第22話 それぞれの思い

「どうしたのそんなにあらたまって、私もさっき言ったけど話あるんだよね、でもなんか話しづらくなっちゃったな。もうそんなのやめてよ美里愛っぽくないじゃない。」

 沙由はわざと少しおどける様に言うと、沙由も美里愛のすぐ前に正座して、そっと手を握って持ってきたジュースを渡していた。

「ありがとう。」

 美里愛は一言沙由に礼を言うとふたりの間にしばらく沈黙が続いた。

「プシュ。」

 美里愛はペットボトルのふたをひねってジュースをひと口飲むと意を決したように沙由の顔を見て、言葉を詰まらせないように一気にまくしたてるように言っていた。

「私・・・、私グループを卒業しようと思うんだけど、志桜里にはもう言ってあるんだ。」

 沙由はその美里愛の言葉を聞き、一瞬驚いた表情を見せた後、そのまま下を向いてしまっていたのだが、その沙由の姿を見て今度は美里愛の方が沙由を気遣い声を掛けた。

「ごめん、急な話で・・・、でも私結構前から考えて、悩んでたんだよ。決して急にそう思ったわけじゃなくて・・・。私は今のままでいいのかなとか、グループの為にも私が新しい環境で、もっと頑張らなくちゃいけないんじゃないかなとか・・・。」

 必死に沙由に向けて話を続けたが、それを聞いても沙由は下をむいたまま黙ってうつむいたままでいた。

「ねえ、沙由! 私の話、聞いてくれてる! ねえ!」

 美里愛が少し大きな声を出すと、驚きのあまり言葉を発することが出来ないように見えていた沙由が、勢いよく顔を上げ今度は沙由が一気に話し始めた。

「違うよ! 違うのよ! 美里愛の話はしっかり聞いてたし、美里愛の卒業は心からおめでとう、頑張ってねって言えるのよ。ただ私が驚いてるのは、今日私が美里愛に話すつもりだったことも、私の卒業の話だったんだよ。だから美里愛の話聞いて、私すごく驚いちゃって、何て言っていいのかわからなくなっちゃって・・・。」


「えっ、何、沙由も・・・・。」

 美里愛は驚いて絶句してしまった。

「そう、私もグループから卒業しようと思ってるんだ。でもさっき美里愛が言ったのと同じように、私も決して急に思ったわけじゃないんだよ。いっぱい考えてようやく出した結論なんだ。」

 沙由は美里愛の顔を真剣な眼差しで見つめて、ゆっくり話しだした。

「そうなんだ・・・、私たち今日、同じ話しようって思ってたんだ。まさか同じこと考えてたなんて・・・。いくらグループ結成時から今までいっしょにやってきたからって、何もそんなことまで・・・。」

 美里愛はそう言うと急に全身の力が抜けたような感じになってしまっていた。

「そうだね、なんか不思議だね。」

 沙由もボソッとひと言だけつぶやいていた。

 ふたりは一大決心を打ち明けたことで体から力が抜けてしまったのと、やはり少なからずお互いの話を聞いて動揺があったようで、しばらくの間無言で見つめ合ったままでいたが、少し時間が経ち落ち着いてくると、美里愛が口を開き聞いていた。

「ねえ沙由、志桜里にはもう話したの?」

「うん、志桜里にはこの前伝えたよ。」

 沙由はうなずきながら静かに答えた。その沙由の言葉を聞いて美里愛は少し考えてから、表情を曇らせていると、沙由も気づいたようだ。

「そうか、志桜里はふたりから同じことを、ほぼ同時期に聞かされたんだな。私が言うのも変だけど、志桜里のことが心配だね。」

「そうだよね、結成時からのメンバーはもう私たち3人だけになっちゃたんだもんね。その残ってた3人のうち2人から、卒業の話をいきなり聞かされたんだもんね。グループに残るのはこれで志桜里ひとりになっちゃうのに、志桜里の気持ちもまったく考えずに私は・・・。」

 ふたりは志桜里のことを心配するように言葉を交わした。

「でも沙由はいつ志桜里に話したの?」

「私はこの前の握手会のライブ後かな。」

「嘘でしょ! えー、私もだよ。私もあの握手会のライブ終わったあとだよ、」

 美里愛は驚いた顔をして、少し声を大きくしてしまっていると、

「うそでしょ。ほぼ同時期じゃなくて、まさか同じ日だったなんて、これじゃますます志桜里のことが心配だよ。」

 沙由は志桜里を心配してうつむいてしまった。

「このままじゃだめだ。ねえ沙由、あらためてふたりでもういち度志桜里に話をしに行こうよ。そして3人でもっと色々話そうよ。」

 美里愛がそっと沙由の肩に手を置いた。

「うん、ちゃんと色々話そう。3人で・・・。そうしなきゃだめだよね。」

 沙由は今にもこぼれ落ちそうなぐらい目にいっぱいに涙を浮かべながら答えていた。

 今ふたりの頭の中には、グループ結成時からの多くの想い出が次々と浮かびあがってきていて、ふたりはその想い出をひとつひとつかみしめるように話していると、美里愛の目からも大粒の涙がこぼれ落ちてきていていて、しばらく話した後ふたりは寄り添うようにしながら無言でいた。

「そう言えば大森さんにはまだ言ってなかったな。」

 沙由がポツリとつぶやいた。

「私も言ってないけど、あの人は多分わかってると思うよ。大森さんってそういう人だよ。」

 美里愛もつぶやくように言と、沙由も美里愛のその言葉を聞いて、静かにうなずいていた。

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