第42話 騎士と秘書の戦い
〜悪魔・ララ視点〜
ルフェシヲラの戦闘方法。
彼女は転移と結界の能力を組み合わせて使用する固有能力……
転移の陣を自身の体に掘るなどして常に使用可能にしておく。
次に攻撃を防御する結界を作る。
彼女の準備はそれだけだ。
たったそれだけだが、他の悪魔には真似の出来ない能力をそこで初めて発揮出来るようになる。
結界内で短距離の転移を行い、結界を蹴り飛び相手の隙を伺いつつ攻撃するというものだ。
この方法は普通なら実行は出来ない。
まず一つ。
それは、出口側の転移の陣をセットする場所がないという点。
転移をすること自体は可能だが、その時点では出口側の陣を設けていないために、ランダムで転移の出口が設定され放り出されてしまう。
だから本来、どこか一箇所に出口となる転移の陣を設置しなければならない。
が、戦闘中にそんなものを設置する余裕はないし、そもそもどこから転移で現れるのかを相手に知られてしまったら、設置した出口側の転移の陣で待ち構えられてしまう。
そして二つ目。
転移中は外界を確認出来ない。
また、転移が終わった後の意識の回復には時間が少々かかってしまう。
戦闘中は一瞬の隙が命取りになる。
外界の状況を再度把握し直すことは戦闘中において現実的ではない。
以上の理由で、転移の能力は基本的に戦闘へ流用出来ない。
第二、第三段階の転移の能力である召喚はまた別だが。
それでも彼女はそれを戦闘手段として使用する。
そして結界は能力や直接攻撃を弾く性質を持っている。
熟練した者が使用する上級の結界は、転移中の光をも阻む。
光を阻む結界の作成には、第四段階の付加が必要だ。
物理的には鋼以上に強度が高いと言われる程、破ることが困難な鉄壁。
死を寄せ付けない守り。
結界の能力を身に付けた者は数多いが、彼女程結界の能力を極めた悪魔は稀だろう。
私も結界の使い手だからよく分かる。
彼女は、結界の能力に特化した悪魔だった。
結界使いの守り手として、騎士団には入らず秘書として魔王を補佐している。
……私が剣を構えると、ルフェシヲラは結界を張った。
謁見の部屋全体に。
「あなたと戦うのであれば、私も手加減は出来ません。よろしいですね?」
「やむなしだ」
肯定。
いくら話し合っても、お互いに平行線だというのは分かっている。
本当なら、こんな問いですらいらない。
私はルフェシヲラの元へ踏み込んだ。
彼女に向かって全力で剣を振る。
が、剣は空振りに終わった。
空気を空しく斬るだけに留まる。
完全にルフェシヲラを捕らえていたはずなのに。
一瞬にして、その姿を消してしまった。
「相変わらず速いですね。流石、ダゴラス様の後任を勤めているだけはあります」
後ろから声がした。
振り返ると、いつの間にかルフェシヲラが立っていた。
私の斬り込みはそこらの悪魔には回避できない。
その攻撃をかわされると言うこと。
これが彼女の固有能力。
並みの身体能力では、まるで攻撃が届かない。
「では」
彼女はそう言って、再び姿を消した。
瞬きをした時には、私の視界から消え失せていた。
音もない。
移動する気配も感じない。
故に、どこから攻撃がくるかも分からない。
「っ!!」
突然背後に気配を感じる。
私は後ろを振り向かず、そのまま前方へ転がり込んだ。
ビュッ!と空気が乱れる音が聞こえた。
恐らく、蹴りの音だ。
丁度、私の首があった位置から聞こえた。
気配を感じた位置を見てみる。
だが、そこには誰もいなかった。
いや、いたのだろう。
また一瞬で固有能力を使用して、瞬間移動したと思われる。
次は横から気配を感じた。
すかさずサイドステップでかわす。
氷が砕ける音がした。
見てみると、私の立っていた床が凍っていた。
魔鎧ごしでも冷気を感じる。
それだけ、その氷が強力な物だということだった。
だが、そんなことを気にしている暇は無い。
氷と言うことは、ルフェシヲラは私の動きを止める気でいるらしい。
それは命までは取らないという意志の表れでもある。
早く私を無力化して、指揮を取りたいということが伺える。
今度は真上から気配を感じた。
数発の攻撃を経験してその気配を視認出来る余裕はあった。
見ると、氷の玉が数発、私目掛けて降下してきていた。
その氷よりも奥には、ルフェシヲラがルーンを唱えているのが見える。
私と目が合うと、また一瞬にして姿を消してしまう。
姿を消す時、光となって閃光のように消えてしまう姿が確認出来た。
前へ走って、上から落下する氷をかわしていく。
次は四方から攻撃の気配。
またしても氷だった。
四方から迫る氷を掻い潜る。
その先からも氷。
周囲を見ると八方からも氷が迫っている。
私は平面でかわすことを諦め、高く跳躍した。
しかし回避し続けても更にあらゆる方向から氷が襲ってくる。
空中で身をひねってかわしていく。
氷の玉を生成する音がいくつも聞こえ、室内はギリギリと能力の発動音を響かせていた。
着地後、全方向から三十を超える同時氷撃。
回避は不可能と判断し、剣で氷を斬り砕く。
……私の手数は少ないとは言わないが、それでもこうした連撃に長時間耐えられるほどではない。
ルフェシヲラは固有能力で瞬間移動したのち、出口で氷の能力を使用しすぐに固有能力を再使用、そして離脱している。
この繰り返しが中断しない限り、私は防戦一方。
私の着ている魔鎧は、エネルギーを消費する代わりに常時、身体干渉系能力である足と腕の強化の能力を施してくれる魔具だ。
これのおかげで、ルーンを唱えなくてもエネルギーを込めるだけで、いつでも能力で強化された状態を保てている。
魔鎧に付加されたチャントは第二段階。
中級騎士レベルだ。
そんな鎧を着ていても、徐々に氷の数に押され始めてきた。
やはり、ルフェシヲラが使うこの固有能力は厄介だ。
一方で、疑問。
彼女はどうやって光の召喚……転移に使用する莫大なコストを支払っているのか?
氷の能力を使いながら転移をするという行為は、いくらエネルギーが莫大にあっても足りるものではない。
通常、光を召喚しようものなら、たった一回で自身のエネルギーが枯渇してしまう。
しかし、彼女は瞬間的にそれを何回も行っている。
携帯の魔石を使用するにしても、使用回数が多すぎる。
一体彼女のエネルギー源はどこから来ているのか?
そして、二つの問題も残っている。
ルフェシヲラの戦闘方法は疑問だらけだ。
彼女の戦闘方法自体は有名だが、その戦闘の仕組みは誰も理解していなかった。
中央執行所に同じく在籍する私も例外ではない。
「くっ……」
室内は既に、氷の世界だった。
室内全面が氷に覆われている。
迫ってくる氷の数は数え切れない程になり、氷の連撃に対処することすら困難になってきている。
更に、床は氷が張っていていちいち足を取られる。
劣勢だ。
「あぁ」
ルフェシヲラは転移を中断し、私に話しかける。
戦いの最中に話しかけるとは……彼女らしからぬ行為だ。
「終わりましたね」
「何がだ?」
「とぼけるのですね。剣にエネルギーが溜まってますよ」
彼女はそう言った。
私と違って、彼女は私の手の内を知っている。
そして奥の手も。
「あなたが本気を出す前にと全力で戦っている訳ですが、時間切れのようですね」
彼女は静かにそう言った。
私を拘束したいのなら、始めに第四段階目の結界を私の周りに張って閉じ込めれば良い。
彼女程の使い手ならば、結界を長時間維持しながら、テレパシーで悪魔達に支持を出すことも可能だったろう。
だが、そうはしなかった。
私の力を知っているから。
私が希少な結界破りの能力持ち点……吸血鬼と悪魔のハーフだということを知っているから。
だから彼女は、私を凍らせることで動きを止めようとした。
だが、時は熟した。
私は魔剣にエネルギーを送るのを止めた。
そう、私は彼女と戦闘している間、ずっと魔剣にエネルギーを送っていた。
私の戦闘スタイルは、身体能力を強化して、相手に合わせて五属性の自然干渉系能力を魔剣に付加して倒す。
結界も張るし、回復して援護も出来る。
つまりオールラウンダーだ。
そこから私の戦闘スタイルを変化させる。
それが私の本気。
吸血鬼としての私の本気。
「すまないな、私も急がないといけないみたいだから」
「貴方を止められそうにないのは残念です」
私が氷を避けきれなかったら、そのまま負けていただろう。
ルフェシヲラの固有能力の仕組みが分からないまま。
だが、私が本気を出せれば話は別だ。
本気を出した私と、結界のエキスパートである彼女の相性は逆転する。
「
バキバキと、私の体から異質な音が聞こえる。
肉体の変化。
私の本質は吸血鬼。
変化は一瞬で終わった。
「久しぶりに見ました、その姿」
私を見て、ルフェシヲラはそう言った。
私もこの姿になるのは久しぶりだ。
彼女がそう言うのも無理はない。
さて。
「待ってろ、人間。すぐに助ける」
変異した肉体を動かしながら、私はそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます