウ「ケーキ?クッキー?

   それとも生チョコとか?」





「・・ケーキ…だったんですけど…」





ヒョウ「・・・・なに?なんかあった?」






ヒョウ先輩に相談しようかと思ったけれど…

先輩の口の軽さは痛いくらいに分かっているし

何となく言うのをやめて

「好みが分からなくて」と濁した…






ヒョウ「カオルの好み?

   笑実ちゃんが作れば大体食うでしょ?」






「・・・食べるのと…好きは違いますよ…」







カオル先輩の〝好き〟がよく分からなくて

お菓子と自分を重ねてそう呟いた…







ヒョウ「食べるのと好きは違うねぇ…

   なんかよく分からないけど

   好きだから食べるんじゃないの?」






「・・・・好き…だから?」







ヒョウ先輩は

眉を寄せながらそう言い

私のカゴの中にある納豆に目を向けた





ヒョウ「あの納豆の乗ったパンを

   初めてカオルに出した時どうだった?」





「えっ??普通でしたよ?」





そう答えるとヒョウ先輩は

納豆パックを手に取って笑い出し

「そういう事だよ」と言った





ヒョウ先輩達にあのトーストを出した時に

皆んな顔を引き攣らせて

失礼な事を言っていた事を思い出し

「不味かったですか?」と

少し唇を尖らせながら聞いた





ヒョウ「イヤ!美味しかったけどさ…

   なんていうか…衝撃だったよ?笑」





「・・・・・・」





ヒョウ「ご飯じゃなくてパンに納豆は…

   人生で初だったからね

   カオルが普通に食べてたから

   俺も食べれた感じだったし…笑」

   




ヒョウ先輩の言葉を聞いて

初めてカオル先輩に納豆トーストを

出した日を思い出してみたけど…





先輩はヒョウ先輩達みたいに

ブツブツと文句を言う事もなく…





カオル「珍しい組み合わせだね?笑」





「えっ?納豆トースト食べた事ないです??」





カオル「うん、初めてだね

   笑実ちゃんの実家のメニューなの?」





「お店には出してないんですけど

  ちっちゃい時からコレが大好きなんです!笑」





カオル「へぇ…笑

   笑実ちゃんのお勧めなら楽しみだね」





先輩は笑いながらそう言うと

トーストを手に取って一口齧り

「美味しいね」と言ってくれた…





( ・・・・好きだから…食べる… )










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