第4話 光の記憶1

 俺の体はなくなっていた。

 視界は白一色だ。

 それ以外何も見えない。


 どこが上で、どこが下かも分からない。

 まるで宇宙にいるかのような浮遊感だ。

 でも、実際に浮いているかどうかも分からない。


 俺は落ちているのか、昇っているのか、それともただその場に留まっているだけなのか。

 それすらも認識出来ない。


 体の感覚はない。

 だが、怖くはなかった。

 俺が今、何になっているのかだけは分かるからだ。


 光だ。

 俺は光になったのだ。


 光が俺と一体になっている。

 本来なら、邪魔者と思われる俺のことを光が受け入れてくれている。


 ……光には意思があるようだった。

 俺にとって光は不可解なものだった。

 だが、親しみがあった。


 他人みたいな関係なのに、家族のように接してくれている。

 様々なものが流れ込んでくる。

 俺の体はないはずなのに、俺に流れ込んで来るのがはっきり分かる。

 光の意思が、想いが。

 そして記憶が。


 俺に光の記憶が流れ込んでいく。

 ゆっくりと流れ込んでいく。


 人が神聖視し、そして邪悪視するもの。

 人ですら進むことのできない闇、宇宙を自由に照らし、旅する者。


 人は昔、光のある世界に生まれた。

 光は人を暖かく見守り、優しく導いた。

 その力をもって広大な世界の大地を、闇から人を守るように照らした。


 光は世界の法則に組み込まれるほど強大だった。

 愚かな人は、光の力を、その強大な力を自分のものにしようとした。

 光を犯し、利用しようとした。


 でも、出来なかった。

 人は光に触れることすら出来なかったのだ。

 だが、人の愚行を目にしようとも光は世界を照らし続ける。


 人は光のありように心を打たれた。

 人は光を崇め始めた。

 人は最初に光を概念の神にしたのだ。


 だが違う。

 光になった今ならわかる。

 光は……一つの意思ある命だ。

 神でも何でもない、生命体だった。


 線の形、渦の形、魚の形、人の形、犬の形、リンゴの形、木の形。

 光にとれない形はない。


 無限に姿を変えながら進んでいく。

 何者にも邪魔されず進んでいく。

 全能にも思えてしまう感覚だった。


 だから俺は、安心してその流れに身を任せたのだった。

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