第104話 大災害13~帰還者~

 〜ダゴラス視点〜


 「マリアァァァ!!」


 マリアの元へ、すぐに駆けつけようとする。

 目の前を見る。

 同時に、黒の獣もまた動き出す。

 次のターゲットへ。

 エイシャ、ロンポット、レイディ。

 捕食対象は、俺が殺意を向けた三人の隊長格。


 食い殺せ。

 嬲り殺せ。

 俺の大切なマリアを傷つけた者を。


 「ガアアアァァァ!」

 「んの野郎!」


 俺の接近に反応したロンポットがハンマーを手にする。

 エイシャもそれに気付き、援護する。


 「制約練成ラピデウス アルケミア・金剛石!!」

 「引力操作アトラクト!」


 ロンポットがパキパキとダイアモンドの盾を作り出していく。

 エイシャは俺を重力で加重。


 漆黒の獣がダイアモンドの盾にガブリと噛みつく。

 まるで融解するが如く、ダイアモンドがムシャムシャと食われていく。

 その隙に本体である俺に、重力が襲う。

 黒の獣を出している間は闇を広範囲に展開出来ないため、俺は能力の影響を受けて地面へ急降下してしまう。

 

 「深緑領土シルウァ・トロピカ!」


 傍からいきなりレイディが現れる。

 狩り人だけあって、気配立ちの結界を使ったか。

 片手には絡みついた植物の根をニードル状にして装備していた。


 彼女の能力は植物操作。

 生み、生やし、育て、使う。

 毒殺のプロでもある。

 要注意だ。


 手に生やした植物型武器を、黒の能力の媒体である魔剣に向けて射出する。

 ニードルが黒の異常物質に突き刺さるが、触れた端から消滅していた。

 だが……


 「燃料切れか……」


 エネルギーが必要量を下回り、途端に黒の獣が霧散する。

 直後、俺の足元から極太の根が生え、俺の全身に絡みつく。

 その力は極めて協力で、全能力が一気に解除されてしまった俺にはどうにも出来ないものだった。


 「おい、毒は盛ったのか?」

 「い~え。でもヴァネールのおじいさまが弱らせてくれたみたいですね。当の本人はどこかに消えちゃいましたけど」


 ロンポットとレイディの発言だ。


 「あっはは、それにしてもやばい状況ですねぇ。グリード街は壊滅。私達の戦力は殆ど全滅。すんごい被害ね」

 「レイディがいなきゃ、私達も死んでたかも」

 「住民を全部制圧した直後に、ウェルチマーナとモーランを傀儡にするとは流石に思わなかったなぁ。マリア様の操り方もうまくてね、おかげで二人を殺すのにかなり手間取ったよ」


 殺したのか、仲間を。

 傀儡と割り切って殺すとは、彼女らしい。

 陽気に話しているレイディではあるが、基本は冷徹。

 相変わらずだな。


 「じゃあ、ダゴラス様」


 真面目な顔で俺と真正面から向き合うレイディ。


 「今から殺させていただきます。痛まないように、一瞬で終わらせます。なにせ、ラースの英雄ですもの。敬意を込めて、それぐらいはしないと」

 「うるせえ。英雄って言うなバカヤロー」


 声がかすれていた。

 闇の能力を行使した反動で、体力の殆どを持ってかれた。

 回復までは時間がかかる。

 もう気絶してもおかしくない。

 枯渇の症状が現れていた。


 「むぅ、凄い威圧感。やっぱり英雄は違いますね」


 キリキリと片手に植物を生やしていく。

 確実に息の根を止められるように、先端を極限まで鋭く。

 一撃必殺。

 狩人の初撃はそれに尽きる。


 「では!」


 再度生やしたニードルを俺の額に当てる。

 軽く触れただけで、ツーと血が流れていく。


 「さようなら」


 スローモーション。

 あれか、死ぬ直前の例のアレか。

 すげぇ遅い。

 圧縮された時間感覚。

 俺は見た。

 大切な存在を。

 彼女を……!


 「マリア!!」


 動かすことの出来ない体を、激情が突き動かす。

 命を、救えと。


 守らなければいけない。

 守ってやらなければ。

 俺が守らなくちゃ。


 あんな純粋で、孤独な女を、他に誰が守ってやれるって言うんだ?

 俺しかいない。


 「こんのっ……!」


 全身強化。

 少し残ったエネルギーをためらうことなくすくい上げ、能力を形成する。

 全身を絞めあげていた拘束を引きちぎり、前へ。

 マリアの元へ。


 「やっぱり凄いなぁ、英雄は」


 背後から、レイディが近づいてくる。

 俺を殺す気だ。

 俺の足取りは鈍く。

 どうしても鈍く。

 あっという間に追いつかれて。

 そして……


 「ニャア」

 「なっ!?」


 その時、俺の真上から何かが降ってきた。

 猫の鳴き声と共に。

 俺を殺そうとしたレイディの腹を蹴り飛ばす。

 その手には失われた時の魔槍である、巡礼が握られていた。


 息を切らす助っ人。

 俺を見て、顔を酷く歪ませる。


 「お前さん、やったのか」

 「助けに……来ました」


 表情を隠すことなく俺に見せる。

 瞳には涙が溜まっている。

 そう。


 そこには、『俺』がいた。

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