第2話 ヒーロー?

 オサムは仲間と別れて居酒屋を出てからも、飲んだお酒のせいもあってか気分がよく、いつも以上に上機嫌になっていてた。

 そしてひとりで酔いをましながら少しフラフラしながら夜道を歩いていた。


「それにしてもルミちゃん可愛かったなー! もっと、もっと真ん中に来ればいいのに! 何であんな隅っこの方ばかりにいるんだよ! あんな端っこじゃもったいないよ。もう、みんなわかってないなー!」

 オサムはルミがライブ中に端っこばかりにいることが、悔しくて、悔しくて仕方がなかったようで、酔っていたせいもあって、かなり大きな声で独り言を言いながらしばらく歩き公園近くまで来た時、


「キャー!」


 遠くから悲鳴のような声がオサムの耳に飛び込んできた。

 驚きながらその方向に目をやると、ぼんやりとだが夜の外灯に照らされた人影らしきものが結構なスピードで移動しているのが見えた。

「うん?」

 オサムは動揺してキョロキョロとまわりを見回した後、影の方向を目をこすりながら見てみるとひとつの影が先に走り、その影をふたつの影がを追っているように見え、それがどんどんオサムの方に向かって近づいて来くるのがわかった。

「な、な、なんだ? どうしたんだ?」

 オサムはさらに動揺してオドオドとしてるうちに、その先頭にいた影がオサムの近くまで到着していた。

「助けてください。お願いします!」

 その声はオサムの耳にもはっきりと聞こえ、その声の主が小柄な女性だということも認識できた。さらにその女性は足を進めてオサムのすぐ近くまで来ると、オサムもはっきりとその姿を確認でき、サングラスをしていたので顔はよくはわからなかったのだが、小柄な20はたちそこそこの少女のように見えていた。


「はぁはぁはぁ、助けてください。知らない人たちに絡まれちゃって、はぁはぁはぁ。」

 その少女はずいぶん長い距離を走ってきたようで、息を切らしながら言うと、すぐにオサムの後ろに身を隠すように身を縮めてきた。

「えっ、だ、大丈夫ですか。」

 オサムは驚きながらも後ろを振り向いて言っていたが、あっという間に後ろから追いかけてきていたふたつの影もオサムの目の前までたどり着いていて、それがふたり組の若い男であることをオサムも認識した。

 その男たちはオサムの目の前まで来るとすぐにそのうちのひとりが大きな声を上げた。

「なんだお前! 邪魔するな! そこどけ!」

 よくテレビドラマで聞くようなお決まりの台詞を凄んだ声で言ってくると、その声を聞いたオサムの後ろに隠れるようにしていた少女はさらに身を小さくして声も出せずに震えながらうずくまってしまった。

(どうしたらいいんだ。漫画やドラマの中ならかっこよくやからをやっつけて、めでたしめでたしといった結末になるんだけど、僕にはそんなことはできない。どうしよう。)

 オサムにも背中越しに少女が震えているのが伝わってきていたが、オサム自体も怯えて若干震えてしまい、どうすればいいのかわからず考えていると、そのすぐ直後に 鈍い音がした。

「ドンッ!」

 もうひとりの男がオサムの胸のあたりを正面から蹴り上げていた。

 オサムはなすすべも無く後ろに飛ばされ、そのまま受け身も取れずに転がり、後頭部を地面に思いっきりたたきつけてしまっていた。

(あっ、痛い! やっぱり何もできない・・・。)

 オサムは何もできない自分を情けなく思いながらも、頭を打った影響で意識が少しづつ薄れていく中どこからか大きな声を耳にしていた。

「お巡りさんこっちです。早く、早く。あそこです。」

 女性が長い距離叫びながら逃げていたのが良かったのか、その途中で悲鳴を聞いていた誰かが警察を呼んでくれていたようだ。


「なんだよ警察かよ。やばい、行くぞ。」

 そのふたり組は警官の姿を見ると、あっけなくその場所から逃げて行ってしまった。

(よかった・・・。助かった・・・。)

 オサムは意識が薄れていくなかその声を耳にして安堵していると、何か自分の近くで大きな声が聞こえてきた。

「大丈夫ですか? しっかりして下さい!」

 ぼんやりとだがオサムの顔をのぞき込んでいる少女の顔が見えていた。

(若い女の子だ・・・。)

 オサムはそれだけ確認すると、そのまま意識を失ってしまっていたのだが、ふたりの周りにはオサムが勢いよく倒れたことでバッグから色々なものが飛び出していて、物が散乱した状態になっていた。

 少女は何気なくその中の1枚のカードのようなものを拾い、大きな目でジーッと眺めていると、駆けつた警官がその少女とオサムの状態を確かめに近づいて来たのに気付いた。少女はそのカードのようなものを慌ててバッグの中にしまい込んむと、オサムがピクリとも動かないでいるのを再び確認して怖くなり震え出し、力なく後ろに倒れるように座り込んでしまった。


「お怪我はないですか?」

 女性の警察官が少女に近づき心配そうに尋てきた。

「はい、私は大丈夫です。でもあの人が。」

 少女は返事をするとすぐにオサムの方を心配そうに見つめた。

「今救急車が来ますからご安心ください。」

 女性の警察官が優しく言ってくれたことと、”救急車”という言葉を聞いて少し安心できたようで、全身の震えはおさまってきていた。


「少しお話を署の方でお聞かせください。」

 少女が落ち着いたのを確認すると女性警察官は再び声を掛けてきた。

 その言葉を聞き少女はゆっくりと立ちあがり支えられるようにしてパトカーにひとり乗り込むむと、さっきバッグにしまい込んだカードをまわりに気付かれないよう取り出して眺めていた。


(スーパーあずまや 武蔵台店 木村オサム)

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