第26話 再びの訪問

「あぁ、そうでした神宮ルミさんでしたね。じゃあその神宮ルミさんに来てもらうというイベントってことですかね?」

 西川は真面目に聞き返していた。

「木村さん榊さんが言っていたようにその神宮ルミさんはそんなに有名な方ではないのなら、イベントに来てもらうことも可能ですかね。」

 オサムが答えないので西川が続けて言うと、榊がまた口をはさんできた。

「店長何言ってるんですか! 神宮ルミ自身は多分誰も知らないくらいのメンバーですけど、グループは結構有名ですよ、テレビとかにもよく出てますし、ここにいる皆さんも、もしかしたら知ってるんじゃないですか?」


(こいつ何言ってるんだ。ルミちゃんのことそんな風に言うなんてひどすぎる。絶対に許せない。)

 西川の方を見ていたオサムは、すぐに榊の方を向き睨みつけていたが、そのオサムの様子に気づいた西川が気づいて言っていた。

「どうしたの木村さん? そんな顔して。榊さんの補足がなかったら木村さんの言ったことは全然わからなかったんだから、感謝しなくちゃ。」

(感謝? 俺は別に企画の事言ったわけじゃないし、それにあんなこと言われて感謝なんかできるはずないじゃないか。ルミちゃんは・・・、ルミちゃんは・・・、)

 こらえきれなくなったオサムは思わず立ち上がって声に出してしまった。

「ルミちゃんはそんなメンバーじゃありません。すごく魅力的で、ダンスがうまくて・・・。」

 その怒りを込めた言葉に、西川は何かを思い出したようだ。

「ごめん、ごめん木村さん落ち着いて、別にその、えーと誰だでしたっけ・・・、そうそう神宮さんのことをどうのこうの言ってるわけじゃないですから。それに私、今思い出しましたよ。神宮さんってこの前木村さんが私に画像で見せてくれた子ですよね。」

 西川はオサムを抑えるように言い座るように指示すると、オサムは力なく椅子に腰を下ろした。

(なんだよ急に・・・。怖いなー・・・。)

 西川はオサムが少し落ち着いたのを確認すると、憮然とした表情をして座っていたオサムに問いかけた。

「でもアイドルにお店に来てもらって、何かイベント的なことができたら面白いかもしれないですね。お客様も喜んでくれるかもしれませんしね。ただ来てくれるかどうかが一番の問題ですがね。木村さん、その子のいるグループって何て言うの。」


「”向日葵ひまわり16(シックスティーン)”です。」

 オサムはぶっきらぼうに答えていた。

「向日葵16なら私でも知ってますよ、結構テレビとか出てますよね。確か藤井沙由と幕張美里愛がいるグループですよね。結構メジャーなグループじゃないですか。でもそうなるとちょっと難しいかな・・・? まあでも企画案のひとつとしておきましょう。それでは・・・。」

 西川は時計を見てうなずいた後、出席者の方を見て話し始めた。

「もう時間的に今日決めるの難しそうなので、次の会議で決定しましょう。日程はまた追って連絡しますが、それまでに各売り場で考えた企画をそれぞれ具体的にまとめて私のところにメールで送っておいてください。当然木村さんは向日葵16の企画でお願いしますね。では今日はこれで解散です。皆さん売り場に戻りましょう。」

 西川が締めて会議は終了した。



 オサムは会議中何度も何度もルミのことをバカにされたような気になっていて、元気がない姿で売り場で品出しをしていた。

「こんにちは。」

「いらっしゃいませ。」

 オサムは背後から声を掛けられ反射的にそう言って振り返ると、変装もしてないそのままのルミが笑顔で立っていた。

 オサムは驚き2,3歩後ずさりしながら困惑の表情を浮かべていたが、この前ルミに会ってからはさすがに耐性?が少しはついていたのか、慌てながらも声を掛けらえるようになっていたようだ。

「ルミちゃん・・・。どうしたの? こんなところにいたらまずいよ、ばれちゃうよ。」

 オサムはルミのことを心配して言うと、ルミはいつもの笑顔のままオサムのことを見ていた。

「この前も言ったでしょ。大丈夫ですよ。誰も気づかないですよ、っていうか誰も私のことなんか知らないですから。」

「そんなことないよ・・・。」

(「神宮ルミはたぶん誰も知らないぐらいのメンバーですから」「えーと誰でしたっけ?」)

 オサムは、先ほどの会議での榊や西川の発言を思い出して、悔しさが再び湧いてきてしまい、何故かルミに向かって大きな声を出してしまった。

「そんなことないよ。絶対にそんなことない!」

「えっ。」

 ルミは驚いてしまいその後の言葉を出せないで、ただオサムの方を見ていたが、オサムの声が店内に響くほど大きかったため、それを聞きつけた西川がこの前と同様に駆けつけて来た。

「お客様、どうされましたか?」

 西川はルミの顔を見て驚きながらも少し安心した表情に見せていた。

「あー、いらっしゃいませ、お客様でしたか・・・、先日は有り難うございました。今日はいかがなさいましたか?」

 西川がそう言いながらふたりの間に入っていくと、ルミは取りつくろうように笑顔を見せ、元気よく挨拶した。

「店長さん、こんにちは! すみません、なんかオサム・・・。」

 ルミはこの前ファミレスで木村のことをオサムと呼ぶと自ら言っていたので、西川の前でもつい口を滑らしそうになったが、慌てて言いなおした。

「き、木村さんのことなんか困らせちゃったみたいで、ごめんなさい。」

 ルミはオサムをかばうように西川に頭を下げていた。

「そうでしたか。それなら少しおふたりで話をされてはいかがですか? そうだ木村さん、もう休憩の時間ですよね。今なら商品納入所には誰もいないと思いますし、あそこには確かベンチもありますしね。では私はこれで失礼します。」

 西川はルミの言葉とその態度で何かを感じたようで、そう言ってふたりのもとを去って行ってしまった。

 オサムはルミと西川の会話を聞きながら落ち着きを取り戻していたようだ。

「ルミちゃんごめんなさい。せっかく来てもらったのに。もし時間があれば、いやルミちゃんが嫌じゃなければ、少しお話ししますか?」

 ルミの方を見て声を掛けると、オサムの言葉にルミは笑顔でうなずていた。

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