第43話 吸血鬼と秘書の戦い
〜悪魔・ルフェシヲラ視点〜
吸血鬼となった彼女を真正面から捉える。
口からはみ出さんばかりの牙。
血の気を失った肌。
そして、赤い瞳。
悪魔の姿はそのままに、吸血鬼の特徴を混ぜたかのような姿にララは変化した。
吸血鬼は元来凶暴な性質だ。
今はマリア様の処置によって暴れることもなくなったと聞くが、いざ戦闘に追い込まれると、その凶暴性が一時的に開放する。
こうした状態の吸血鬼は、闇の器に近い魔物寄りの存在として傾いてしまうため、地獄から直接恩恵を受けやすい。
悪魔はルーン文字を通してでしか、闇の意思に干渉して能力を使用出来ないが、魔物は違う。
知性が悪魔よりも少ない分、それだけ地獄の恩恵を受けやすい。
能力とは別物の、ララ独自の強化手段。
吸血鬼の使用する能力は身体強化とドレイン……結界破りの能力だ。
結界は直接破壊するか、結界を維持しているエネルギーをどうにかすることで対処出来る。
と言っても、ドレインの能力は希少な能力なので、そうそう結界が破られたりすることはない。
だが、ララは希少な能力を一時的に手にしてしまった。
結界破りの力を。
「こうなってしまったら、私の負けですよ」
そう言いながらも、私は体にエネルギーを循環させる。
「何を言ってる? まだ抵抗する気満々じゃないか」
「時間稼ぎくらいはしないと、魔王様に怒られてしまいます」
「そうか」
魔王様がこちらへ帰還する時間までとは言わずとも、せめて少しでも多くの時間を。
私がそう思った直後。
「だろうな!」
ララ様は一言そう言って、私の元へ一気に駆け出した。
パキンと地面から音が響く。
ララ様の踏み込みで、地面の氷が割れる音だ。
その音が私の元へ辿り着くのと同時に、ララ様は私の懐へ入った。
「クッ!!」
私もテレポートを発動する。
相手は音速の域に入った化け物だが、こちらは光速だ。
追いつけるはずがない。
視界が光に包まれる瞬間に、私はルーンを唱える。
「
意識が光になりかけるその時、発動した精神干渉の抵抗能力によって再び意識が復元する。
光になったその状態で。
まるで時が止まったかのようだ。
実際は止まっている訳ではなく、止まっているように見えるくらい周りが遅い。
私が速くなっているのだ。
光は光の時間が、悪魔は悪魔の時間と言うものが存在する。
光は独自の時間感覚を持っていて、周りの動きが止まっているかのような視点を持っている。
それこそが光の認識。
概念種の認識。
これは、私しか知らないこと。
光となった私は、すぐにララから遠ざかる。
結界にぶつかりながら方向を調整し、目的の場所へ行く。
そして、私は転移に使っているエネルギーの流れを一旦止めた。
時間が動き出し、世界は加速する。
目に映る全てのものが、本来の時間の流れに沿って始動した。
つまり、光から元の状態へ戻ったのだ。
転移を終了させたい場合は、その場でエネルギーの循環を止める。
これで位置調整は出来る。
エネルギーの消費に関しても、光を召喚する最初の転移はコストがかかるが、それ以降は結界で囲んでしまえば光は霧散されることなく永続的に使用可能。
消費負担は激減する。
いくらララでも光の速度には追いつけまい。
そう思ったのだが……
転移直後の私のすぐ目の前で、ララが腕を振り上げて待ち構えていた。
その手には魔剣がある。
「お前はテレポートし終わってからの対応が遅い!」
「なっ!」
私の対応が遅いわけではない。
ララが速すぎるのだ。
今のララは、魔具による身体強化に加えて、吸血鬼の恩恵を受けている。
能力の第四段階。
恐らく、その領域にまでララの俊敏性は到達している。
一旦光から体を分離させてしまえば、時間間隔は光のものから悪魔のものに変わっていく。
今の私は、音速で動くララを捕らえ切れていない。
だが、その短い間隔でも再度瞬間移動し直すことは出来る!
攻撃が当たるギリギリの瞬間。
私は、瞬間移動を発動させて攻撃をかわす。
視界は時間が止まった光景に切り替わる。
光となった体で結界にぶつかり、位置調整を行いながらララから一番遠い場所へ。
そして、世界はまた動き始めた。
ララが、世界の始動と同時にまた私の目の前に移動。
一瞬でだ。
いくら何でも速すぎる!
「無駄だ!」
再度私は固有能力を発動して離れた場所へ。
ララは転移し終わった矢先に、一瞬で私の元へ。
それを何度も何度も繰り返した。
吸血鬼化したとは言え、まだ余力は残しているだろう。
私はさっきから全力なのに。
「チッ!!」
人間が逃げてしまうこの余裕のない時に、ララの抵抗が入ったことが腹立たしい。
もう限界だった。
こうなれば、転移で先に人間の方を確保するしかない。
ララの妨害が入って、被害も出るだろうが仕方ない。
時間も稼いだ。
私がそう決断した直後。
「「ヴァネールだ。加勢する故、状況を知らせろ」」
王立騎士団第二隊長のテレパシーが、私の元へ届いた。
---
〜悪魔・ララ視点〜
私はルフェシヲラの転移に対応しながら、剣で攻撃を仕掛ける。
ひたすら彼女に向かって剣を振った。
部屋は私が壁や天井を縦横無尽に蹴り飛ぶ音で響き渡っている。
ルフェシヲラは室内のどこにでも現れる。
私も室内のどこにでもついて行ける。
追いかけっこみたいなものだ。
私は今のところ疲れる気配が全くない。
壁を蹴っては剣を振り、壁を蹴っては剣を振り。
氷で足を滑らせることもない。
蹴った氷を砕く程に力を込めているからだ。
室内中に砕けた氷が舞い散り、ルフェシヲラの転移による光がキラキラと反射して輝く。
時間にして三十秒か。
短いようで長い時間の中、ついに彼女が根を上げた。
逃げたのだ。
転移で室内の外へ。
彼女に向かって剣を振り下ろしたが、今一歩遅かった。
一時的な光速と、常時音速では、光速の方に軍配が上がるようだ。
室内の結界が砕け、消える。
それはこの場から、ルフェシヲラが消えたことを意味していた。
転移先が城内か、城外なのかは分からない。
故に追いようもない。
逃がしてしまったのだ。
ルフェシヲラをここで食い止めようとは思ったが、テレポートの発動開始時間が思いの外速かった。
戦闘のブランクで鈍っているかと思っていたのだが、それは甘い思考だったようだ。
まあ、今の私なら、城外に張られている結界を破ることも出来るだろう。
外に出て、人間がどうなっているのか確認しなければ。
しかし、背後から気配を感じた。
私は最小の予備動作で剣を後ろに振りぬこうとする。
だが、それはすでに遅く、背中の鎧の部分に何かが当たる音が聞こえた。
一瞬だけ後ろが見えた。
ルフェシヲラが、私の鎧に手を触れている様子だ。
咄嗟に私は剣を振るうが、彼女に届くことはなく。
私は転移の光に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます