第38話 埋められない大きな穴

 沢田がルミの元から戻ると、会場の隅で座り込んでいるオサムの姿が目に入ってきた。

「木村さん、何かあったんですか? ルミちゃん悲しんでましたよ。女の子悲しませちゃだめですよ。もてる男は憎いですねー。」

 沢田はオサムに近づいて行き、わざとおちゃらけてオサムに向かって言っていたが、オサムは全く反応しないで、何も言わずにその場をから立ち上がると会場の外へと出て行ってしまった。

(ルミちゃんごめん。自分でもよくわからないんだ。なんでこうなっちゃたんだか。ルミちゃんに近づけた分、余計にルミちゃんが遠くに感じちゃって、俺なんか最初から近づけなければよかったんだ。)

 オサムはそう思いながら、寂しそうにひとり駅に向かって足を進めて行った。


 メンバーと会場の異変の報告を受け、大森が控室から血相を変えて飛んで来ると、志桜里とルミの姿を見つけ、ふたりの元に駆け寄っていた。

「志桜里、ルミ、どうした? 何があったんだ!」

 大森はそう言いながらまわりを見回すと、しゃがみこんでいる数名のメンバーの姿が目に入ってきた。

「みんなどうしたんだ。」

 大森は各ブースに声を掛け、数名のスタッフに事情を聞いて大体の状況を把握したようだ。

「わかった。ちょっと一時中断しましょう。すみません会場に放送入れてもらっていいですか。」

 大森はスタッフにお願いし、志桜里とルミの元へ戻った。

「志桜里、ルミ、いち度みんなを連れて控室に戻ってもらえるか。俺はスタッフともう少し話してから戻るから。」

「わかりました。ルミ行くよ!」

 志桜里はうなずくとルミをうながしていたが、ルミはボーッとしたまま動かないでいてた。

「ルミしっかりして!」

 その姿を見て志桜里は大きな声を出すと、その声に反応してようやくルミも動き出し、他のメンバーの元へ足を運んで行った。


「さあ立ち上がって。」

「大丈夫か、立てるか?」

 大森はスタッフの元へ行く前に、しゃがみこんでいるメンバーに心配そうに声を掛けてまわり、会場に目をやって大きくため息をついていた。

「俺の考えが甘かった・・・。」



 結局今回の握手会は、多数メンバーの体調不良ということで即刻中止になってしまっていてた。大森はその対応に追われながらも、メンバーの事が気になってしょうがない様子でいたが、志桜里がその大森に代わって、メンバーひとりひとりに声を掛けてまわっていた。しかし何故かルミには声を掛けなかった。

 しばらくして泣いていたメンバー達も少しづつ落ち着きを取り戻して、あちらこちらで話し声が聞こえるようになってきたが、ルミはどこの会話に加わるわけでもなく、控室の隅にひとりで座っていると、志桜里が近づきようやくルミにも声を掛けたが、その言葉は他のメンバーに掛けていた言葉とは大きく違う言葉と言い方であった。

「ルミ、こういう時にあなたが何も言わないで座り込んでいてどうするの。あなたがメンバーに声掛けてまわらないととダメなんだよ。自分の今のポジションわかってるの? 沙由と美里愛から何を学んだの?」

 珍しく志桜里が怒って声を張り上げていたが、ルミはその言葉を聞いても動かないで下を向いていたが、やがておもむろに顔を上げて声を上げた。

「私なんか、私なんか・・・。」

 ルミは急に立ち上がり控室を勢いよく飛び出して行ってしまった。

「ルミ!」

 そばでそれを見ていた真理と玲が慌てて、ふたり同時に声を出し、ルミを追いかけようとしていた。

「真理! 玲!」

 志桜里に大きな声で名前を呼ばれると、ふたりはその場で足を止めたが、真理は振り返って、志桜里に詰め寄って行った。

「志桜里さん、ルミ出て行っちゃいましたよ。追いかけないでいいんですか!」

「大きな声出してごめんね。でもあの子には時間が必要だから、少しほっといてあげて。」

 志桜里は静かな口調で言いながら、ルミが飛び出していってしまったドアをジッと見つめていた。



 しばらくして大森が慌てた様子で控室に戻ってきた。

「志桜里! ルミ!」

 ふたりを探す様に控室内を見回していると、当然のことだが、志桜里だけが大森の方に歩み寄っていった。

「あれ? ルミは?」

 大森がルミを探すような素振りをしてキョロキョロしていると、志桜里が大森の目の前まで近づいてきた。

「ルミは体調悪いので、私の判断で先に帰しました。」

「そ、そうか、わかった。それじゃあ志桜里、早急に今後のことを話そう。」

 大森はそう言うと、控室内を見回して他のメンバーに向かって声を掛けた。

「みんなは、今日はもう帰っていいから、気を付けて帰るように。でももし体調悪い人いるなら、この会場は夕方までおさえてあるんで、体調戻るまでここで休んでいてもかまわないから。ではお疲れ様です。」

 そして再び志桜里の方を見てうなずくとふたりで控室を出て行った。 

 大森と志桜里が出て行ってから、残されたメンバーは帰り支度をしていた間、誰も口を開かなかったが、ひとりが口を開くといろいろな声が上がっていた。

「このグループもうやばいのかな?」

「もう辞めた方がいいのかな。」

「解散かな。」

 そして最終的にメンバー達のその不安は、やはり沙由と美里愛に代わって、グループの中心に抜擢されていたルミに向けられてしまった。

「やっぱ、ルミじゃダメなんじゃない?」

「そうだよ、ルミじゃ沙由さんと美里愛さんの代わりにはならないし、もうルミがセンターって時点で、このグループは終わってるんだよ。」

 するとその声を聞いていた玲が震えながら大きな声を出した。

「みんな何言ってるの! こうなったのはルミのせいじゃないから。私も含めて全員の責任だから。」

「そうだよ、玲の言うとおりだよ。私自身もそうだけど、今まで沙由さんと美里愛さんに頼り切っていて、今でも志桜里さんとルミに何でも任せっきりだし。私たちなんにもしてないじゃん。」

 続いて真理が他のメンバーに向かって、自分自身に向かって言うと、そのふたりの言葉を聞いてその他のメンバーも、今まで口いしていた不安や愚痴を言うのをやめて、真理と玲のもとに足を運んでいた。

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