第17話 ルミちゃんって?

 ルミとオサムは公園で少しの間話をしてから、と言ってもオサムはほぼうなずくだけだったようだが、近くにあったそこそこ客でにぎわっていたファーミリーレストランに移動して来ていた。オサムはこの前ルミが店に来た時や握手会の時と同様に、席に着いてからもルミの顔をまともに見ることが出来ないでいて、これも当然のことだが、ほとんどまともにしゃべることも出来ないでただ下を向いて座っていた。

 ルミもオサムに合わせるようにしてか、しばらく何も言葉を発しないでいたが、しびれを切らしたようにして少し怒った様な感じで聞いてきた。

「木村さん! この前お店に行った時もそうでしたけど、今日も全然話してくれませんね。それに目も全く合わせてくれないで下ばかり見てるし・・・。」

 オサムは心の中で思っていた。

(そんなこと言ったて、無理でしょ! こんな状況で普通にしゃべれるわけないじゃないか、今ここに、俺の目の前に”神宮ルミ”がいるんだから・・・、そんなの無理に決まってるでしょ。あぁなんだか具合悪くなりそうだ・・・。)

 そんなことを思いながら、ずっと下を向いて自分の足元を見て顔色を悪くしていた。

「迷惑でしたか? なんか顔色も良く無い様な気がしますけど、木村さんを困らせちゃったみたいですね。私はただこの前ちゃんとお礼できなかったから、ちゃんとお礼がしたかったのと、それと・・・。」

 ルミはオサムのことを心配した言葉を口に出しながら、少し何か含みを持たせた言い方をしていたのだが、オサムはそんなことに気付くはずも無く、いまだに下を向いたままでいたものだから、ルミの方も何だかその先は口ごもってしまって、少し顔を赤らめて恥ずかしそうな顔をしていた。

 オサムにはルミの赤くなっている顔は見えていないので、ルミが恥ずかしそうに口ごもってしまったのが、自分のせいでルミが悲しんでると勘違いしてしまったようで動揺していた。

(そんなこと無い、そんなこと無いんだよ。ルミちゃんは悪くない。ルミちゃんを悲しませちゃいけない。俺がしっかりしなくちゃ!)

「そんなことないです。困ってなんかいないし、ただビックリしているだけなんです。今僕の目の前にルミちゃんがいることを、それだけです。」

 オサムは急に勢いよく顔を上げると、一気に息継ぎもせずに思ったことを口に出すと、力こぶを作るポーズをしてみせて元気なことをルミにアピールしていた。

「僕はルミちゃんのことが ずっ・・・、ずっと・・・、す・・・、すき・・・、好きなんで。」

 オサムは息を大きく吸ってからさらに、何かうまく言葉に出来ずに言うと、言葉を間違えていたことに気付いて顔を真っ赤にしてすぐに言い直した。

「いや違う、ファンなんで、そうファンなんです。だから憧れてたルミちゃんが、今こんな見ず知らずの僕といっしょに、いるなんて信じられないことなんで・・・、自分でもよくわからなくなっちゃてるんですけど、ありがとうです。」

 再びオサムは言葉をうまくつなげられずに一気に言葉を発すると、最後に何故かルミに向かって感謝の言葉を言っていた。

 ルミはオサムが言った内容はよくわからない部分もあったのだが、とりあえずオサムが自分の方を見て話をしてくれたことを嬉しく感じていて、笑顔を取り戻していたのだが、それは顔を見て話をするなんてことは、誰もが日常的に行っていることなのであったが、ルミに対するオサムはその普通のことがなかなかできないでいたので、普通に話をしてくれたことをルミは単純に嬉しく感じていたのであろう。

 でもルミはその後、意外な言葉を口に出してきた。

「そんなありがとうなんて、この前も言いましたけどお礼を言うのは私の方なんですよ。それに私は木村さんのことを結構前から知ってますよ。私のこと覚えてませんか? 私達見ず知らずじゃないですよ。」

 今度はルミが恥ずかしそうにしてオサムから視線を外していた。


(前から知っている? なんで? どういうことなんだろう・・・?)

 オサムはルミが何でそんなことを言ったのかまったく理解できず、頭の中がパニックになってしまい泣き出しそうな変な顔になってしまっていた。

「本当に覚えて無いんですか? じゃあ・・・これでも思い出さないですか?」

 ルミは言うと一拍置いてからオサムの顔をまっすぐに見た。

「お兄ちゃん!」


(えっ、”お兄ちゃん”? どういうこと? 俺に妹なんていないし・・・、なんだ? でもなんか懐かしい感じがする・・・。でも・・・。)

 オサムはそのルミの言葉を聞いて何かを感じてはいたがそれが何なのかまではわからないで困った顔をしていた。

「どう? 思い出した?」

 ルミはオサムの表情を見て少し前のめりになって聞いてきたのだが、オサムは再び下を向いてしまっていた。

「いや、全然わからないです・・・。」

「本当に思い出せないんですか? もう! ルミって名前も何か感じないですか?」何も思い出さないオサムに少しいらだちながらもルミはオサムから視線をそらさずにいると、オサムもそのルミの視線を気にしながら一生懸命頭をフル回転させて考えていた。

(ルミ? ルミってルミちゃんだよな。そんなの当たり前か・・・。ルミちゃん以外にルミって・・・。ルミ? ルミ? ルミ?・・・、うんっ?。)

   ・

   ・

   ・

(「もうルミは足遅いな。早く早く。」

 「もう待って・・・。お兄ちゃん・・・。」)

   ・

   ・

   ・

(あれ? これって・・・、えっ、ルミって・・・。そんなはずは・・・。)

 オサムは顔を上げ一瞬表情を変えるとその表情の変化をルミは気付いた。

「思い出しましたね!」

「ルミちゃんて、もしかしてあの”ルミ”なの?」

 オサムは遠い記憶の中の出来事を思い出していて恐る恐るルミに聞いていた。

「そう”あのルミ”よ、お兄ちゃん! 小さい頃いっしょに遊んだルミだよ。やっと思い出してくれた・・・、私小さい頃お兄ちゃんに憧れてたんだから。」


(えーっ、子供の頃近所にいた”ルミ”が”ルミちゃん”だったなんて。信じられない。あんなに小さかったのにこんなに大きくなって・・・、それにこんなに可愛くなっていたなんて・・・。)

 時が立ち子供が大きくなるなんて当たり前なのことなのだが、オサムはあまりの驚きで言葉が出てこないで、ただ口をポカンと開けたまま動けないでいた。

「やっと思い出してくれました。もう思い出すの遅いですよ。まー、でもしょうがないかな、もう何年もたつし・・・、それに私引っ越しちゃっいましたし・・・。」

 ルミは頬を膨らませていたが、何とも言えない優しい眼差しでオサムのことを見つめていた。

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