第34話 嘘
「実は私・・・、ルミが男の人と楽しそうにファミレスで話してたのを見ちゃったんだよ。」
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「大森さん、ここで降ろしてください。」
志桜里が急に言うと、大森が少し驚いた顔をして聞いてきた。
「えっ、ここでいいの? もうすぐ家だから家の前まで送るよ。」
「ちょっと、ひとりで考え・・・、いや、この辺に美味しいお店があるって聞いたんで、今日はそのお店で食事してから帰りたいんで、ここで大丈夫です。」
何か元気の無い様子で言うと、大森は心配そうにしてはいたが、ルームミラー越しに志桜里の顔を見て車を止めた。
「わかったよ。はい。」
「ありがとうございました。」
志桜里はお礼を言って車から降り、大森が去るのを見届けてからひとりで歩きながら考えていた。
(沙由も、美里愛も急すぎるんだよ。よりによってふたり同じ時期に卒業なんて・・・、ふたりからそんな話されたら、私だって困っちゃうよ・・・。)
しばらくそんなことを考えながら歩いていると、少し先に1軒のファーミリーレストランが目に入ってきた。
「あー、そう言えば本当にお腹すいたな。よし、大森さんにもそう言ったし、あそこで食べてから帰ろう。」
志桜里はサングラスをかけ最低限の変装をして、店内へ入って行くと、すぐに入り口付近にいた店員から声を掛けられた。
「いらっやいませ。お客様何名様ですか?」
「ひとりです。」
「ご案内しますのでしばらく待ちください。」
再び店員からお決まりの言葉を言われて、入り口の椅子に腰かけたが、店内に空席がいくつかあったため、すぐに呼ばれて案内された席について、簡易おしぼりで手を拭きテーブルに置かれていたメニューを見ながら店内を見回していた。店内は満員ではなかったがそれなりのにぎわいで、やはりサングラスをかけてきたのは正解だったようだ。
注文をテーブル備え付けのタブレットでして、ドリンクバーに飲みものを取りに行ったとき、その場所にいた人物を見て驚いた。
(あれ? ルミじゃない? )
一瞬声を掛けようとしたが、ルミは飲み物を持ってすぐに自分の席に戻って行こうとしていたので、志桜里はルミを目で追いルミの座った席をよく見ると、自分と同じか少し上かな位の男性がルミの向かいに座っていて、ふたりは楽しそうに話をしているのが目に入ってきた。
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「ということだったんだよ。」
あの晩のファミリーレストランでの出来事を志桜里は話し終えていた。
ルミは後ろめたいことは何もないのだが、このことを志桜里がどう思っているのかわからなく、万が一誤解?していたとしても仕方ないと思い黙ったままうつむいていると、そのルミの姿を見て、志桜里は心配そうに優しく声を掛けた。
「ルミ、どうなの?」
「志桜里さん聞いてください・・・。」
ルミは顔を上げ、最初のオサムに助けてもらった夜の件から話しはじめていた。
「そういうことだったんだ。それならよかった。何か心配しちゃったよ。じゃあ別に好きとか、付き合ってるわけじゃないんだね。会ったのもあの時だけなんだね。」
全て?の話を聞いて志桜里は、緊張感から解放されたように安心した表情を浮かべていた。
「はい。そうです。」
その志桜里の表情を見てルミはそう答えていたが、それは嘘だった。ルミは何度かオサムに会っている。それもそのほとんどが自分から会いに行っている。さらにオサムとは幼馴染で子供のころからの知り合いなのだが、その辺の話をルミは志桜里にしてはいなかった。
(嘘ついちゃった。でもこれでいいんだ。私、オサムさんのこと・・・)
志桜里はルミの言葉を信用して、自分の取り越し苦労だったと確信し、笑顔でルミの方を見た後、スマートフォンを取り出して何かをしていたが、それが終わると急にルミに向かって言ってきた。
「お腹すいたよね。何か食べるよね。少し待ってって。」
「いいえ、私はこれで失礼します。お話が終わったのなら、これで・・・。」
「まあそう言わずに、せっかく来たんだし、それにこんなこと滅多に無いことなんだから、もう少し付き合ってよ。」
ルミも嘘を言った後ろめたさと、本音ではもう少し志桜里と話をしたいと思う気持ちが相まって、志桜里のお願いを受け入れようとしていた。
「はい、お腹すきました。それに本当は私、志桜里さんともっとお話ししたいです。」
「そう。それならよかった。ゆっくり話そう。」
志桜里も満面の笑みで答えて、しばらくふたりで楽しそうに話をしていると、部屋のインターフォンが鳴った。
「ピンポーン」
そう言えば志桜里はさっき、”じゃあもう少し待っててね。” 確かそんなこと言ってきたので、何かデリバリー的なものを注文してくれたんだとルミは思っていると、
志桜里はインターフォンの画面を見て、マンション入り口のオートロックを解除した。
「どうぞ、部屋の鍵は開けとくから。」
そう言うと、そのまま玄関へ行き鍵を開けてからルミの元に戻ってきて、何故か楽しそうな顔をして見せていると、しばらくして再びインターフォンが鳴った。
「トントントン」
「ドンドンドン」
誰かの足音が聞こえてきた。
「お待たせしました。」
「お待たせ。」
その声とともに沙由と美里愛が、パンパンに膨らんだコンビニのビニール袋を持っていきなり部屋に入ってきたのだ。
「ルミ、こんばんは。」
沙由がルミに言葉を掛けてきたが、ルミは驚いてしまい現状を把握することができず黙ったままでいると、沙由に続いて入ってきた美里愛が大きな声を掛けてきた。
「おーい! ルミ、聞こえてる?」
「はい。こんばんはです。はい。」
ルミはようやく事態を把握したのだが、目大きく開けたまま変な返事をしていた。
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