第4話 突然の訪問者
西川をうなだらせていた前田さんというのは女子高校生アルバイトの
「そうでしたか・・・。前田さんじゃしょうがないですね。ふうー。」
西川がさらに深くため息をついて諦めた感じを強めていると、オサムは何かを思いついた様に、さっきまで動画を見ていたスマホを再び取り出した。
「店長、こんな感じが好きなんですね?」
ニヤニヤしながらスマホの画面を西川に見せると、そこには制服を模した衣装の神宮ルミの姿があった。
西川はその画像をチラッと見ると、顔を少し赤らめて、すぐにスマホの画面から視線をそらして言った。
「別に特に制服の女子高校生が好きってわけじゃないですけど・・・。でもこの子可愛いですね。ちょっとよく見せてくださいよ。」
一転して西川はオサムの方に身を乗り出しスマホの画面をのぞき込むようにしてくると、オサムは自分で見せたにもかかわらず慌ててスマホをしまいこんでいた。
「その子は誰なんですか? まさか木村さんの彼女じゃないですよね。」
今度はオサムが顔が赤くしながら言い返した。
「違いますよ。違うにきまってるじゃないですか。からかわないで下さいよ!」
(そうなんだよ知らない人が見てもルミちゃんは可愛いだよ。だからもっと映像に映してほしいんだけどなー。)
少し喜んでいるオサムがいた。
「そうなんですか。じゃあその子はいったい誰なんですか?」
「いいんですよ、店長は知らなくていいんです。それでは先に戻ります。」
再び西川が聞いてきたが、それには答えずオサムは席を立ってしまった。
(あぁ、あんな話ししちゃったから、またルミちゃんに会いたくなっちゃたよ。)
オサムは食べ終わった食器を片付けながらそんなことを思っていたが、会うと言っても当然のことながら、友達や知人に会うといったものではなく、一方的にオサムが見ているだけで、握手会などのイベントでもただのファンのひとりにしかすぎないのだ。
そんなことは当たり前の事だとオサム自身もわかってはいるのだが、それでもオサムはただルミといっしょの空間にいられるだけで満足できていたようだ。
そして午後の仕事のために売り場へ向かって行きながら変なことを考えていた。
(でも店長位の年齢の人だとルミちゃんの事知らないんだなー。まあ、当たり前か。でも店長若い子好きみたいなんだけどなー、アイドルとかには興味ないのかな? でもそれって逆に危なくないか?)
「いらっしゃいませ。ありがとうございました。」
オサムは店舗の入り口付近で客用のカゴを整理しながら、出入りしている客に向かって声を掛けていると、そのオサムの様子を少し離れた電柱の影から、よくドラマで見る探偵のように、身を隠しながら見ている小柄な少女の姿があった。
その少女は何かを確認すると店舗の入り口に足を進め、オサムの横を通って急ぎ足で店内へ入って行った。
オサムは特にその少女のことは気にも留めていなかったが、少女は店の中でも再び探偵の様に商品棚に身を隠すようにして、手に持ったカードのようなものと、オサムの顔を何度も見比べていたが、やがてニコッと笑い小さな声でつぶやいた。
「ビンゴ!」
「トン、トン、トン」
足音は売り場の商品棚の前に戻って作業をしていたオサムのすぐ背後で止まると、気配に気づいたオサムは振り返って条件反射的に声を掛けていた。
「いらっしゃいませ。」
そして続けざまに、店員のお決まりの言葉を発していると、足音の正体であった少女の姿を見た。
「お客様、何か御用でしょうか?」
(あー、若い女の子だ。うちのお客様には珍しいな・・・。あれもしかして店長の・・・。)
先ほど西川とした会話を思い出してそんなことを考えてしまうと、さらに様子をうかがおうとしていたのだが、その少女はサンングラスをしていた為、顔つきなどはがよくわからなかった。それでも小柄な
「いらっしゃいませ。」
オサムはあらたまって再び声を掛けると、少女の口からオサムの思ってもいない言葉が返ってきた。
「こんにちは。昨日の夜はありがとうございました。」
「えっ? 昨日の夜?・・・。何の事でしょうか?」
当然オサムは少女が言った言葉の意味を理解できずに戸惑っていると、再び少女が口を開いた。
「昨日は助けていただいてありがとうございました。」
ようやくオサムは少女が言った言葉の意味を理解して、昨夜のことを思い出していた。
「あぁ、昨日の夜、公園で追いかけられていた人ですね。」
「はい、そうです。昨日は本当にありがとうございました。ひと言会ってお礼が言いたくて。」
少女は可愛らしい声で答えた。
「わざわざお礼なんていいですよ。」
オサムも少女の言葉に答えていたのだが、何故かドキドキし始め、もじもじしてしまっていると、ふと疑問が湧き始めていた。
(あれ? 何で俺ってわかったんだ? それになんでここが分かったんだ?)
オサムは不思議そうな顔をして少女のことを見ていた。
すると少女はそのオサムの表情から察してか、さっき見ていた1枚のカードのようなものを。オサムの前に差し出してきた。
「これ。」
「あっ! それは・・・。」
それはまさにオサムの無くしたと思っていた社員証であった。
「はい! これを見て、スマホで検索して、やっとここにたどり着きました。」
サングラスで表情がよくはわからなかったが、口元から推測すると少女の顔は笑顔になっていたようで、それはオサムにも伝わっていたのだが、オサムの頭の中にはまだ”?”が残っていて反応が鈍かった。
すると少女はおもむろにサングラスを外して、深々と頭を下げてきた。
「あらためて、本当にありがとうございました。」
オサムは恐縮しながら、言葉を発しかけて動きを止めてしまった。
「そ、そんな・・・。」
なぜなら顔を上げたその少女はオサムの憧れの、あの”神宮ルミ”本人だった。
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