店長

〈サユ視点〉








サユ「・・・ぇみ…ちゃん?」





カオル先輩の腕の中で全く動かなくなった

笑実ちゃんに声をかけると

「寝たみたいだね」とカオル先輩が自分の胸元に顔を埋めてる

笑実ちゃんの顔を覗きこみながらそう言った





アキラ「よく寝れるな…」





少し呆れた様な表情で

笑実ちゃんを見下ろしているアキラ先輩に

「安心したんだと思います」と言いながら

笑実ちゃんに近づいて行き

少し乱れた髪の毛を整える様にそっと撫でた





( やっぱりカオル先輩にとって笑実ちゃんは… )





アキラ先輩が呼んだら直ぐに来てくれたし

お店の中に真っ先に入っていったのも…




店長の体が動いたのが分かり

少し肩を揺らして顔を向けると

アキラ先輩が「どーする?」と店長の横に腰を降ろし

カオル先輩に問いかけていた





カオル「雇われ店長?」




サユ「・・・・オーナー…です」




シュウ「クビにしてサヨナラってわけにはいかねーな…」




カオル「・・・・バイトは今日で辞めさせる」





そう言って笑実ちゃんを抱き上げると

先にタクシーで連れて帰ると言い

笑実ちゃんの荷物や着替えを頼んでいいかと

言われたからコクリと頷いた




カオル先輩は顔を床に下げたままの店長に

「オイ」と立ったまま声をかけ

顔を上げない店長の体を軽く舌打ちをしながら足で蹴り

怯えて顔を上げた店長に「二度と近づくな」

と言ってから扉の方へと歩いて行った





カオル先輩と笑実ちゃんがいなくなると

「さっ!本題に入りましょうか?」と言って

店長を立たせてからテーブルへと引っ張っていく

アキラ先輩達に「何を」と言って驚いて見ていると

シュウ先輩から紙とペンと朱肉を持って来るように言われ

訳がわからずレジにある朱肉を手に取り渡した





アキラ「2軒ともアンタの店なんだ…

    でっ、今回の件どーするつもりだよオーナーさん」





シュウ「未遂つっても店は畳まなきゃな?」





( ・・・・・・ )





先輩達は今回の事を公にしない変わりに

私と笑実ちゃんを今日付けで

店側の都合で辞めたと言う形にして

給料2ヵ月分を今週中に振り込む

という内容の誓約書を書かせていた

 




アキラ「アンタが襲おうとしていた方には誠意も込めて振り込めよ?」





店「・・・・いくらだ」





アキラ「それはアンタの気持ちだろ…

  父親ほど年の離れたオッさんに襲われかけて

  あのトイレで怯えて泣いてた姿を考えたらわかんだろ」






半分脅しみたいなこのやり取りに

いいのかなと不安になっていたけど

アキラ先輩の最後の言葉を聞いて

笑実ちゃんがいたトイレの方に顔を向けた…





( ・・・・電気もついてない… )





照明スイッチは扉の外にあり

電気をつける余裕もなく笑実ちゃんが逃げ込んだのか

店長がワザと消したのかは分からないけど…




窓もなく誰にも助けを呼ぶ事の出来ない

あの真っ暗なトイレできっと不安と恐怖で

いっぱいだったはずだと思い

手をギュッと握り締めて店長に

「ちゃんと払ってください」と言った…





一人で来なくてよかった…

あの時にアキラ先輩に頼んで良かったと思った…





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る