第16話 再会 夢の続き

 オサムは沢田から逃げるように必死で走って、握手会のあった会場から離れて行くと、疲れてしまい立ち止まっていたが、実際にはオサムは少ししか走っていないのに、相当な距離を走ったかのように息を切らして膝に手を置いて休んでいた。

 そしてポケットの中から先ほどの紙を取り出し、慌てた様子で再び広げると、目を大きく開いて書かれていた文字を読んでた。

 それは3部の握手会の時にルミから渡されたというより、無理矢理つかまされたメモであった。

(今日ライブが終わってから、助けてくれたあの場所で待ってます。)

(???、助けた場所? どういうことだ?)


「えー? 何なんだこれ?」

 オサムは大きな声を出してから、腕組みをしながらしばらく黙って考え込んでしまった。


「そうだこれは俺の妄想だ。ははは、そうに決まってる。こんなドラマみたいなことあるはずない。うん! そうだ、ははは、妄想なんだ・・・。」

 何か自分に言い聞かせるように再び大きな独り言を言うと何度も何度も大きくうなずいていたのだが、それでもしばらくするとオサムは、再び腕組みをして再び何か考え始めていた。

(妄想・・・。じゃあこの紙は何なんだ? 俺が書いたのか・・・? さすがにそんなはずは・・・。うーん?!)

 オサムはかなりの時間その場所で考えていた様なのだが、しばらくすると結局何も答えが見つからないままどこへ行くのかも決められず何となく歩き始めていた。それは家に帰るにせよ、その紙に書かれた場所に行くにせよ、どちらにしてもまずは、駅に行かないわけにはいかないので、ただそれだけで駅に向かっていたようだった。

 オサムはその後も何度も立ち止まっては考え事をして、ようやく駅までたどり着いていた為、ライブ会場から駅まで結局かなりの時間をかけて到着したので、駅前には人影はほとんどなかった。オサムは改札を抜け駅の構内に入ると、またそこでも足を止め考えていた。


「でも・・・。そんなはずはない・・・。でも・・・。」

 そのくだりをオサムは何度も何度も繰り返して、ここでも結構な時間をかけ落ち着かない様子でうろうろと行ったり来たり歩き回っていたが、しばらくしてようやく何かの結論を出したようで、ホームへ向かって進んで行った。

 オサムはホームに着きベンチに座って電車を待つ間、そのメモを再び見つめていた。


「間もなく電車がまいります・・・。」

 電車到着を知らせるアナウンスがホームに流れ、オサムはメモをジーンズのポケットにしまい立ち上がった。乗車位置を示す白線で囲われている乗車待ちの場所へ進んで行き、その先頭で電車の到着を待った。



 ルミは不安な顔をしながら公園の街灯の下に小さくなって座り込んでいた。

 この場所に来てからかれこれ1時間以上の時間が過ぎていて、ルミはしゃがんだままブツブツと独り言を言っていた。


「またからまれたりしたらやだなー。何かやな予感がするんだよなー・・・。」

 この前のように輩に絡まれない為に、周りから見られない様にさらに身を縮めていると、駅の方からゆっくりとした足取りでひとつの人影がルミに向かって近づいて来た。

(やばい。またか。)

 ルミはその人影を見てすぐに逃げようとしたが、前回の恐怖がルミの脳裏をよぎってしまい、すぐに体を動かすことが出来ないで、今いる場所に座ったままの状態で小刻みに震えていた。それでも懸命に体を動かそうとしていたのだが、その人影もルミの様子をうかがっているのか、何故かそれ以上ルミの方に近づいてこなかったので、ルミは何とか這いつくばるようなぎこちない動きのままその場を立ち去ろうとしていた。


「あのー。」

 するとかすかな声がルミの耳に聞こえて、おびえながらも振り返ると、その人影も動きだしていてもうルミの近くまで来ていた。

(キャー!)

 声に出せない悲鳴がルミの心の中に響いたが、その人影は何故か再びその場所に立ち止まっていて、それ以上ルミに近づいてこようとはしていないようだった。


「ルミちゃん?」

 その人影は何かおどおどした声を発すると、ルミの座っていた街灯の下に向かってゆっくりと進んで来た。ルミは怯えながら再び動けないでいたのだが、その人影は街灯の下まで来てその光に照らされると、ルミの顔は怯えた表情から驚きの表情に変わって、やがて安堵の表情に変わっていったのだ。それは光に照らされたオサムの顔がルミの目に入ってきていたからであった。


「遅いよ。」

 ルミは恐怖から解放され、安心してその場にへたり込みそうになりながらも、笑顔になり小さな声でつぶやいていた。そして今度はオサムに聞こえるように、ルミは少し声を張って強い口調で言っていた。


「もう! 遅いです!」

 この大きな声にオサムは驚いてしまい、その場にとどまったままオドオドして口ごもっていた。


「ご、ごめんなさい。こんなこと・・・、嘘かと・・・、からかわれてるのかと・・・。」

「えっ! 嘘だと思ったんですか? ひどい、ひどすぎる、こんなに待たせて、そんなこと言うなんて!」

 今度は本当にルミは怒ってしまい、すねて後ろを向いてしまった。それを見てオサムはどうしていいかわからずに、困った顔になりながら、何か訳がわかからない言葉発してしまっていた。


「嘘です。そ、そんなことないです。う、嘘じゃないです。」

 すると怒って後ろを向いていたルミも、その訳のわからないオサムの言葉を聞いて吹きだしてしまい、ゆっくり振り返り笑いながらも問い詰めるように聞いていた。


「嘘なの? 嘘じゃないの? どっちなんですか?」

 ルミの顔をまともに見てオサムは握手会の時に見せるいつものおどおどした表情になってしまい動けずにいた。


「だから、嘘なの? 嘘じゃないの? どっちなんですか?」

 オサムのその反応を見てルミはもういち度聞き返しながら、オサムの右手を両手で包み込むようにそっと握ると、いつもの握手会ではこの状況ではパニックになってしまっていたオサムであったが、ルミの優しい目を見て何故かこの時だけは逆に少し落ち着きを取り戻していた。するとオサムは、急に何かを思い出したかのように、無理な体勢で左手をジーンズの右ポケットに突っ込んで、何かを捜すようにしていたのだが、変な体勢で探している為、なかなか思うように出来ないで必死の形相になって、ようやく何かを掴んで取り出した。


「これ、嘘じゃないですね。」

 オサムの手にはしわくちゃになっていた紙切れがあり、オサムはやっと取り出したその紙きれをルミに向かって見せると、ルミは笑顔で大きくうなずいていた。


「はい!」

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