第20話 思わずお買い物

 ルミは志桜里からの連絡が来る迄、レッスン場近くの駅ビルで時間をつぶそうと思っていたが、レッスン場の最寄り駅は、ファンに知られていた為その人達と遭遇してしまう可能性があると思った志桜里が、タクシーを手配してくれて少し離れた駅の駅ビルにルミはいたのであった。

(志桜里さん気を利かせてくれたんだと思うんだけど、この前もそうだったけど、私に気付く人はファンの方でもそううそういないのになー。)

 この前オサムと会うために使った鉄道の駅でのことをルミは思い出していた。

(でも今日は志桜里さんもいるから、志桜里さんが変装なしの素顔でこの前の私みたいにしてたら、さすがにまずいよなー。)

 とも考え今回のこの志桜里の気遣いは正解なのだと最終的には思っていた。そんなこともあって一応今回はルミもサングラスをしてキャップをかぶって駅ビルの店を散策していた。

(あっ、この服可愛いな。)

 ルミは若い女の子が好みそうな服が多数置置かれている店舗の前で足を止めた。

「いらっしゃいませ。どうぞお試しください。」

 ルミと同世代位の女性の店員に声を掛けられ、ルミは一瞬驚いてしまったが、その後は軽く会釈して、店の中に入りその服を手にしていた。

(まだ志桜里さん来ないから、ここで時間つぶそうかな。)

「ちょっと試着してみてもいいですか?」

 ルミが尋ねると、店員が姿見の前に案内してくれていた。ルミはその服を手にして鏡に映った自分の姿を見ていたが、サングラスをしていた為、色合いがよくわからなかったので、サングラスを外してもういち度鏡の中の自分を見た。

(どうかな? 今度の握手会に着て行こうかな? オサムさん気に入ってくれるかな・・・?)

「どうですかね?」

 店員にも聞いてみたのだが、何故か返事が聞こえてこなかったので、店員の方に顔を向けてみると、その店員は何も言わずに驚いた表情を浮かべていた。ルミは不思議そうな顔をして、そのまま店員の方を見ていると突然聞かれた。

「神宮ルミさんですよね?」

 サングラスを外してしまっていたことにルミは気付いて、慌てた様子で不自然にサングラスをかけなおした。

「違います。」

 ただこの行動は誰が見ても違和感覚える動きであった為、完全に素性はばれてしまっていたようだであったが、ルミが否定したことで、店員はそれ以上そのことは聞いてこないで、少し顔を引きつらせて謝罪していた。

「あっ、ごめんなさい。人違いでしたね。すみませんでした。・・・とてもお似合いですよ。組み合わせによっては、カジュアルにもちょっとしたお出掛けにでも着まわせますから。」

 店員としての仕事に戻って笑顔で答えると、ルミはその言葉を聞いて、また鏡の中の自分を見ながら、この前オサムと会っていたファミレスのことを思い出していた。

(お出掛けか・・・。またどこかで会えるのかな・・・?)

 しばらくそのまま鏡を見ていたというか、ボーッとしていると、店員が反応の無いルミに向かって聞いてきた。 

「いかがですか?」

「あっ、すごくいいですね! これ頂きます。あと・・・。」



「ありがとうございました。」

 店員に見送られてルミは大きな袋を手にその店を後にしながら店を出てきた。

(なんか店員さんい悪いことしちゃたかな? せっかく気づいてくれたのに。ちゃんと名乗ってもよかったのに、何であんな態度しちゃったんだろう?)

 ルミは店員に嘘をついたことに、少し罪悪感を覚えてしまい、あの後店員のおすすめのコーディネートの服を数点購入していた為、両手に大きな袋を持っていたのであった。その後もルミはアクセサリーや雑貨の店をいくつか見てまわっていると、志桜里からすでに打合せは終わっていて、今タクシーで向かっているとういうメッセージが届いてきた。ルミは急いで待ち合わせの場所に向かった。



「ルミお待たせ、待ったよね。ごめんね!」

 志桜里は両手を顔の前で合わせながら、ルミのもとに駆け寄ってきた。

「いいえ、そこの駅ビルで色々見てましたからあっという間でしたよ。」

 ルミは志桜里を心配させまいとそう言っていたのだが、実際は1時間以上その駅ビルで時間をつぶしていて、志桜里もルミが手にしている大きな袋に気付いた。

「なんかいっぱい買い物させちゃったみたいだね。ごめんね。次のライブの件で色々もめてるみたいで時間かかっちゃって、本当にごめん。」

 志桜里は頭を下げて詫びていた。

「でもそんなに何買ったの?」

 ルミはそう言われ、手にした大きな袋を見て、少しはにかみながら恥ずかしそう答えた。

「今度の握手会に着ようと思って、服いっぱい買っちゃいました。」

「そうなんだ。でもやっぱり私が遅かったからそんな買い物させちゃったんだね。じゃあ今日は私が夕飯おごるよ。」

 志桜里は言うと、キョロキョロとしてまわりを気にしながら、向かいのビルの飲食店を指差した。

「よし、あそこに行こう。」

 そして足早に進んで行ってしまった。

「あっ ちょっと待ってください。そんなこと無いんです。私が欲しかったから買っただけなんです。」

 ルミはそう言いながら志桜里を追いかけていくと、志桜里は足を止めてルミの方を振り返っていたのですぐに追いついていた。

「ただ服買いたかったから、それだけなんです。あと、おごっていただくなんて申し訳ないんで、割り勘でお願いします。」

 ルミが言うと志桜里はニヤリと笑った。

「そう、でもあそこのお店結構高いよ。ルミ大丈夫?」

「えっ」

 志桜里が悪戯っぽい顔をして言うと、ルミは思わず声を出してしまった。

(あー、さっきお金使っちゃったから、もうそんなにお財布に入って無いなー、どうしよう。)

 いかにも不安そうな顔になって、ルミはバッグから財布を取り出そうとしていると、それを見て志桜里は笑いながら言ってきた。

「ははは、冗談だよ、冗談、ルミはすぐに顔に出るなー。でも今日は私におごらせて。」

 志桜里は歩み寄り笑顔でルミの手を握ると、その手を力強く引っ張りながら足を早めていた。

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