第96話 大災害5~それぞれのやるべきこと~

 -ウルファンスの居城-


 俺達の話し合いは、数時間にも及んでいた。

 マリアさんは作戦遂行のための情報を俺に教えている真っ最中である。


 「護り手ゴーレム?」

 「そう、ゴーレム」

 「神話に出てくる、土で出来たやつですか」

 「人間世界の神話には私、ちょっと明るくないわね」

 「あーうー……」


 悪魔なのだから、そりゃそうだ。

 ゴーレム。

 土をこねて作る人の僕。

 様々な神話に登場し、その存在の痕跡は聖書中にて記載のある創世記にも及ぶ。

 最初の人、アダムがまさにゴーレムだったという解釈。

 ゴーレムは人のみが作ったものではない。

 最初は神が作ったものだったのだと。


 「君が乗せられた空中要塞、あれもゴーレムの一種よ」

 「あれが?」

 「そう」


 ゴーレムって言うか、あれは建造物じゃないか?

 なんか違くないか?


 「この世には三つのゴーレムが存在していて、それは人型、城型、要塞型の三種に分かれている。要塞型のゴーレムが、空中要塞というわけ」

 「またまた、嘘でしょう?」

 「嘘じゃないわよ」

 「いやいや、じゃあ俺、魔物の腹の中にいたってことじゃないですか」


 空中要塞が魔物ってことなら、そういうことになる。


 「まあ、そういうことになるんじゃないかしらね」

 「ええー……」


 なんか、魔物の定義がよく分からなくなってくる。

 魔物は能力を行使できる生物。

 でも、ゴーレムは生物じゃないし。

 てかそもそも能力なんて使えないだろ。

 だって建物だもん。

 うんうん考えていると、ウルファンスが注釈を入れてくる。


 「グリード領にもゴーレムがいて、まず目の上のたんこぶになること間違いなしよ。あんた、覚悟しておきなさい」

 「グリード領にもあんな要塞みたいなやつが?」

 「要塞じゃない。あの堅物が持ってるのは人型のやつよ」

 「人型?」

 「そう、人の種族を模したでっかいゴーレム」

 「……なんで人型?」 

 「は?」

 「いや、この世界なら悪魔とかなんじゃないか? なんで人間を模した?」

 「ん、変なことを聞くわねぇ……。でも、なんででかしらね?」


 ウルファンスの顔が、疑問に染まったような表情になった。

 分からない?

 それとも知らない?

 マリアさんの方を見てみるも、彼女もご存じないようだった。


 「まあ、今はそのゴーレムを倒す方法を教えなくちゃあな」


 ダゴラスさんによって、会話の軌道が修正される。


 「要塞型は主に、移動と守護、迎撃の役目を持ったオールラウンダーだが、今回の人型は戦闘に特化してる」

 「……建造物が戦う?」

 「そうなんだぜぇ?」


 あれか、RPGゲームのみたいなのを思い浮かべればいいのか?


 「攻略方法は簡単。操縦室さえ押さえれば、ゴーレムは止まる」

 「じゃあ、逆に言うと暴走とかはしないんですね」

 「しない。魔物の肉体を操作するのであって、命までは吹き込まない。だからマリアでも洗脳が出来ない。意思がないからな」


 被造物の魔物だもんな。

 てか作れたんだな、魔物って。


 「どうせ魔王が操縦するんでしょ? だったら私がぶっとばしてやりたいわ」

 「ほう。じゃ、ウルファンスはゴーレムの足止めでいいな」


 ダゴラスさんが全員に確認をとる。

 反対意見は出なかった。


 「でだ、周りの雑魚達は雪崩で一掃するから良いとして、まだ障害が残ってる」

 「まだあるんですか?」

 「魔王にはな、側近が必ずいるもんなんだ」

 「ルフェシヲラみたいなですか」

 「そう、そんな悪魔が精鋭隊の中に四人いる。みんな手ごわいぞ」


 げぇ。

 まだ強い悪魔がいるのか。

 確かに彼女は強かった。

 嫌な性格してたけども。


 「白兵戦に強い悪魔が、側近の対処に当たるべきだが……」


 ダゴラスさんがみんなを見る。

 俺も一応剣は使うが、俺じゃあなぁ……

 一瞬で蹴散らされそうである。


 「私とダゴラス様以外に適任者はないでしょう」


 ララが鋭く発言する。

 そう、元隊長二人。

 二人は魔剣を持って戦う剣士だ。

 ララの言う通り、うってつけだろう。


 「ララ、俺が騎士団にいた時吸血鬼化が不安定だったな。今はうまく出来てるのか?」

 「安定はしています。吸血鬼化を維持出来る時間はそう長くないですが」

 「マリアから聞いた話だと、中央執行所で吸血鬼化を使ったんだってな」

 「……ご存じだったんですね」

 「ルフェシヲラ相手に善戦してたんだろ?」

 「逃げられはしましたが……」

 「じゃあ、文句なく合格だ。やれるやれる。期待してるぞ」


 ダゴラスさんは自分の膝を軽く叩く。


 「じゃあ、魔王の側近は俺とお前な」

 「了解です」

 「んじゃ、次」

 「え、次?」

 「まだ邪魔してくる奴はいるぞ?」

 「他に何がいるんですか」

 「神聖種さ」

 「サタンの聖馬ユニコーンみたいな?」

 「一応は」


 空中要塞で、最後まで戦っていた神聖種。

 七十二柱のバルバトスとも、互角以上に戦ってた。

 主人である魔王が気絶しても、暴走することなくサタンを守っていた。

  

 「魔王は悪魔の中では脆弱な存在さ。だから、古代から脈々と神聖種を飼いならしてる。自律的に魔王を守護する、厄介な存在さ」


 古代からか……

 あれだけ従順なのも道理か。


 「マモンの使い魔である神聖種は、聖狐ウールペス魁の火レクスって固有能力を使う神聖種だ。九尾の狐さ」


 狐か……

 九尾の狐って言ったら、人間世界では殺生石の玉藻の前が有名だ。

 平安時代末期における、伝説上の女……それが玉藻の前だ。

 鳥羽上皇の寵姫であり、愛されていたが、その正体は九本の尾を持つ邪悪な狐の化身だったという。

 後に九尾の狐の正体はばれ、人の手によって殺されるが、その体は毒石となり、近付く動物や人間の命を奪っていった。

 それが今も人間世界に現存している殺生石であるという。

 まあ、最近真っ二つに割れたらしいけど。


 「聖鳥フェニックスの使う癒しの火レストラーレと似てはいるが、決定的に違うところがある。これが厄介なんだよなぁ」


 この世界にはフェニックスまでいるのか。

 ファンタジーやってんなー。


 「それは私がやるわよ」


 マリアさんが名乗りを上げた。


 「私が一番相性いいでしょ。軍団を扱う者と、軍団を補助する者。いいんじゃない?」

 「でもお前……」

 「大丈夫。いけるわ」


 ……なんだ?

 今、会話に違和感を感じた。


 「分かった」


 そうダゴラスさんは一言。

 あまり乗り気そうじゃない顔。

 ますます違和感。

 けど、何故か追及する気になれなかった。



 ---




 精鋭隊は決して弱くはない。

 全員魔物と戦いなれた強者ばかりだ。


 雪山の魔物は、比較的強いものが多い。

 麓まで降りてくることもしばしばだ。

 だから追い返したり、討伐したりする機会は頻繁にあった。

 確かな実力はあったのだ。


 でも、七十二柱はそこらの魔物とはわけが違う。

 単独で邪悪種とも交戦出来るし、封印出来る。

 精鋭隊が全滅しても、何もおかしくはなかった。


 「残ったのは魔王だけか」


 そう、グリードの魔王、アモン・マモン。

 部隊が戦っている間は、ひたすらそれを見守っていた。

 結果、全滅。

 だが、その表情はまだ悲観にはくれていない。


 魔王自体の戦闘力はさほどもない。

 弱い部類だ。

 しかし、魔王に必要なのは戦闘力じゃない。

 カリスマだ。

 羨望の、魅了の力。


 それを守護する悪魔がいる。

 それは領土によって、守護団だとか、騎士団と呼び名を変えていた。

 でも、悪魔以外にも魔王を守る存在がある。


 ゴーレム。

 そして……神聖種。


 ゴゴゴと地響きがした。

 雪原全体が揺れている。

 つまり、これは。


 「シフィー、もう少し高く飛んで」

 「分かりました」


 マリアさんの指示を受けて、青龍をより高い高度まで上昇させる。

 攻撃の射程範囲内だからだ。

 何からの攻撃がここまで届くのか?

 それが魔王の切り札でもある。

 

 「フン」


 突然魔王の体が赤い光に包まれる。

 おなじみ、転移の光だ。

 魔王が脱出用の転移魔石を持っているのは簡単に予想出来る。

 別に驚くことじゃない。

 そうして魔王は、あっさりと姿を消してしまった。


 「「移動したな」」


 ダゴラスさんのテレパシーが、俺達の頭の中に響く。

 下を覗いてみると、ダゴラスさんはこちらを見ていた。


 「「んじゃ、確認な」」

 「「ええ」」


 マリアさんが返答する。

 いつもと変わらない調子で。


 「「俺とララが魔王の側近達。ウルファンスはでかぶつの足止め。マリアとシフィーは魔王の神聖種と戦闘」」


 各々の役割。

 こちらはどうしても少人数だ。

 猫の手も欲しい状況。

 最年少のスー君やソフィーまで、戦闘のサポートに入っているのだ。

 なら、俺がでない理由はない。


 「「んで、お前さんは……魔王を頼む」」


 俺のやるべきこと。

 魔王の無力化。


 「「それじゃあ、やろうか」」


 ダゴラスさんとララが立っている目の前の位置。

 街の中心部、グリード城。

 てっぺんの大魔石が光輝く。

 光が増すと、地面の揺れも激しくなる。


 そして、その大きな城が、のっそりと起き上がった。

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