第35話 再び会議

 ルミは志桜里の家で、このグループに入って、今までに無い位の楽しい時間と貴重な経験をして家に帰ってきていた。志桜里、沙由、美里愛この3人と一緒に楽しく食事をし、笑いっぱなしでおしゃべりをし、それはまるで女子高の学校帰りに立ち寄ったカフェにいたかのような感覚になって、その楽しい時間を過ごして帰宅していたのであった。

(楽しかったなー。志桜里さんも、沙由さんも、美里愛さんもあんなに楽しい人だったんだ、全然知らなかった。いつも私たちメンバーの前では、何か近寄りがたいオーラ出してたもんな、きっと徹してそう演じてたんだなぁ。そうだとしたら3人ともすごいプロ意識で、あらためて感心しちゃったなあ。)

 ルミはベッドの上で先ほどまでの先輩3人達との貴重な時間を思い出していたが、帰りぎわに沙由から言われた言葉が頭の中から離れないでいた。

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「ルミ、これからはあなたたちの時代なんだから、あなたがリーダーとして頑張らなきゃだめだよ。志桜里のこと、向日葵16のこと頼むわね。」

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 ルミにとってとても重い言葉であった。その言葉を言われたその時から、楽しく過ごせた時間の嬉しさの片隅に、何かとてつもなく重たいものを抱えてしまったような気がしていたのだが、当然そのこともかなり気にはなっていたが、もうひとつ気になっていることがルミにはあり、それも家に持ち帰ってきてしまっていたのだ。

(私、志桜里さんに嘘ついちゃった。でも本当のことは話せないし・・・、オサムさんどうしよう・・・。)



「木村さん見ませんでしたか?」

 西川はバックヤードから売り場に出て、近くにいたパートタイマーの女性に尋ねていた。

「木村さんですか? 木村さんなら店頭近くで品出ししてるのを見ましたよ。それ以降は見てないですね。でも私が見たのは結構前なので、もう他の場所にいるかもしれませんね。」

「そうですか。ありがとうございます。」

 西川は礼を言って店内を進んで行くと、パートタイマーの女性が言ってた場所にオサムはまだいた。

(まったく、いつまで同じ場所で品出ししてるんだよ。そんなに同じ場所に出すものないでしょうに・・・。)

「木村さん!」

 西川が売り場で作業をしていたオサムに声を掛けると、オサムはいつもの様に何かだるそうに振り返ってきた。

「この前のイベントの企画案の件、先ほどメールで本社の方から早くしろって催促が来ちゃって、でもまだ全く何も決まってないから困っちゃいましたよ。」

「あー、そうなんですか。それで店長どうするんですか?」

(どうせ毎回毎回、誰が喜んでいるんだかわからないような同じようなイベントを繰り返しやってるだけなんだから、別に何でもいいんじゃないか。そんなに一生懸命考えたってしょうが無いし・・・。)

 オサムは内心そう思っていた為、気のない返事を西川にしていた。オサムがそう思うのも仕方ないことであって、オサムが言うようにイベントといても店の駐車場奥の空きスペースを使って、近所ののど自慢が集まったカラオケ大会や、季節によっては盆踊り大会や縁日、または定番のハロウィーンやクリスマスとかそういったものを中心に、毎年同じ様な内容でどちらかと言えば季節のイベントが繰り返し行われていただけだった。

「皆さんに送ってもらった案の中からひとつに絞らないといけないんで、今日緊急で会議をして決めたいんですけど、どうですかね?」

「いいんじゃないですか。決めないと仕方ないじゃないですか。時間もないみたいですし・・・。」

 オサムはここでも気の無い返事をしていた。

「そうですよね。それでは申し訳ないんですけど、この前出席していただいたメンバーみんなに伝えて頂けませんか? 勿論、今日お休みの方は同じ売り場の別の方でいいんで。」

 西川はオサムにお願いすると、オサムは少し面倒くさそうに答えて聞き返えした。

「はいわかりました。時間はどうしますか?」

「皆さん忙しいと思いますし、そうですね、夕方のピークタイム前には終わらせたいと思いますので、時間は今から30分後の15時でどうでしょう?」

 西川は自分の腕時計を見て時間を確認してオサムに尋ねると、オサムは黙ってうなずいて返事をし、各売り場に伝える為にここでも面倒くさそうな感じでその場を離れて行った。



「皆さん、お忙しいのに急に集まっていただいて申し訳ないです。でも今日決めて本社に送らないといけなくなってしまったので、よろしくお願いします。えーと、この前いくつか案送っていただいてますから・・・。」

 西川は手に持った資料に目を向けると、会議の出席者全員も同じように配布されていた資料を手にしていた。

「どうでしょう。これって言うのありますか? 当たり前ですけど自分の案でもいいんですよ。」

 西川が全員に向かって尋ねていたが、出席していた全員が西川と目を合わせ無いように、資料をめくりながらいかにも資料を確認中ですと言った感じいて、それはまるで学校の授業でよくみられるようなパターンで、結局誰も発言しないのを西川は確認するとがっかりした表情を浮かべていた。





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