第25話 イベント企画
「いらっしゃいませ。」
今日もオサムはいつもと変わらない感じで、何かボーッとした様子で職場であるスーパーあずまやの売り場で仕事をしているというよりただなんとなく立っていた。
(この前のルミちゃんめちゃくちゃ可愛かったな。最初はテンパっちゃって何も話せなかったけど、後半は少しだけだったけど話もできたし・・・、握手会の何倍話せたんだろう・・・、いったい何回分だ? )
大体オサムは握手会の時は毎回同じように、勝手に自分で決めた台詞だけを言って、すぐにルミの元を去って行っていたので、当然話らしい話しなどしたことがなかったはずなのに、ルミと少し話せたことでそんなことを考えていたが、いまだにルミが幼馴染のルミだとは信じられない様子でいてた。
(でもルミちゃんがあのルミだったなんて想像もつかなかったし・・・。それに”オ・サ・ム・さ・ん”・・・なんて言われたらもう・・・、いくらなんでもオサムさんってのはちょっとねえ・・・。恥ずかしいよなー・・・。)
その後何度も、この前ルミの言った言葉を思い出しながら、ときおり売り場で顔をにやつかせながら何もしないでただ時間を費やしていた。
「木村さん! 店長がバックヤードで探してたよ。」
そんなオサムを売り場のパートタイマーの女性が見つけて声を掛けてきた。
「えっ、なんだろう? 俺何かしたのかな? でも心当たりないけど。」
心当たりが無いなどと言っていたがオサムだが、ただ呼ばれただけでそう考えること自体おかしな話であって、今もそうであったがオサムの日々の勤務態度は店長から何か言われても当然といった感じであったにもかかわらず、何故かそんなことは思わず、ただ不思議そうな顔をして首をかしげていた。
「会議じゃないの? 朝礼で店長言ってたじゃない、それにさっきもバックヤードで会議の時間とか放送で言ってたよ。」
そのパートタイマーの女性は続けて言うと、ようやくオサムも思い出したようだ。
「あっ、そうだ今日会議だった。やばい、やばい、忘れてた。ありがとうございます。」
オサムはパートタイマーの女性に礼を言って頭を軽く下げると、すぐに慌てて売り場から駆け出して行ってしまった。
「えー、売り上げに関する対策は以上で終わりますが、最後はお店で再来月に行うイベントの企画を考えたいと思いますので、すでにいくつか提出されてますがまだ数が少ないので、今日新たなものがあれば皆さんどんどんアイデア出してくださいね。あまり時間がないので決まり次第本社の方へ送りますから。」
店長の西川が仕切って、今日の会議は最後の議題に突入していった。会議と言うと何か大げさなものに聞こえるが、あずまやの正社員は店長の西川とオサムともう1名の計3人のみで、この会議の残りの出席者は各売り場から持ち回りで今回順番のまわってきていたパートタイマーが出席していた。その人たちがいることで何とか会議らしい人数を確保していたのであったが、この規模のスパーではごく当たり前のことのようだ。
最後の議題のイベントの件は、事前に店内にイベント募集の告知をしていたのだが、西川が言ったように今日までにほんの数件しかあがってきておらず、その出された数件もありきたりなものが多く、西川自身どれにするか決めかねていた為、今回の会議に出席するにあたって前もって大枠の企画案を考えてから、会議に出席するように伝達してあったようでだ。西川は各出席者に発言するよう挙手を求めたがお決まりのごとく誰からも手が上がらずにいた。
「それじゃ・・・、木村さん! 企画案お願いしますね。」
西川はいきなり発言するようにオサムを指名した。
オサムはこの前ルミに会ってからはほとんど仕事中以外は(実際は仕事中も)、ルミの事ばかり考えてしまっていて、頭の中はルミのことでいっぱいにで、それ以外のことなど何も入り込む余地も無く、そんな企画案などは当然考えることをしてはいなかった。それだけではなくオサムは今の会議中もルミのことを何度も何度も思い浮かべてはニヤニヤしていて、ほとんど会議の内容すら聞いていなかったので、いきなり指名されてもなんのことで指名されたかもわからず当然何も発言できずに下を向いてしまった。
「木村さんどうしたの? みんなも企画案考えてきてくれてるんですから、何も言わないのはどうかな。なんでもいいから、言ってみてくださいよ。」
西川に言われ、オサムの頭の中はルミのことと今の会議のことがごちゃごちゃになり思わずルミの名前を言ってしまっていた。
「ルミちゃん。」
「えっ、木村さんなんですか?」
西川にはオサムの言った言葉がはっきり聞き取れなかったようで、オサムが企画の何かを発言したと思い、真面目に聞き返していると、同じく会議に出席していたオサムの同僚で残りひとりの正社員である
「店長! 木村さんが言ったのは、多分アイドルの神宮ルミのことですよ。でもあまり知られてないメンバーですよ。僕は木村さんが好きみたいなんで前に教えてくれたから、名前位は知ってましたけど。」
「アイドルですか。榊さんが言うように、その神宮・・・、ええとごめんなさい、何さんでしたっけ?」
ルミの名前を覚えていない西川がオサムに聞いていると、そう聞かれたオサムは顔を上げ西川の方を見ると、怒った感じで今度ははっきり答えていた。
「神宮ルミです!」
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