第105話 大災害14~謎の空間~

 〜人間視点〜


 転移の光から解放された。

 体が床に投げ出される。

 背中から思いっきり衝撃が走る。

 受身は取れなかった。

 取るどころではなかった。


 「ぐっ、うううああああああああああっっ!!!」


 痛い痛い痛い!

 頭が割れるように痛い!

 何だこれ!

 何なんだよこれ!


 「ぐっうううっつ、ああっ……」


 抑え込む。

 ここで大声を出したらマズイ。


 吐くような激痛を脳の奥に閉じ込めて、ひたすら苦しみが引くのを待つ。

 転移し終わったと思ったらこれだ。

 いきなり痛みがやってきた。


 「あうっ……最悪だ」


 これから戦うってのに、これはないぜ。

 頭痛ってレベルじゃない。

 何かの病気か?


 うああ。

 頭をかきむしる。

 血こそ出なかったが、髪の毛が束で抜けた。

 新しい痛みで古い痛みが少しは薄れる。

 少しして頭から痛みが引いていく。

 徐々にではあるが。


 「……ここはどこだ?」


 転移魔石はブレスに乗り護り手ゴーレムの胸部に向かって射出された。

 なら、ここは胸部で間違いないだろう。


 「……あった」


 足元に転がる魔石を手に取る。

 ドラゴンのブレスで無理矢理飛ばしたせいか、表面がガリガリに削られている。

 危うく陣を刻んだ部分まで損傷するとこだ。

 これが壊れてたら、俺は転移出来なかったってことになる。


 周りを見ると、ここは誰かの部屋らしかった。

 中央にクイーンサイズのベットが設置されている。

 椅子にテーブル。

 特に変わったところもない。

 敵もいないっぽい。


 「ふぅ……」


 ここで気を抜いていいわけがないけど、まあ気休めにはなった。

 少しだけ警戒を緩める。


 「んじゃ、行くか」


 部屋の出口は一つ。

 従って、俺の取る行動も一つ。

 ドアの傍へ寄っていく。

 静かにドアを開けて、敵がいないか確認する。


 こういう時に、気配を察知出来る能力が使えたらなぁ。

 俺は悪魔じゃないから、全く使えない。

 魔具や魔剣もない。

 ない物ねだりしても仕方ないもんな。


 キィ、とやけにドアの開く音が響く。

 慎重に顔を出して、戦闘を開始出来る心構えを作っておく。


 ……誰もいない。

 先には空中要塞で見たような細長い廊下が続いている。

 内装も似ている。

 あの時みたいに、複雑に通路も別れてるかもしれないな。


 「……考えても仕方ないな」


 とりあえず、先に進むことにする。

 進むと、少し大きな部屋に出る。

 気配を俺なりに探ってみるが、ここにも悪魔はいなそうだ。

 部屋の中を慎重に見てみる。


 そこには、色んなガラクタが散らかっていた。

 ストーブ、扇風機、ノートパソコン、豆電球、洗濯機、大型テレビ、釣竿などなど。


 「……は?」


 どう見ても現世にある近代的な物ばかりだ。

 地獄に来てか初めて見る物ばかりだ。

 おいおい、懐かしのファミコンやポラロイドカメラなんて物まである。


 ここは何の部屋なんだ?

 どうやってここにある物を作ったのか。

 そもそもどうして作ったのか。

 分かるはずもない。


 散らかった床を避けて通る。

 この部屋はかなり広い。

 学校の体育館はあるだろうか。

 流石にでかいな、ゴーレム。


 少し進むと、部屋に置かれた物の毛色が変わってきた。

 なんとそこには、大量の武器が置かれていた。

 武器って言っても剣とか槍なんて物じゃない。

 それは銃だった。


 ピストル、ライフル、ショットガン。

 山のように保管されていた。

 まるでガンショップのように、ズラッと。

 これも地獄にはない筈の物。

 ご丁寧にマガジンまで近くに置いてある。

 プラモデルなんかじゃない。

 見れば分かる、本物だ。


 ラース街を見て分かっていたことだが、この世界の文明レベルは人間の世界には及ばない。

 せいぜいが中世くらいのレベルだろう。

 だが、能力か何かを駆使すればこのような物でも作れる……のか?

 疑問ではあるが、もし作れたとしてこのように大量生産とはいかないだろう。

 こんなにたくさんの武器をどうして……


 思わず側にあった銃を手に取る。

 日本警察の使う執行実包。

 しっかりとした重みがある。

 弾が入っていないか確認して、安全装置を外す。

 トリガーを引いてみる。

 ガチッと確かな音がした。


 「やっぱ本物か」


 人を殺せる本物。

 人が殺せるなら、悪魔も使い用では殺せるだろう。

 場合によっては魔具よりタチが悪い。

 これは逆を言うと、俺でも悪魔を殺すことの出来る武器ということだ。


 「持ってくか」


 有名なデザートイーグルなんかもあるが、大口径の拳銃はよしておく。

 そこまでの反動を制御出来る自信がない。

 俺の扱える範囲内の拳銃だけを選択していく。

 弾もセットで持っていく。

 どんな弾を選べば良いのかは、何となく分かった。

 俺、こんな知識持ってんだな。

 前世では銃社会に身を置いていたとか?

 まあ別にいいんだけど。


 ホルダーがないから、腰のズボンに拳銃を2つ突っ込んでおく。

 いざとなったらいつでも使える。

 ただ、魔物相手に効果があるかは分からない。

 魔物、この先出るんだろうか。

 空中要塞ではかなり出たが、それは召喚王が絡んでたからで……

 今回の件にも、召喚王が絡んできそうな気はする。

 まあ、いずれにせよ持っていないよりはマシに決まっている。


 幾らか拳銃を拝借し、他に何かないか探してみる。

 すげぇ、ロケットランチャーまであるよ。

 手榴弾もある。

 戦争でもする気か?

 ……案外あり得そうだな。

 まあ、手榴弾も頂戴しておこう。


 そうこうしているうちに、一番奥のドアまで到着する。

 ドアの外から風が少し漏れ出している。

 ……外か?


 開けて、ドアの向こう側へ行く。

 そこは、地下駐車場みたいな場所だった。

 かなり天井が高い。

 奥には螺旋階段があり、他に出入口らしきものは見当たらない。

 この駐車場のような部屋には、車とヘリコプターがあった。

 多分、どっちも軍用だ。


 「こんなものまで……」


 とは言え、俺に操縦出来るものでもないし、放置でいいだろう。

 目指すは階段だ。

 先に進むことにする。


 螺旋階段までたどり着く。

 高さがかなりある。

 そのまま天井の向こうへと続いていた。


 足で踏むと、カッと軽い音が聞こえた。

 これ、鉄かなんかだ。

 この部屋自体がそうだが、近代的な内装をしている。

 何でここはこんなにも現世を彷彿とさせるものがあるんだ?


 俺が地獄に来る以前は争いごとのない状況だったことを考えると、こんな大げさな兵器を用意する必要性はなさそうなものだ。

 ……俺を殺傷するために作ったか?

 でも、俺がこの地獄にやって来たのはつい一ヶ月ぐらい前だ。

 そんな短時間にこれだけの物を用意出来るか?


 そして、武器の他にもガラクタが山ほどあったあの大部屋。

 現世での技術革新があった後の代物が大半だった。

 腰から一丁だけ拳銃を取り出してみる。

 よくよく見ると、スライドの方に薄く文字が彫られていた。


 「CZ75B……」


 そう刻まれていた。

 英語で。

 そう、英語だ。

 ルーン文字じゃない。

 紛れも無い人間の世界の文字。

 ここから考えられることは……


 「これ、地獄で作られていないのか?」


 わざわざ悪魔の識別しにくい英語で彫ることはないだろう。

 それなら、ルーン文字で彫ればいい。

 だから、ここで作られた物じゃない。

 そう考えるのが自然では?


 そんなことを考えている間に、階段は終わりに近付いていた。

 天井の向こう側へ続いている。

 隔てているものは何もないが、先はほぼ真っ暗で何も見えなかった。

 ライトのようなものは持ち合わせていない。

 感覚で慣れるしかないだろう。


 俺は、新しく持たされた魔剣を鞘から引き抜く。

 リーチの短い短刀。

 魔剣から流れる意思のような力に触れる。

 魔剣と配線で繋がるような感覚。

 目を開けると、感覚が強化された影響で、ある程度暗闇でも僅かな光を瞳孔でキャッチして見れるようになっていた。


 もうこの強化には慣れたものだ。

 未だに原理は分かってないが、今はどうでもいい。

 俺の補助になってくれるのであれば。


 「痛っつ」


 頭にピリッとした軽い痛みが一瞬走った。

 その痛みはすぐに収まる。

 さっき、転移した直後の激痛とそっくりの痛み。

 なんだってんだ、この痛みは……


 とりあえず部屋を覗く。

 ……また誰もいない。


 今度は比較的小さい部屋だった。

 家具も何も置かれていない、ただの空間。

 奥には四角い窪みがあった。

 人が一人収まるほどのものだ。

 窪みは数メートル続いており、奥には木製の分厚そうな板?があった。

 近くまで行って、確かめてみる。


 「……いるな」


 俺でも分かる。

 向こうには何かがいる。

 強化された感覚が伝えてくる。

 やばい何か。


 蹴れば壊せそうな障害一つを隔てた向こう側。

 ここにいる奴は、全員敵だと思った方がいい。

 息を整える。

 今あるベストコンディションを意識する。


 殺すこと。

 口では簡単だが、いざやるとなると困難だ。

 初撃で終わればベストだが、距離にもよるだろう。


 片手に拳銃を持ち、すぐに撃てるように準備しておく。

 離れているなら拳銃を。

 至近距離なら魔剣で首を狙うことにする。


 いるとしたら、魔王かその他の悪魔か。

 多数の戦闘は経験しているとはいえ、手練れじゃどうにもならない可能性が出てくる。

 そこは、うまく機転で乗り切るしかない。


 「よし」


 行こう。

 木の障害物を思いっきり蹴りつける。

 バタンとそれは倒れた。


 「ガルルルルル……」

 「なっ」


 向こう側にいたのは。

 魔王。

 手下と思われる悪魔。


 「おっ、来たか」


 そして、召喚王と三つの首が生えた犬の魔物がそこにいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る