第53話 初めての握手?
「大変お疲れ様でした。本当に素晴らしいライブでした。感動しました。それでは今日のイベントの成功と向日葵16の新しいスタートの成功に乾杯!」
西川が音頭を取ってイベントの打ち上げが開始されたのだが、ルミは手に持った紙コップを上にあげたままキョロキョロしてオサムを探していた。
(えっ、オサムさん何処? 何処にいるの?)
「ルミどうしたの?」
志桜里が何か落ち着かないルミを見て声を掛けると、寂しそうな顔をしながらも、ルミはストレートに答えた。
「オサムさんがいないんです。」
「オサムさん・・・? あー、木村さんね、そう言えば私も見てないかなー。」
志桜里も会場を見回すが確かにオサムの姿はどこにも無かった。
それでもまだキョロキョロ会場を見回しているルミを見て、志桜里もその場でキョロキョロと会場を見回しながら言った。
「ルミ、私が聞いてきてあげるよ、ちょっと待てな。 えーと・・・、いた!」
すると西川を見つけ声を出しながら向かっていこうとしていた。
「西川店長!」
「あっ、志桜里さん、いいんです・・・。」
ルミは志桜里を止めようとしたが、すでに志桜里は西川の元にたどり着いていて、そこで二言三言会話をすると、すぐに志桜里はルミの元に戻ってきていたが、その志桜里越しに見えた西川は何か物足りなそうな顔をしていた。
「木村さんは打ち上げに参加しないで、まだ会場の片づけしてるんだって、西川さんも後でいいから打ち上げに参加しなって言ったみたいなんだけど・・・。」
志桜里は西川から聞いたことをルミに伝えた後、志桜里はルミの顔をのぞき込むようにして少し語気を強めて言っていた。
「で、どうするの? ルミ!」
「えっ。どうするって? 何をですか?」
ルミは戸惑った顔をして志桜里に聞き返した。
「なんですかじゃないでしょ。それは自分で考えた方がいいんじゃない。それとも本当はもう決まってたりして・・・。」
志桜里は拳を自分の胸の辺りにあてて言った。
(そうでした。決まってました。)
ルミは大きくうなずいた。
「はい!」
そして大きな声で返事をすると、打ち上げ会場から勢いよく走り出して行った。
「はいはい、私だって応援してあげたいんだけどなー、でもなかなか難しい問題だね。私にはわかんないや・・・。」
そのルミの後ろ姿を見て志桜里は独り言をつぶやいた後、ゆっくりと打ち上げの輪の中に足を運んで行くと、すぐに西川が手に持った紙の皿に山ほどの食べ物をのせて志桜里に笑顔で手渡してきた。
「あ、ありがとうございます。」
おもわず志桜里は少しひきつった笑顔になってしまっていたので、その顔を見られない様に頭をさげていた。
「残った飲料は、またお店のバックヤードに戻しましょう。そこにあるやつで全部ですか?」
オサムが大きな声で指示して会場の撤収作業が続いていたが、店で用意した出店の物販は大盛況と言うこともあって残ったものも少なく、片づけはスムースに行われていた。
「よし、これで最後です。じゃあこれお願いしますね。」
オサムはそばにいたパートタイマーの男性に言うと、撤収作業をしていた者全員に向かって大きな声を掛けていた。
「それでは皆さんお店に戻って下さい。ありがとうございました!」
オサムは全員が会場からお店に向かって戻って行くのを見届けると、さっき迄大盛り上がりで華やかなライブの行われていたステージから一番遠い場所の観客席のひとつ残った椅子に腰かけ、ひとりぼんやりと誰もいない遠くのステージを眺めていた。
(ルミちゃん最高だったよ。最高にかっこよかった・・・。でもラブラブビームは・・・。)
少しの間オサムはその場所に座り続けていたが、しばらくして立ち上がりステージに背を向け椅子をたたんで手に持ち、店の方へ向かって歩き出した。
「次の方どうぞ!」
誰かの声がオサムの後方からに聞こえてきて、オサムは振り返ると確かに誰かがステージ上で叫んでいたようだが、距離があってオサムにはよく見えなかった。
オサムは椅子を置き少しステージに近づいて行くと、今度はさっきよりはっきりと声が聞こえた。
「次の方どうぞ!」
(えっ、どういうこと?)
オサムはさらにステージに近づいて行くと、今度は今までで一番はっきりとした声がオサムの耳に届いてきた。
「次の方どうぞ、聞こえてますか?」
慌ててステージ前まで行くと、オサムにもその声の主がわかった様だ。
(えっ・・・。)
「次の方どうぞ、もう何やってるんですか? 早く上がってきてください。」
ステージ上には大きな声を出している少しすねた顔をしたルミの姿があった。
「ルミちゃんどうしたの? 打ち上げは?」
オサムは驚きながらステージ上のルミを見上げた。
「いいから早くステージの上に上がってきてください。」
ルミが手招きをすると、オサムはいわれるがまま何かどたばたとステージに上がり、ルミの前に立った。
「こんにちは。」
するとルミは手を差し出してきたので、オサムは困惑してしまったようだ。
「えっ? 何?」
「握手会ですよ。この前握手できなかったから、握手しましょう。」
ルミはいつもの笑顔でオサムに言うと、オサムもルミの声に反応して、少しもじもじしながらも手をのばし、いつもの握手会の要領でと言いたいところだが、オサムは握手会でまともに握手出来たことがなかったので、初めてふたりはしっかりと握手をしていた。
「こ、こ、こんにちは。」
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