特別

〈コウ視点〉







シュウ「そろそろ送るよ」





遅い朝日も登りだしシュウが沙優ちゃんにそう声をかけると

沙優ちゃんは「コウ先輩に送ってもらいます」と

聞こえてきて俺は「えっ?」と顔を向けると…






サユ「笑実ちゃんの靴を届ける時に

  一緒に渡して欲しい物もあるので…いいですか?」





ツカサを寝室から連れ出す時に床に

小さなボタンが落ちているのを見つけ

それが誰の物なのかも直ぐに分かり

タメ息を吐きながら

自分のデニムのポケットにしまった事を思い出し

沙優ちゃんが届けて欲しい物が洋服だと

なんとなく理解した…





( 真っ先に駆け寄って見ただろうしな… )





改めてまだ腫れの酷いツカサの顔に目を向け

ヒョウの言う通り

俺も一発位は殴りたかったかもなと思った…





コウ「いいよ!俺が沙優ちゃんを送って

  そのままカオルの所に荷物届けるよ」





シュウにそう言うと少し眉を下げて

「頼むわ」と言いツカサに近づき「氷足りないな」と

サトルに声をかけて背中を向けている…





笑実ちゃんの事ですっかり忘れていたが

沙優ちゃんはシュウが女の子と

寝室から出て来たのを見て

トイレにこもっていたわけだし…





シュウに送ってもらいたくないんだと分かり

シュウもきっとそれを分かっているから

沙優ちゃんに背中を向けているんだろうと思った






シュウ「・・・・どうも出来ねーだろ…」






昨日ツカサと部屋に戻り

笑実ちゃん達がいる事に

驚きながらシュウの元に行き

トイレに閉じ籠って泣いているであろう

沙優ちゃんの事を「どうするんだ?」と

問いかけたらシュウはそう答えた…





他の子達に比べたら沙優ちゃんを

特別可愛がっている面はあっても…

明らかに地元の後輩感が強いのは分かっていた…





( 妹みたいなんだろうな… )





シュウはカオルみたいに

沙優ちゃんの行動に怒ったりもしていなかったし

男と飲み会をしていようが

スナックで働いていようが

気に留めていなかった様に見えた…




ましてや、カオルが笑実ちゃんに

ずっと手を出していなかったとアキラから聞き

余計にシュウとカオルでは「特別可愛がっている」

の意味が全く違って感じとれた…





( ある意味、笑実ちゃんの事の方が異例だしな… )





今まで俺たち5人の誰かが

飲み会で出会った子にそこまで執着する事もなかったし

気に入って数回遊んだりしても付き合うなんて事はなかった…





コウ「じゃ、行こうか?」





笑実ちゃんの小さな靴を手に持ち

沙優ちゃんを連れて外に出ると

7時前の外気温は体が縮こまるほどの寒さだった…





コウ「寒いね…

  下の自販機でホットを買ってから行こうか?」





サユ「送ってもらうのでご馳走しますよ」





ニッと笑って自動販売機にコインを入れる

沙優ちゃんを見ながら

笑実ちゃんといい沙優ちゃんといい

二人揃って素朴ないい子なんだよなと思った





沙優ちゃんから買ってもらった

ホットコーヒーを飲んでいると「ふふふ…」と

隣りで笑い出す沙優ちゃんに

「どうした?」と問いかけると

沙優ちゃんは自分の手にある

コーンスープの缶を見ながら笑っていた





サユ「普通…寒い中で買うドリンクって

  コーヒーとかお茶とか…

  こんなコーンポタージュじゃないですか?」





コウ「ん?そうだな…」





サユ「この前、笑実ちゃんが…

  ここの自販機は甘酒がないねって呟いてて!笑」





コウ「甘酒!?笑」





沙優ちゃんの話に思わず

コーヒーを吹き出しそうになった





サユ「甘酒がないのが分かったら

  自販機をジーっと眺めて押したボタンが

  おしるこだったから余計に可笑しくてですね?笑」





コウ「甘酒におしるこって…

  笑実ちゃんはたまに年齢を疑うよ…笑」






さっきヒョウから聞いた話といい

相変わらず変わった子だなと思いながら

笑っていると「だから…」と小さく呟く声が聞こえ

また沙優ちゃんに顔を向けると






サユ「そんな…可愛い笑実ちゃんだからこそ…

   カオル先輩は好きになったんだろうなって…」





コウ「・・・・・・」






沙優ちゃんは笑っているけど

少しだけ寂しそうな表情をしていて

きっと自分が笑実ちゃんとは違うと

なんとなく分かっているんだと思った…

















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