第33話 見ちゃったんだ

「ごめんね、散らかってるけど、その辺に適当に座って。」

 志桜里は自室のリビングにルミを案内し、部屋の中を見渡してソファ近辺を指差して言うと、ルミをその部屋に残して奥の部屋に消えて行った。 

(これが志桜里さんの部屋か・・・いい部屋だな・・・、全然散らかってなんかないよ、私の部屋と比べちゃいけないけど、きちんと整理されてる志桜里さんらしい部屋だな。それに以外とか言ったら怒られちゃうかもしれないけど、すごく女の子っぽい部屋だな。ぬいぐるみとか置いてあるし・・・。)

 などとルミは思いながら、志桜里に言われた通りソファーに座り落ち着かない感じでキョロキョロと部屋の中を見回していると、壁にかかった1枚の写真に目が留まった。

(あれって確か・・・、そうだ! グループ結成当時の写真だ。えーと、真ん中にいるのが志桜里さんで、あぁ、この車か、伝説の全国を回ったっていうバスは。あれ?沙由さんと美里愛さんはどこだ?)

 ルミは沙由と美里愛を捜そうとその写真にもっと近づこうと思い、ソファーから立ち上がろうとしていると、志桜里が奥の部屋から部屋着に着替えて出てきた。

「ルミも着替える? 多分ルミは私と同じくらいの背格好だから、私ので良ければどうぞ。その方がくつろげるでしょ。」

 志桜里はルミの分の着替えも持ってきてくれていた。

(そんな図々ずうずうしく着替えますなんて言えないですよ。滅相めっそうも無い・・・。)

「大丈夫です。私はこのままで大丈夫です。」

 ルミは自分の服の肩のあたりを両手でつまみながら丁重に断った。

「そう、でも遠慮しないでね。じゃあ、もし着替えたくなったらすぐに言ってね。」

 志桜里はそう言うとソファーに腰かけていたルミのすぐ横にくっつく様に座って、ルミの為に持ってきた服を自分の横にそっと置いて、笑顔でルミを見ていたが、ルミはその志桜里の笑顔にぎこちない笑顔で答えていた。

(あーなんかドキドキしちゃう。何なんだろう? なんか話さなきゃ・・・、そうだ!)

「あのー、志桜里さん、あそこにかけてある写真って・・・。」

 ルミは何か話題はと考え、気になっていた写真のことを思い出して、その写真を指差して尋ねるた。

「あー、あれね。グループ結成したての時の集合写真だよ。みんな笑顔がぎこちないでしょ。当時は”笑って”って言われてもなかなか笑えなくて、逆にひきつっちゃたりしてたんだよね。懐かしいね・・・、でもあそこに写ってるメンバーで今残ってるのは私と沙由と美里愛の3人だけになっちゃたけどね。」

 志桜里は頭の中に当時の映像を浮かべて懐かしそうな笑顔を見せていたが、すぐに言い直した。

「あぁ違うね、もう私だけになっちゃたんだね。」

 そう言うと志桜里は写真をジッと見つめていたが、やがて少し寂しそうな顔になっていた。

 ルミはその志桜里の表情の変化を見て、志桜里が何を考えたのかに気付いて、ルミ自身もなにか寂しい気分になってしまい、しばらくの間ふたりとも無言でその写真をぼんやりと眺めていた。

(やばいこんな重たい空気にしちゃ。)

 ルミは思い切って言葉を発した。

「これって真ん中が志桜里さんですよね。沙由さんと美里愛さんは・・・、あれ? どこにいるんですか?」

「あぁ、そうね。沙由と美里愛は結成当時は全然目立たなくてね。こんなこと言っちゃルミに失礼だけど、今のルミと同じ様に後列で踊ってたんだよ。だからこういった集合写真でも後ろの方に写ってるんだよ。」

 志桜里はルミに気を使って端っこという言葉は使わずに言うと、ソファーから立ち上がり写真を壁から外してきてルミの横に再び座り、写真の後ろの端っこのふたりを指差した。

「これが沙由、そしてこっちが美里愛。沙由と美里愛はここから頑張ったんだよ。すごく努力して、苦手なトークやダンスや歌とか全部のことを、誰よりも何十倍も何百倍も努力したからね。私のことなんかあっという間にすぐに追い越して行っちゃたよ。」

 志桜里は目をつぶって想い出に慕っていた。

(そうなんだ、信じられないけど沙由さんも美里愛さんも、私と同じくらい端っこだった時があったんだ。ちょっと想像できないな・・・。)

 ルミもそう思いながら何かを感じるように写真の沙由と美里愛の姿を見ていると、突然志桜里がルミの方を真剣な顔をして見て聞いてきた。

「ルミ、変なこと聞くけどいいかな?」

(あっ来た! この前のふたつ目だ。なんだろう少し怖いけど・・・。)

「はい。大丈夫です。なんですか?」

 ルミは不安を感じながらも平静を装って答えてると、志桜里が何か言いずらそうにしていた。

「あのね・・・、実は・・・。」

「どうしたんですか。志桜里さんらしくないですよ。何でも聞いてください。」

 ルミはおおげさに笑顔を作って言うと、志桜里が声を少し小さくしてルミに向かって言った。

「わかった。わかった。ごめん。じゃああらためて聞くよ、実はルミ、私見ちゃったんだよ。」

 ルミは志桜里が言っていることが何のことなのかさっぱりわからず、キョトンとしてしまい不思議そうな顔をして聞き返していた。

「えっ、いったい何を見たんですか?」


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