キス…

〈エミ視点〉






帰りはママさんからタクシーチケットを渡され

沙優ちゃん達と一緒に乗って帰って行き

明日起きれるかなと少し心配しながらタクシーから降りて

自分の部屋のドアを開け

ほのかに香る香水の匂いに頬を緩め

誰もいないその部屋に

「ただいま」と呟いてから荷物を置いた





シャワーを浴びようと着替えを取り出していると

バックの中から着信を知らせる音楽が流れ出し

沙優ちゃん達かなと画面を見ると2時間ほど前に

番号を交換したばかりのカオル先輩の名前が表示されている





「えっ!?…ぇっ…」





と戸惑いながら少し深呼吸をしてから

通話ボタンをスライドした





「・・・・ぁの…」





カオル「ふふ…帰り着いた?笑」





「はい…さっき帰ってきました」





カオル先輩との電話は始めてじゃないけど

緊張して意味もなくテーブルに置いてあるリモコンを

並べかえたりしている…





カオル「無事に帰り着いたならいいよ

  明日まで学校だから早く寝なきゃね」





カオル先輩の電話からは

歩いているような音が聞こえているから

今帰っているのかなと思いながら

何となく立ち上がってベランダに出てみると…





「・・・・ぁっ…」





道路の向こう側に歩いているカオル先輩の姿を見つけて

小さく呟くと「何で分かったの?」と笑いながら

驚いてるカオル先輩に私も「ふふ…」と笑った





カオル「そう言えば、笑実ちゃんは俺のマニアだったね…

  俺の行動も考えも全部よめてるの?笑」




「読めません…笑

 でも、カオル先輩がストーカーさんなのは分かりました」





カオル「ストーカー?笑」





ベランダの手すりから顔を出して

コッチを見上げながら歩いて来る先輩を眺めていると

「5分だけ部屋に入れて」と言われ

先輩が少しだけ抜けて来ているんだと分かった





ロックを解除してから

クローゼットにしまっておいた紙袋を取り出して

玄関の方へと行くとピンポーンと呼び鈴が鳴り

ドアを開けると少しだけ鼻先を赤くした先輩が立っている




ココアか何か温かい物を出そうかと思ったけど

「また今度ね」と言って靴を脱ごうとせず

本当に直ぐに帰ってしまうんだと寂しく感じながら

手に握っていた紙袋を差し出した





「遅くなったんですけど…お誕生日のプレゼントです」





先輩は「ありがとう」と笑って受け取りながら

「細身で色白のお兄ちゃんは嬉しいよ」と言うから

あの時に全部気付いて色々と質問してきていたんだと分かり

恥ずかしくて顔を下げると「キスしてもいい?」と聞こえてきた





( ・・・・キス? )





もう何度もキスをされた事はあったけど

こんな風に確認される事は初めてで

少し不思議に思ってゆっくりと顔を上げると

もう一度問いかけられた…





カオル「・・・・いいなら…目閉じて?」




先輩とのキスは嫌じゃなかった…

でも「はい」や「いいですよ」なんて答えるのが

なんだか恥ずかしくて黙ったままでいると

それに気付いたのか目を閉じてと言われ

自分の瞼をそっと閉じた…




何も見えない瞼の裏側でカオル先輩が私の頬に

手を添えたのが分かり掴んでいたスカートを更に

ギュッと強く握りドキドキと心臓の音を感じていると

唇に柔らかい感触がした




先輩とキスをするのは9月以来で…

初めてでないはずのそのキスは

まるで初めて私に触れるかの様に

優しく…丁寧で…




唇の柔らかさを確認するみたいにそっと触れては離されて…

少し角度を変えてまた優しく触れてくる…

そんなキスだった




( ・・・・ファースト…キス… )




私のファースト・キスは…

春に、出会ったばっかりのカオル先輩によって

アッサリと奪われてしまい…



ずっと夢見ていたロマンチックなモノではなく

シュウ先輩の部屋から一人で歩いて帰りながら

顔を俯けて泣きたい気分だった…




でも、今カオル先輩が私にしてくれているキスは…

私が夢見ていたファースト・キスと重なり

さっき手を繋いだ時に感じた事を思い出していた





( ・・・・やっぱり…少し違う… )





「大嫌いです」と泣いて離れたあの頃とは

少しだけ違って見えるカオル先輩に胸の奥が

トクンと高鳴るのを感じながら瞼を閉じ続けた







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